一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>maeさんのプロフィール

mae(まえ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。

前へ目次ページへ次へ

06 しるべの灯台

 
こんにちは、maeです。
ジメジメした季節になってきましたね。
前回につづき、
近景を描くところからのスタートです。
 
あーちゃん(祖母)の家、そして、
お向かいさんの家の土台ができてきました。
陰影の具合を見るために、ところどころ仮の仮、
そのまた仮の色も付けていきます。
こんな季節だからなのか、
今回は窓やヒサシを描きながら、
「てるてるぼうずがぶら下がってるのもいいな」と、
ふと思いました。
(そういえば、最近ぶら下がってるのを
めっきり見なくなった気がします。
いまの子どもたちはあまり作らないのかな)
そこから連想して、
「いっそ場面を雨上がりってことに
するのもいいかもしれない」と浮かんできます。
カラッと晴れた感じも捨てがたいなぁと悩みながら、
どちらにしようかまだ考え中です。
どちらにしても、描きたいのは晴れている様子です。
こんなふうに、ひとつひとつ
描いては想像しての連続が絵になっていきます。

 
奥のほうを描いていくと、
どんな風になっていくのか楽しみです。
そういえば最近よく考えるのですが、
絵は、完成するまでどんなものになるかわからないし、
完成したとしてもそれが
何であるのかが明確ではありません。
それが絵のよいところでもあるのですが、
そういうものに生活を乗せるというのは、
けっこう心の力のようなものを使います。
大げさかもしれませんが、
自分が描き出す世界を自分自身で
最後まで信じるのは覚悟のいることです。
実情、ぼくは気弱な人間なので、
ときどきそういう負荷に耐えきれなくなって
起き上がれなくなる日や、
どうしていいか分からなくなる日があります。
そんなときは尊敬する人たちを思い浮かべて、
「こういうとき、あの人ならどうするだろうな」と
よく考えたりします。
父母ならどうするだろう?
あーちゃんなら、じーじーなら、
川崎のおばあちゃんならどうするだろう?
さくらももこさんなら、糸井重里さんなら、
忌野清志郎さんなら、オードリーなら、
志村正彦さんなら、宮沢賢治なら、岡本太郎なら‥‥。
他にもたくさんの人が心の中にいて、
呼ぶとほわんと出てきてくれます。
みんな同じ人間ということを思えば、
どこかだらしなかったり、
失敗したことも語られていないだけで、
きっとたくさんあると思います。(勝手にすみません)
でも重要なのは、いろいろな側面をひっくるめて、
そういう人たちがぼくに見せてくれた姿が、
なんだかあたたかくて、やさしくて、
おもしろくて、強く感じたということです。
そのイメージが、ぼくが困ったときに、
灯台のようにポウッと
道を示してくれることがあります。
ぜんぶ想像の中のことですが、
それで自分が動けたのなら本当のことです。
そんなふうにいつか自分も、
誰かにとっての火になれるかな。
いや、それにしてはいろいろ未熟すぎるな‥‥。
と思いながらも、見せる姿だけでも、
まずはあたたかくありたいです。
いろんなものにあやまりながら、
いろんなものに感謝しながら、
どんなかたちでも続く日々を一歩ずつ。
来週もまたよろしくお願いします。

(つづきます)

2024-06-20-THU

前へ目次ページへ次へ
  •