ジャルジャルとほぼ日のご縁は長く、
2007年に初登場されてから、
もう16年ほどのお付き合いになります。
糸井重里はその頃からのファンなのですが、
ご本人たちとしっかり話したことは、
じつはこれまでほとんどなかったそうです。
今回、ジャルジャルの福徳さんが
短編小説集を出版されるということで、
その本をきっかけに対談することになりました。
「ほんまにふつうの人間なんです」と、
何度もはにかみながら話す福徳さん。
いわゆるお笑いモードをオフにした、
いたってまじめな対談なのですが、
ずーっとじわじわおもしろいです。
短編集のこと、コントのこと、
そして相方・後藤さんのことも。
ふつうの福徳さんが率直に、正直に語ります。
福徳秀介（ふくとく・しゅうすけ）
お笑い芸人。
1983年生まれ、兵庫県出身。
関西大学文学部卒。
同じ高校の後藤淳平と
2003年にお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。
ＴＶ・ラジオ・舞台・YouTube等で活躍。
キングオブコント2020優勝。
福徳さんの単独活動として、
絵本『まくらのまーくん』は
第14回タリーズピクチャーブックアワード大賞を受賞。
そのほか著書に、絵本『なかよしっぱな』、
長編小説
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』がある。
- 糸井
- 後藤さんとは、
ふだん遊んだりするんですか。
- 福徳
- ぼくらはしないんです。
- 糸井
- それはしないんですね。
- 福徳
- なので仲いいかと言われると、
これまた難しい話ですね。
ふだんしゃべることもほとんどないので。
- 糸井
- 映画観たとか、本読んだとか、
そういう会話はあるんですか。
ネタの材料みたいなことで。
- 福徳
- ないです（笑）。
- 糸井
- 美しいですね（笑）。
- 福徳
- ちょっと前は家が近かったので
偶然会うこともあったんです。
さすがに同じ歩道ですれ違うときは
「うぃーす」ぐらいは言うんですけど、
歩道の反対側にいるときは、
わざわざ「おーい！」とは言わないです。
そこはもうスルー。
細めの車道でもスルーです、それは。
- 糸井
- 細めの車道（笑）。
前にそういう場所ですれ違ったんだね。
- 福徳
- そのとおりです。
- 糸井
- で、そのときに判断したんですね。
どっちにするか。
- 福徳
- 判断しました。
まあええか、気づかんふりでって。
お互いそうやったんですけど。
- 糸井
- たまたま判断しちゃって、
これだなって決めたってことなんでしょうね。
この小説の中で起こってるようなことを、
絶えずじぶんもしているわけだ。
- 福徳
- そうですね（笑）。
お互いに車に乗ってて、
すれ違うこともけっこうあるんです。
そのときもわざわざ挨拶はせえへん。
もし向こうに奥さんが乗ってたら、
ちょっと目で挨拶とかはやりますけど。
- 糸井
- 奥さんにね。
- 福徳
- でも瞬間的にひとりってわかったら、
そこはスルーですね。
- 糸井
- 徹底してますね。
- 福徳
- 信号待ちで横並びになったことあって、
パッて横見たら後藤おる。
そんときは後藤が前向いてたんで、
ええわと思って前向きなおしたら、
視界の隅で後藤がこっち向いてるのが
なんとなくわかったんですけど、
ぼくも横向くことなくお互い気づかんふり（笑）。
- 糸井
- そこまで通せるのはすごいね（笑）。
- 福徳
- まあ、明日も会うしみたいな。
さすがにふたりでしかできない無視ですけど。
- 糸井
- できないと思いますね。
プロ中のプロですね。
- 福徳
- 「ああ、無視したかぁ」とか思いながら、
でもそれが謎にうれしかったり。
- 糸井
- 相方ってことばがピッタリくるんだけど、
そんな相手がいたら楽しいでしょうね。
仕事でも一緒で、メシの種でもあって、
関係としては理想ですね。
- 福徳
- それはほんまラッキーですね。
- 糸井
- 小説の中だと、
その関係を異性に求める場合があって。
主人公が男の子だったら、
