国内最大級のクラウドファンディングサービス
「CAMPFIRE」の創業者、
家入一真さんに、糸井重里が会いに行きました。
「現代の駆け込み寺」を目指すシェアハウス「リバ邸」や、
誰でも簡単にネットショップを開設できる
「BASE」の共同創設など、
「CAMPFIRE」以外にも
次々とユニークなサービスを生み出し続ける家入さん。
「ちょっと、近いところがあると思っていました」
そんな糸井の言葉から始まった対談は、
さまざまなアイデアをかたちにしてきた、
ふたりの「社長」の言葉が交わされます。
共鳴し合うのかと思いきや、
じわじわと浮かび上がる、「まるで違う部分」。
まさにそこにこそ「家入さんの根っこ」が待っていて、
とても面白いのです。
「絶対うまくいかない」と、
「それ、お前にしかわかんないよ」と、
何度も言われながら、ここまでやってきた。
全5回でお届けします。
家入一真(いえいりかずま)
1978年生まれ。国内最大級のクラウドファンディングサービス、CAMPFIREの創業者。「paperboy&co.」創業、「BASE」共同創業、「リバ邸」創設など、数々の事業を手掛ける連続起業家でもある。2014年には政治団体「インターネッ党」を立ち上げ、都知事選に出馬したことも。
- 糸井
- 「あのときの自分」に対して
サービスを出しつづけているというのは、面白いなあ。
あの、僕は今俳句にすごく興味があって、
いろいろと勉強をしているんですけど、
俳句って「これは誰もが思うよね」ってことを書いちゃうと、
「平凡だ」と言われるわけですよ。
- 家入
- はい。
- 糸井
- 当たり前のことのように聞こえるかもしれないんですけど、
今の世の中が「マーケティング」で
やってることもじつはこれと同じで、
「みんながみんな思ってるようなこと」を調査して、
「はい、みんなこれ大好きですよね」
ってことをやってるわけですよね。
だから今って、俳句的にいうとある意味、
「凡庸なもの」ばかりが生まれてるんですよ。
- 家入
- ああ、たしかに。
- 糸井
- でも、だからと言って、
「これなら誰もやらないだろう」という俳句を無理に作ると、
今度は「それ、お前にしかわかんないよ」と言われる。
「お前以外、通じないよ」と。
- 家入
- はい、よくわかります(笑)。
- 糸井
- でも、いろんな俳句を見ていると、
素晴らしい俳句というのはやっぱり、
「通じない」でもなければ「凡庸」でもないんですよ。
つまり、「ベタだ」とか「平凡だ」とか言われてるものと、
「そんなのお前にしかわかんないよ」の真ん中に、
「いいねえ」があるんです。
- 家入
- いや、そうかあ。なるほど、面白い。
- 糸井
- 今は僕、そういう
「みんなに通じるけど」「平凡じゃない」俳句を、
まったく作れない自分に、すごく興味があるんです。
昔、「萬流コピー塾」というものをやっていたときは、
僕がいいコピーを選んで松竹梅をつけてたんですけど、
それはたしかに、選ぶ自信があったんです。
でも、俳句になったら急にできなくなった。 - その理由を考えてみたんですけど、
広告と俳句のいちばん大きな違いって、
「俳句には、目的がない」というところだと思うんですよね。
広告には、「これについて宣伝をする」という
明確な目的があるんですけど、俳句は目的なんてなくて、
「なんでつくるんだろう」ってところから始まるわけで。 - たとえば、
「夏になったなあ」と思う気持ちが心に生まれて、
「何によってそれを感じたのか」が俳句になるんですけど、
それは宣伝じゃないじゃないですか。
ただ、つくってみたかったから、つくる。それだけというか。
「目的もないのにつくってどうすんの」
と言われるのが今の世の中ですけど、
「表現」って、本当はそういうものですよね。
「俺、こんなのやってみたんだよ」で何かをつくって、
「いいね!」と言われたらそれでオッケーで。
そっちのほうが楽しいんですよ、きっとね。
- 家入
- そうですね、たしかに。
- 糸井
- だから、目的もないのにやってしまいたくなるような
「お前にしかわかんないもの」が混ざっていることは、
じつはすごく大切なことで、
その「お前にしかわかんないよ」に近いところを、
たぶん家入さんは探してきたんだと思うし、
だからみんな家入さんから
「わけのわかんなさ」を感じるんだと思うんです。
僕の『インターネット的』なんかも、
「まだうまく言えないんだけど、
今の時点ではここまで言えるんだよね」というところを、
無理して書いた感じで。
- 家入
- ああー、なるほど。
- 糸井
- ただ一方で、あんまり「個人の思いは全部素晴らしい」
みたいなことを言いすぎると、
世の中は寂しくなってしまうと僕は思うんですよ。
- 家入
- 「寂しくなる」?
