一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>maeさんのプロフィール

mae(まえ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。

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10 メメント

 
こんにちは、maeです。
すっかり暑い季節になりました。
ぼくの絵を描いている部屋にはエアコンがなく、
最近は扇風機に直にあたりながら
アイスコーヒーを飲んで暑さをしのいでいます。
今のところ、それでなんとか対処できています。
窓はありますが、
以前そこから巨大なクモが入ってきたことがあって、
それ以来怖くて一度も開けられません。
虫が入る(かもしれない)か暑さかなら、
迷わず暑さを選びます。
その結果、部屋は密室状態となっています。
間近にせまった8月の到来が恐ろしいです。
(熱中症には気をつけます。)

 
さて、今回は左手前にある
祖母の家(あーちゃんの家)を
描き込んでいこうと思います。
自分にとって一番思い入れのある建物なので、
「どう進めていったらいいかな‥‥」と
だいぶ悩みました。
思い入れが強ければ強いほど、
「本当に形にしていいんだろうか」と
不思議な迷いが生まれるんです。
たぶん、絵として定着させるときに、
自分のイメージを自分自身で言い得ている絵でなければ、
そのイメージの純粋さが
損なわれてしまうような気がしてしまって
躊躇するのだと思います。
でも、その思い入れと向き合うために
絵を描いているのだとも思います。
心の中だけにある「メメント」が、
いつの間にか薄れて消えてしまわないように、
見落としたまま離れて
自分を失ってしまわないように、絵に残す。
つまり、希望をもって歩むために、
なくてはならない感覚を絵として刻み込んでいるのです。
ぼくの場合、それが風景だったのだと思います。
風景の中には、その時の純粋な気持ち、
育んでくれたものの温もり、出会えたことへの感謝など、
さまざまな感情が詰まっています。
絵を描いているときは、そんな世界の中を旅しています。
では、描いていきます。
 
だいぶ苦労しましたが、
いいバランスで描けたと思います。
子どもの頃のことを思い出しながら描いたので、
「#02漂流」の資料の写真の様子とは
かなり違っていますね。
今回は、アンテナ、風車、郵便受け、
ステッカー、植物、チョークの落書き、
クモの巣などが彩りを加えています。
クモは苦手ですが、クモの巣を描くのは好きです。

 
描きながら考えていたのですが、自分の絵は、
他のどこにも記録されていない心の中の風景を保存し、
いつでもその記憶や感情に
触れるための手段なのだと思います。
その記憶が薄れてしまったとしても、
絵に触れることでその瞬間を再び思い出すことができる。
そして、それは個人的な感覚の中にとどまらず、
大人も子どももそれぞれもっている
大切な記憶や感情を思い出すための
「メメント」となり得るのだと思っています。

 
そういえば、こんな写真が残されていました。
祖母の家の車庫の前で
水遊びをして楽しそうにしているぼくです。
この時の細かいことは忘れてしまっていますが、
ここにいた感覚は覚えています。
ということで最後に、
車庫の中に黄色いバケツも描き加えてみました。

 
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もお読みいただけたらうれしいです。

(つづきます)

2024-07-25-THU

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