NHKキャラクターの「どーもくん」や
コマ撮りするねこ『こまねこ』、
Netflixの『リラックマと遊園地』など、
たくさんのキャラクターや
コンテンツを生み出しきたdwarfさん。
最近では、木彫人形のコマ撮りアニメ
『HIDARI』もカッコよかったなあ。
そんなdwarfさんが、めでたく20周年!
ということで、これまでの歩みを、
代表の合田さん&松本さんに
たーっぷりと、語っていただきました。
渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」では、
『こまねこ』最新作の公開制作展も
絶賛開催中なので、そっちもぜひとも。
担当は「ほぼ日」の奥野です。

>合田経郎さんのプロフィール

合田経郎 プロフィール画像

合田経郎(ごうだつねお)

1967年東京生まれ。1987年日本映画学校(現日本映画大学)卒業後、CMディレクターとしてキャリアを積む。1998年、『どーもくん』がNHK-BSのキャラクターに採用されたことを機に、アニメーション作家へと転身。2003年にはドワーフを立ち上げる。『こまねこ』などコマ撮り作品やキャラクターデザインを手がける傍ら、イラストレーション、絵本の執筆など多岐に渡る創作活動を行う。2011年サンディエゴのコミコンでインクポッド賞を受賞。

>松本紀子さんのプロフィール

松本紀子 プロフィール画像

松本紀子(まつもとのりこ)

合田経郎と共にドワーフ代表を務める。CM業界からキャリアをスタートし、どーもくん、こまねこの誕生を機に活動のフィールドをキャラクター/アニメーション業界へ移し、2003年、ドワーフ設立に参加。日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始め、2016年に「こまねこ」がAmazon prime video original のパイロットシーズンに採用され、Netflixシリーズ「リラックマとカオルさん(2019)」が話題に。昨年、シリーズ第2作「リラックマと遊園地」がリリースされた。
ストップモーションを中心に、ドワーフだけでなく国内外のスタッフやスタジオとのコラボレーションも積極的に進めている。最新作はパイロット版でありながら、コマ撮り作品の常識を凌駕していると話題のThe Stop-Motion Samurai Film、「HIDARI」。

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第3回 動かす人たちの、すごさ。

──
ご自身のつくったキャラクターが動くって、
相当な衝撃なんですね。
心臓がバクバクして、
そこにいたら「死んじゃう!」‥‥なんて。
合田
自分は監督で、実際に動かしてくれるのは
アニメーターなので、
ワンクッション挟まってるから余計に
そう感じるのかなとは思ったりしますけど。
──
死んじゃう‥‥で思い出したんですが、
ぼくが文楽を見ていて震えるのは、
登場人物が「死んだとき」なんです。
つまり、死んだときって、
人形が「置きっぱなしになる」んですよ。
人形遣いさんもいなくなって、
ただそこに、モノみたいに置かれている。
そのさまが
「絶対にもう、死んじゃった感じがする」
んです。
松本
そう! そうなんです、そうなんです。
わかります。
コマ撮りでも、まったく同じですから。

──
あ、ホントですか?
松本
ええ、だから「寝ているシーン」とかも、
微妙に動かしておく必要があるんです。
寝ているときこそ、少しは動かさないと、
死んだようになっちゃう‥‥って峰岸も。
──
つまり、息をしてる感じを出すとか?
おなかを微かに動かしたりして。
松本
そう。最初、プロデューサー的には
「えー? それいる?」って思ったんですが、
でも、やっぱり「いる」んですよね。
──
かすかでも「生きている」という表現が必要。
松本
それに写真でも、アニメーターが、きちっと
ポージングした人形は「生きている」んです。
素人が、見様見真似で適当にポージングして
撮影したとしても、
ただの人形にしか見えない。不思議なことに。
──
アニメーターとは、まさに生命を吹き込む人。
合田
そうなんです。
松本
だって、めっちゃ怒られたもんね! 峰岸に。
いちばんはじめのどーもくんのときですけど、
ようやく撮影が終わって
「おつかれさまー」って峰岸が帰ったあと、
「あ、写真、撮ってない!」って。
合田が「うさじい」をポージングしたんです。
腕を組んだ写真を撮って、
あとから見たら、
何だか‥‥腕がゆるゆるなんですよ(笑)。
それを峰岸に見つかって、
もうね、すっごいどやしつけられたんだよね。
──
峰岸さん、にこやかな印象があるだけに‥‥
怒ったら怖そう(笑)。勝手な印象です。
松本
で、あらためて峰岸が腕を組ませて撮った
「うさじい」は、ぜんぜんちがう。
腕を組んで「ムム」ってうなってる感じが、
もう、自然に出ていたんです。
合田やわたしが
それっぽくやっただけだと、
腕がからんだだけみたいになっちゃうのに。
──
不思議ですねえ。何度も言うけど。
松本
だから、アニメーターの手って何なんだろう、
すごいなあって思います、いつも。
──
置きっぱなしにしたら
完全にたましいが抜けたようになってしまう
「人形」というものに、
生命を吹き込むアニメーターさんの、すごさ。
とにかく、人間が死んでる演技をする場合は、
実際は生きてるのが前提ですけど、
人形の場合は「完全に死んだ」って気がする。
それで心を打たれてしまうのかなあ‥‥とか。
松本
生きてるようにも、死んでるようにも見える。
それが人形の不思議さなんですよね。
──
まさに「人間と神さまの中間的な存在」だ。
合田
生きてる所作っていろいろあるじゃないですか。
手の角度、首の傾げ方、視線の方向‥‥
いろんな所作で「ああ、泣いているんだ」とか、
「悔しがっているんだ」とか、伝わってくる。
涙が出るわけでも、手をグーにできるわけでも、
表情が劇的に変わるわけでもないのに、
ちょっとした所作で感情がわかるっていうのは、
たしかに、すごいことですよね。