それくらい息のあう女の子を探すことも、
青春のときにはあるじゃないですか。
実際、そこを諦める人は多いと思いますけど。
そのへんはどうなんですか。
- 福徳
- 息のあう、うーん、諦めないですね。
- 糸井
- ということは、
いまご家族になられてる方は、
息のあう女の子だったわけですね。
- 福徳
- それはもうバッチリでした。
- 糸井
- あなた、幸せダブルですね！
- 福徳
- （笑）
- 糸井
- サーティワンのアイスだったら、
重ねすぎて倒れてますよ。
- 福徳
- でも、いまの奥さんですけど、
ほんとに会った瞬間、
あー、結婚しそうと思ったんです。
「うーわ、面倒くせえ！」って。
- 糸井
- 結婚しそうだぞと。
- 福徳
- 「うわっ、ヤッバ！」と思って。
それはめっちゃ好きとかじゃなくて。
- 糸井
- わかる、わかる。
- 福徳
- 結婚しそうーと思っちゃって。
うーわっ、面倒くさ、どうしよって。
そのとき結婚願望がなかったんで、
とりあえず会わんとこうと。
すごい結婚しそうな雰囲気やったんで、ぼくと。
もう見た瞬間、うーわと思って。
- 糸井
- 好きとかじゃなくてね。
- 福徳
- じゃなくて。
だから会わんようにしてました、最初は。
でも結局、ひょんなことから
やっぱり会うことになってしまって。
で、気ついたら結婚してましたね。
- 糸井
- おそらくそのケースでは、
さすがに向こうもそう思ったんでしょうね。
- 福徳
- どうなんですかね。
向こうの気持ちはわからないですけど。
- 糸井
- 聞いたことはないんですか？
- 福徳
- ないですね。
ぼくは言うたんですよ、本人に。
結婚してから。
- 糸井
- 結婚しそうに思ったって。
- 福徳
- するって決まってからですけど。
でも、ぼくは言ったけど、
向こうはとくに何も言わなかったんで、
ああ、聞くべきじゃないなと。
- 糸井
- 向こうが何も言わないっていうのも、
なんか好みですね（笑）。
- 福徳
- はははは。
- 糸井
- おそらく「私は‥‥」って言われたら、
この話はそこで終わりですもんね。
何も言わないというのは最高ですね。
- 福徳
- ぼくもそう思いながら、
だから触れるべきじゃないなって。
いつか聞ける話なんかなとか思いながら、
じつはなんにもないんかなって（笑）。
- 糸井
- 死ぬ前に、
「あ、いけね、聞きそこなった」
っていうのもおもしろいし、
全部忘れててもおもしろいし。
- 福徳
- おもしろいですね。
- 糸井
- 同性で仲がいいっていうよりも、
仲がいい異性がいたら、
それが理想だろうなっていうのは、
マンガ家が描こうとする女の子ですよね。
- 福徳
- あー、なるほど。
- 糸井
- たぶんふつうの男の子たちも、
青春時代には憧れたり好きだって思うほかに、
ものすごくじゃれ合える異性がいたら、
じぶんをもっと解放できそうだし、
楽しそうだなって思うんだけど、
それは無理だって気づかされるわけで。
でも、それを突破しちゃったんだ。
- 福徳
- 突破しちゃいましたね。
- 糸井
- 家ではそういう人がいて、
仕事現場では相方が回転扉をやってて。
- 福徳
- はい（笑）。
- 糸井
- もう全部よろこばれてますね。
- 福徳
- それはもう、ラッキーでしたね。
ラッキーですね、ほんとに。
（つづきます）
2023-11-09-THU
-
この対談の中でも話されていましたが、
お笑い芸人としてではなく、
作家・福徳秀介として書いた、
本気の青春短編小説集が発売されました。ひとつひとつの物語は短く、
１話５分もあれば読めるものばかり。
それだけに切り口や設定はシャープで、
日常のなんでもないシーンなのに、
人物の着眼点やセリフ運びは、
まるでジャルジャルのコントのように、
キラッと光るアイデアが凝縮されています。初回限定で、カバーは2種類。
それぞれのカバーの裏には、
別々の特典短編が載っています。
限定版のカバー裏小説
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