「今年の藝祭に来てくださいませんか?」
東京藝術大学の学生のみなさんから
そんなご連絡をいただき、糸井重里が
「藝祭2022」のトークショーに登場しました。
控室でのおしゃべり+1時間強のトークという
短い時間でしたが、フレッシュなみなさんからの
さまざまな質問に、糸井が真剣に答えました。
これからのAI時代に、人間はどう生きたらいいのか。
「作りたい」と「売れる・売れない」の兼ね合いは。
ゲーム『MOTHER』と「母性」の関係について。
新しい手帳のアイデアを考えてみました‥‥など。
前半は、東京藝術大学の日比野克彦学長と
3名の学生というみんなでのトーク、
後半は4名の学生による糸井への質問の時間。
大学の授業のあと、学生と先生がほんとうに
話したいことを素直に話すときのような、
あたたかなやりとりになりました。

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(5) 何かアイデアを思いついたら、 まずは誰かに話してみてごらん?

──
次の質問者は、美術研究科
デザイン専攻1年の戶澤遥さんです。
ほぼ日の人気商品のひとつに
「ほぼ日手帳」があります。
そこで戶澤さんは、
新しい日記帳のアイデアをお話しくださると。

戶澤さん
私は今回、糸井さんに
「こんな手帳があったら素敵じゃないか」
というアイデアを共有したくて、
絵を描いてみたんです。
これは「虫食い日記帳」という、
1枚の葉っぱに1週間分の記録を
つけられる手帳のアイデアです。
ページが四角い葉っぱのような形で、
葉脈で中が7つの部屋に仕切られています。
テーマは「空欄もちょっと愛したい日記帳」です。
私は日記をつけているんですが、
書くのを忘れて空欄が続いたり、
うまいこと書けない日が続いたりすると、
罪悪感で続けられなくなることがあるんです。
なのでそのとき、書いた日も書かなかった日も
どちらも葉っぱの個性に見えたら、
素敵に思えるんじゃないかなと考えたんですね。

糸井
たぶん、これを好きな人もいると思います。
こんなふうに自分でなにか考えて
「これはいいアイデアだな」と思うものって、
まずはいまみたいに、人に話してみることが
すごく大事だと思ってますね。
社会の原型って、他人と私ですから。
ひとりの人に見せて
「いいね、あなた作って出してよ」
って言われたら、
またもうひとり発見したくなるよね。
そうやって別の人にも聞いて、
アイデアが育っていく。
そして、「いいね」となったものって、
やっぱり支持されれば実現するんですよ。
ですから、今回はたまたま手帳を作ってるぼくに
「どうですか?」って問いかけちゃったんで、
一気に話が大きくなっちゃったけど、
まずは友達とか、お母さんとか、恋人とか、
身近な人にこの話をしてみて、
「すっごいじゃん!」と言うかどうか、
ノックをしてみることが大事なんじゃないかな。
そんなことを思いました。
あとはなにかを作るって、
実際にやるとなるとすごく手間がかかるし、
いろいろな条件があるわけです。
だからこの手帳のアイデアも、
実際に手帳を制作してる人たちが考えたら、
たぶんそれこそ厳しく
「これはどう綴じるの?」
「印刷した上に、いろんなペンで
文字をきれいに書くにはどうしよう?」
「裏はどうする?」
「何ページにする?」とか、
いろんな具体的な条件まで計算に入れて
考えていくんですね。
人に話してみると、そういった部分も
いろいろと気付きがあるので、
そういった意味でもいいんじゃないかなと思います。
まぁ、ぼくも思いついたアイデアを
よくいろんな人に話すことがあるんですけど、
ときには迷惑がられることもあって(笑)。
『MOTHER2』というゲームを作っていたとき、
やっぱり制作って山あり谷ありで、
大変だった時期が何回もあるんです。
それで終わり頃、みんながすごく大変なときに、
ぼくは自分の役目があるていど終わって、
現場から離れていたんですね。
セリフもぜんぶ作って
「自分がやることはもうぜんぶやった」
みたいな状態で。
そのときに
「あ、次のゲームはこうしたい!」という
アイデアが出たんです。
それでみんなが『2』の大詰めで
必死になってるときに、のんびり電話して、
「思ったんだけど今度さ、『3』って
こんなの考えてるんだけどすっごく良くない?」
って言ったら、
「‥‥あの、いいかもしれないんですけど、
ちょっと今はやめてもらえませんか」
って(笑)。
やっぱりアイデアって、
「相手がどう感じてくれるか」で
積み重なっていくものだったりするんで。
まあ、そのとき電話したアイデアは
結局『3』に活きているので、
そこまで持ったということは、
いいアイデアだったんですけど。
‥‥みたいなことがあるんで、
まずは最小限の社会、他人1、他人2に向かって、
この話をしてごらん? 
アイデアを膨らませていくって、
そういうことじゃないかなと思いました。
戶澤さん
ありがとうございます。
糸井
あ、この企画自体について、
ぼく個人がどう思ったかを聞きたい?
戶澤さん
そうですね、ちょっと怖いですけども(笑)。
糸井
じゃあ、作ってみたら?
戶澤さん
ああー、なるほど。
糸井
この資料で見てるかぎりだと、
わざわざ自分に作らせる力がない
アイデアかなと思うんです。
ほんとに自分ですごいと思っていたら、
「見本を作ったんですけど見てください」
とかなっているはずですから。
だから、ごめんなさい、このアイデアは、
自分自身に実際に作らせるだけの
力がなかった部分が、
まずは弱かった‥‥と思いました。
戶澤さん
はい。すごく納得してます。

糸井
自分ってね、自分に嘘をつくんですよ。
思いついたものを「いい」って言いたいから。
「ほぼ日手帳にない特徴を持った、
すばらしいものを考えました」
そのことばは作れる。
だけど「本当に作って見せたい」、
そういうところまでいくかどうか。
「大好きな人がいなくなったときに
何キロ追いかけられるか」が、
「好き」の度合いだったりするじゃないですか。
そのときの追いかけるエネルギーみたいな、
自分自身がかき立てられないものは、
アイデアかコンセプトかの段階で、まだ弱い。
まあ、ぼくも「すごく自分に甘いもの」を
出すケースもあるんですけどね。
それは「自分に甘いものを考えた」という
ダイナミックレンジを表現したい場合には、
すごくいいんです。
「そんなものもやるんだ」って
笑ってもらえるだけで、
価値があるという場合もあるんで。
あとは、どんどんアイデアを捨てるのも、
アイデアだよ。
戶澤さん
たしかにそうですね。勉強になります。
ありがとうございました。

(つづきます)

2022-11-20-SUN

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