一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>maeさんのプロフィール

mae(まえ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。

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12 涙がこぼれそう

 
こんにちは、maeです。
今まで長いこと描いてきた絵も、
ついに今回でアニメーションに入ります。
ここまでくれば、あともうひとふんばりです。
と、その前に「色調補正」をして、
全体の色をととのえておきます。
コマを増やす前に、
一枚絵の段階でほとんど完成に近い色を目指します。

▲前回までの絵がこちらです。 ▲前回までの絵がこちらです。

▲色調補正(そして少しの手直し)を終えたものです。 ▲色調補正(そして少しの手直し)を終えたものです。

 
いい色になってきたと思います。
バランスがよくなって空間を感じられるようになりました。
こうして見ると、元の状態はかなり暗かったですね。
全体の色にまとまりがなかったので、
奥のほうに進むにつれて
だんだんと同系色の青緑になるように
まとめてみるなどもしました。
こうすることで、
ごちゃごちゃと色んなものが描いてあっても
主張がまるくなり、
絵の軸となる部分を
より見てもらえるようになったと思います。
最後にもまた仕上げの調整をしますが、
一枚絵としては、ひとまずこれで完成です!

▲制作過程がゆっくり流れます。 ▲制作過程がゆっくり流れます。

 
こうして最初から見返してみると、
「だいぶよくなってきたなぁ」
「ここまでがんばったなぁ」と、
しみじみ思います。
最初に描こうとしていた要素も、
かたちを変えながらけっこう残っていますね。
なんだか、何回も見ちゃうなぁ。
それほど、ここまでたどりつけるかさえ
不安だったんだと思います。
涙がこぼれそうになって、やっと先に進めます。
では、これまでの軌跡に背中を押されながら
アニメーションに取りかかっていきたいと思います。

 
囲ったところを動かす予定です。
最初にこうしてマーキングしてから進めます。
あとでにぎやかすぎると思ったら、
動かさないかもしれません。
 
今回はこれらの小さな部分を動かしてみました。

▲風車。 ▲風車。

▲風鈴。 ▲風鈴。

▲換気扇と、CD。 ▲換気扇と、CD。

▲水槽。 ▲水槽。

▲幽霊。 ▲幽霊。

▲画像をクリックすると大きくなります。 ▲画像をクリックすると大きくなります。

 
絵の向こうの世界が呼吸しはじめました。
ぼくはアニメーションの中でも、
とりわけループするGIFアニメが好きです。
その中で永遠に世界が続いているような、
または画面の向こうの違う世界と交信しているような
不思議な気持ちになります。
アニメーションをつくるときは、
ずっと動き続けていても不自然ではないモノ、
そのスピードや頻度などを意識して、
少しでも深く没入できるように考えています。
あとは、始まりと終わりの継ぎ目が
わからないようにするというのも心がけています。
SNSのタイムラインで
一瞬で通り過ぎてしまうかもしれない絵。
でも、もしかしたら
気に入ってくれる人がいるかもしれない、
ということを思います。
そして、せっかく足を止めてもらえたのなら、
絵を見てくれた人の1秒をもらうのなら、
いい時間にしたいと願っています。
自分自身と向き合うことに加えて、
こういうこともモチベーションに
つながっているのかなと思います。
コメントや反応をもらえると、
幻想かもしれなかった願いが
実際に届いたというのがわかって、
とてもうれしくなります。
この記事を書くにあたっても、
読んでくださる方の1秒をもらっているという意識で、
自分なりに一所懸命に言葉を選んでいます。
今回も読みに来ていただいてありがとうございました。
少しでも、何かになっているのならうれしいです。
また次回もよろしくお願いします。

(つづきます)

2024-08-08-THU

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