──
本当に。魔法みたい。
合田
ポージングも含めた「人形の演技」には、
コマ撮りのアニメーターと、
文楽の人形遣いと、
あと、人形操演の人なんかとで、
いろいろ共通するものがあるんじゃないかな。
──
人形操演の第一人者の山田はるかさんという、
お好きな人なら
「ああ、あれは山田さんが動かしているな!」
なんてわかるほどのすごい方ですけど、
以前インタビューしたとき
共感する力が半端ないんだなあと思いました。
そのとき動かしているキャラクターが、
「入ってきちゃう」そうです。
お料理屋さんの生け簀とか生魚とかを見ると、
「泣いちゃう」とも言ってました。
松本
はぁ‥‥「自分になっちゃう」ってことか。
──
ひとつの「役者」のかたちなんだな、と。
松本
アニメーターの場合は、どうなんだろうね。
合田
たしかに「演者」でもありつつ‥‥でも、
画面全体のなかでどう見せるか、
そこを考える演出家でもある気がします。
コマ撮りのアニメーターの場合は。
松本
でね、ひとつ言っときたいんですが、
合田の人形って、動かすのが難しいんですよ。
さっき、グーが出来ないじゃないですかって、
言ってましたけど、
グーのできない人形をデザインしているのは、
そもそも合田なんです。
──
あー(笑)。
松本
どーもくんにしても口は開けっぱなしだわ、
白目もないわで、
表現の「幅」のめちゃくちゃせまい人形に、
感情表現を要求してるんです。
──
それはつまり、峰岸さんをはじめ
dwarfのアニメーターさんの技術の高さ、
ということでもありますね。
松本
絵コンテでは、どーもが帽子を取る場面が
描いてあったりするんだけど、
「手、頭に届かないけど!」って(笑)。
そういった動かす上での制限というものが、
合田のキャラクターには、多い。
コマ撮りアニメの教則本を読むと
「こういうキャラクターはよくないですよ」
という例が載ってるんです、
「顔や頭が大きくて、手足が短くて‥‥」。
──
それって(笑)。
松本
そう、身体のバランスの悪い人形は
動かしづらいし、表現しにくいんですと
だいたい書いてあるんだけど、
「これぜんぶウチのキャラクターやん!」
──
でも、セオリーにのっとっていない
人形のコマ撮りを開拓していったからこそ、
独自の表現になっているんですかね。
松本
そうかもしれません。
──
動かしにくい人形を動かしてるんだから、
他と違うものになりますもんね。
合田
まあ‥‥わりと自分がむちゃぶりをして、
峰岸さんが答える‥‥
みたいなケースが多い気はしますね。
身体は大きくは動かないから、
細かな「まばたき」で表現してみたりね。
松本
そうそう、ちょっと表情を変えるだけで、
すごく感情が伝わってくるんです。
それはね、見ててすごいなと思いました。
──
たしかにdwarfさんのコマ撮りアニメは、
まずは「感情」が伝わってきます。
松本
2Dのアニメにくらべたら、
いろいろ不自由で制約も多いんですけど、
そのなかでの最大限の動きと
細かな表現とで、
うれしさや悲しみを表現できているのは、
うちのコマ撮りならではかなと思います。

(つづきます)

撮影:福冨ちはる

2023-06-17-SAT

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  • インタビューでも触れられていますが、
    コマ撮りするねこ「こまねこ」の第1作
    『こまねこ はじめのいっぽ』は
    いまから20年前、恵比寿にある
    東京都写真美術館の公開制作の場で
    おぎゃあとうまれました。
    その誕生から20年にあたる節目の今年、
    「こまねこ」の最新話
    『こまねこのかいがいりょこう』が
    渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で
    公開制作によってつくられているんです。
    写真24カットでようやく1秒、
    「丸一日、作業してたった4秒半」
    みたいな、緻密で膨大で、
    奇跡のようなクリエイションの現場を、
    穴からのぞき見ることができますよ。
    会期は2023年6月25日(日)まで。
    毎週、月・木は公開制作はお休みですが、
    本物の人形や作品の絵コンテなど、
    他の展示は、ごらんいただけます。
    かわいい喫茶店も、オープンしています!
    ぜひ、足をお運びください。
    詳しいことは、公式サイトでご確認を。

    dwarf 20th Greeting movie