一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>maeさんのプロフィール

mae(まえ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。

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08 上を向いて歩こう

 
こんにちは、maeです。
今回は「さて、仕上げていくか〜!」という回です。
これまでのように仮ではなく、
本番の「描き」をします。
少しずつ絵の完成形が姿をあらわしてきますよ。
そういえばここまで、
特に技という技もないまま描いてきた気がします。
迷いながら、考えながら、地道にやっているので、
じつは毎回奇跡的に絵ができあがるような気持ちです。
技術は行き当たりばったりで、
精神で描いているんだなぁと、
これまでの記事を思い返してみても思います。
もっとプロセスの効率化をはかったほうが
いいんだろうなと思いながらも、
こんな素人らしさがいい味を出している部分も、
きっとあるのではないか‥‥と信じて。
 
遠くにそびえ立つ建物と、
近景を塗り進めていきました。
ひとつのものを、
だいたい3〜4色くらいで描いています。
これまでの部分と比べて質感がぐっと変わりました。
次回は家々も描いていきたいと思います。

 
あ、いつの間にか絵の右下に
ペットボトルが描いてありますね。
そういえば、ときどきペットボトルに水を入れて
電柱や植物の側に置いてるのを見かけるけど、
アレはなんなんだろう、と思ったのがきっかけです。
調べてみたところ、
アレは「ネコよけ」だそうで、
さらに調べると「ネコよけ」としての効果は
全然果たしてないそうです。
キラキラ反射する水の光に、
ネコたちはすぐに慣れてしまうみたいです。
その無意味な攻防がなんとも愛しいなと思ったので、
絵の中に描き加えました。
いま描いている絵は、
玄関先にあるものの愛おしさについての発見が
たくさんあります。
そういうものを「いいなぁ」と思えているとき、
心はとてもやわらかいです。
一方で、勝つとか負けるとか、成功とか失敗とか、
世の中はそういうものばかりです。
そうやって心を尖らせて競う社会の構造があります。
そういうものの中からはじき出されて、
一人ぽっちになってしまった人のためにこそ、
絵を描いていたいという思いもあります。
もしかしたら自分の絵は、
「一人ぽっち同士、なんとかやっていこうね」
というボトルメールのようなものなのかも。
今回もお読みいただきありがとうございました。
また次回もお待ちしています。

(つづきます)

2024-07-04-THU

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