- 糸井
- 一人ぼっちになるんですよ。
みんながみんな「俺の歌を聞け」って言うようになると。
- 家入
- ああ‥‥。
「1億総表現者」みたいな世界がほんとの意味で到来して、
みんなが「俺の歌を聞け」って言ってる状態になると、
全員表現者にはなれるかもしれないけど、
誰にも受け取ってもらえない世の中になるというか。
- 糸井
- そう。それは、つまんないですよね。
表現の源となる井戸は、
その人が「生きてきたこと」にあるわけで、
やっぱり、生きてきたなかで吸い込んできたものが
地下水まであるような人のふと言った一言が、
「ああ、いいなあ」と思わせるじゃないですか。
水源はあくまでも「生きてきたことそのもの」なんで、
たいして生きてない人が「俺の水を飲め」って言っても、
その井戸はすぐに枯れてしまうんですよ。
そういうものが1億あったとしても、
やがてみんなで飢え死にして終わりですよね。 - なんで、今僕は、
1億の個人が一時的に「俺の歌を聞いてもらった」と言って
またしぼんでいってしまうより、
「人と力を合わせてやっていく」という方向に
興味があるんですけど、
そのときに最近頭に思い浮かぶのが、「地方」なんですよね。
- 家入
- おお。
- 糸井
- いろんな人が力合わせて、価値のある場所を
あちこち行ったり来たりするみたいな、
そういうことに興味があるんです。 - 家入さんが生活の拠点を軽井沢に移したみたいに、
僕も今地方にかなり興味を持っていて、僕の場合それは、
「東京の土地の値段」みたいなものから脱したいんです。
ロッカーを借りるのに月何万払うって、
やっぱりヘンなことだよなと思って。
地方に視点を移せば、
なんなら「いいよ、あげるよ」っていうような
土地だってあるわけで、
「東京の土地の値段」に縛られなければ、
もっといろんなことに
挑戦できるんじゃないかと思うんですよ。
- 家入
- ああ、なるほど。ほんとですよね。
あの、最近は僕ももう、首都圏じゃなくて
地方を飛び回ったりしているんです。
例えば北海道の道東、釧路から東のあたりなんかは、
1つひとつの村や町が
「23区ぐらいの大きさ」なんですけど、
人口は2千人ぐらいしかいなくて
すごい勢いで減っていて。
そこに今、どんどん若い子が移住して
新しいプロジェクトを立ち上げまくってるんですよね。
香川県の三豊っていうエリアあたりもそうなんですけど、
みんな本当に元気がよくて、
魅力的なプロジェクトが、今、
日本中のいろんなところで盛り上がってきてて。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 家入
- それを見ていてやっぱり思うのは、
これまで地方って「何もないじゃん」って
言われてきましたけど、
むしろその「何もない」ということが
魅力として輝き始めてるのを感じるんですよね。
これまでの観光のセオリーになるような、
わかりやすい「観光名所」みたいな
魅力はないのかもしれないけど、
そういったものとは全く違った魅力の原石みたいなものが、
たくさん足元にあって。
しかもそれは、長年そこに住んでいる人からは
見えなかったりもするんですよね。
- 糸井
- ねえ、そうですよねえ。
- 家入
- 外から来た人が
「え、これなんで捨ててるの」みたいなものを
拾い上げて輝かせる、みたいなことも含めて、
地域から新しいものが生まれていくっていうのは、
僕も強く感じています。
- 糸井
- 地方が、場所があるのに、
それが死んでる理由ってなんだろうと思ったら、
やっぱり「コンテンツがないこと」なんですよね。
クリエイティブと言ってもいいんだけど。
そこに温泉が出たら、意味が変わるわけです。
もちろん、
「出たところでなんにもなんなかった温泉」も
山ほどあるんですけど、
たとえば湯布院にしたって、
何代目かの人たちがヨーロッパに見学に行って、
「ああいうことやりたいね」と考えて
今みたいな人気につながっていったわけで、
あれもやっぱり温泉という「コンテンツ」に
アイデアをのせてできたんですよね。
そういうことに今、とても興味が出てきています。