一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>Yosca Maeda(mae)さんのプロフィール

Yosca Maeda(ヨスカ・マエダ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。
2024年12月より活動名を
maeからYosca Maedaに変更。

前へ目次ページへ次へ

04 優しくて、あたたかいもの

 
こんにちは。maeです。

 
前回までで、
ざっくりとしたイメージを考えました。
ここでひとつ、ふぅーと深呼吸。
このあとが、勇気のいるステップです。
下描きをしているときは気が楽でしたが、
ここから線をととのえていこうとすると、
「はたしてこれはいい絵になるのだろうか‥‥?」と、
急に不安な気持ちでいっぱいになってきます。
何に例えたらいいのか難しいんですが、
いままでが旅の支度で、
ここからが船出という感じに近いかもしれません。
わくわくしながら荷造りしてきて、
いざ海へ出るとすごい荒波で、
己の無力さを思い知るような‥‥。
その荒波は自身の未熟さや、
「いい絵にならなかったらどうしよう」
というプレッシャーなのかもしれません。
なんでいい絵にしたいんだろう。
いい絵って何なんだろう。
それも今回、描きながら
あらためて考えてみたいと思います。
ここからは、漕いでいくしかありません。
完成に向けて地道に進めていきたいと思います。
とりあえず、描きたくなった場所から
順にはじめてみます。
線の形やバランス、遠近感を整えながら。
 
窓ガラス、給水タンク、パイプ、アンテナ、
壁面のよごれなどをひとつずつ描いていくと、
だんだんその建物の呼吸が
感じられるようになってきました。
とくにぼくは給水タンクを描くのが好きで、
過去の絵にもたびたび登場しています。

 『Undertone』2023年制作 (270 x 270 pix) 『Undertone』2023年制作 (270 x 270 pix)

 
屋上でぽやんとしている給水タンクを見ると、
なんだか心が安らぎますよね。
色や形や大きさからも、なんだか優しさを感じます。
多分そんなところが好きで、
ついつい絵の中に
描いてしまうことが多いんだと思います。
自分が「優しいな」「あたたかいな」と
思うものが絵の中に
散りばめられているのかもしれません。

 
描き進めながらなんとなく出てきたんですが、
「犬」シール、ときどき玄関に
たくさん貼ってある家があります。
「犬がいるんだなあ」くらいで
あまり気にしたことがありませんでしたが、
これもその家の犬が生きてきた証のように見てみると、
優しくてあたたかい。
さっそく取り入れてみることにしました。
こんなふうな何気ない発見をすると、
描くのが楽しくなってきます。
「犬」シールでわくわくしている状況、
ちょっと奇妙に思いますよね‥‥。
絵を描いていくことで、
自分について知ることも多いです。
今回はこのあたりまでにしたいと思います。
また来週もよろしくお願いします。

(つづきます)

2024-06-06-THU

前へ目次ページへ次へ
  •