なにかすっごいドラマがあったという
わけでもないのです。
とはいえ、担当のほぼ日乗組員たちが
力を合わせてがんばった。
そして海外のお客さんや社内のみんなにとって
「ほぼ日ストア」の使い勝手が、
前よりちょっとよくなった。
「これ、仲間のみんながよかったんですよ」
という話を、すこしさせてください。
いわゆる「越境EC」、つまり海外販売にまつわる
ほぼ日というチームの一側面の記録。
開発リーダーの多田さんを中心に追いかけます。
レポート担当は、ほぼ日編集部の田中です。

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6.関わったみんなの振り返り。(前編)

 
さて、「ほぼ日ストア」の
海外配送プロジェクトのレポート、
ここからは少し違う雰囲気でお届けします。
2023年夏、無事に新しいしくみへの移行が
完了した、「ほぼ日ストア」の海外配送のしくみ。
‥‥と、このプロジェクトは実際のところ、
どんなふうに進んでいったのだろう?
導入から約1ヶ月後の9月26日、
関わったメンバーに集まってもらい、
くわしい話を聞いてみました。
そのときの様子をご紹介します。

▲この日のメンバーは、システムチームから多田さん、川上さん、ベイさん、山縣さん。経理の樋口さん、物流のつばさくん、手帳チームから塩口さんとあさこちゃんです。 ▲この日のメンバーは、システムチームから多田さん、川上さん、ベイさん、山縣さん。経理の樋口さん、物流のつばさくん、手帳チームから塩口さんとあさこちゃんです。

▲図解するとこんな感じ(プロジェクト全体ではさらに多くの人が関わっています) ▲図解するとこんな感じ(プロジェクト全体ではさらに多くの人が関わっています)

プロジェクトはどうはじまったのか。

──
集まっていただき、ありがとうございます。
まずは「ほぼ日ストア」の切り替え、
本当におつかれさまでした!
全員
おつかれさまでした!!!
──
今日はプロジェクトが具体的にどう進んだかを
聞かせてもらえたらと思っているのですが、
まず、この話はそもそもどう始まったんでしょう?
川上
そもそもで言うと、「ほぼ日ストア」の
海外への出荷が増えているなかで、
納税まわりのコンプライアンス(法令遵守)を
きちんとしておきたいという課題があったんです。

▲システムチームリーダーの川上さん。いつもみんなが仕事をしやすいように、いろいろ整えてくれる人。 ▲システムチームリーダーの川上さん。いつもみんなが仕事をしやすいように、いろいろ整えてくれる人。

ベイ
つまり、いろんな国で、現地の消費税の支払いとかを
どんどんやらなきゃいけなくなってきたときに、
うち(ほぼ日)が単独でそれをやるのは難しい。
だから、代行してくれる会社をずっと探してて。
──
ああ、なるほど。
川上
また、これまでの「ほぼ日ストア」だと、
発生する関税を配達した人に払う必要があったり、
クレジットカード決済しかできなかったり、
お客さんのほうに負担をかけている部分もあって。
そのあたりを解消できたらという思いもあって、
サービスを提供しているいろんな会社に話を聞いて、
検討するところからはじまったんですね。
──
つまり、Global-eのサービスを
導入しようと決める前に、まずは検討期間があって。
ベイ
そうですね。そしていろんな会社ごとに
サービス内容がけっこう違うので、
うちと噛み合うかどうかの検討に
けっこう時間がかかったんです。
たとえば、フルサポートだけど、
いま「ほぼ日ストア」に登録してくれている
海外のお客さんが、全員アカウントを
引っ越さなきゃならないとか。
販売する全商品について、
「毎回すべての原稿を
英語で準備しなきゃいけない」とか。
多田
それはもう「現実的に無理ですね」みたいな(笑)。
ベイ
あるいは、決済部分の課題だけを解決してくれる
シンプルなサービスで導入しやすいけど、
「税金の支払いはほぼ日側でやってね」
みたいなところもありましたし。
その場合は、入れるのは簡単でも、
あとで別にコストや手間がかかりそうだったり。

▲システム部のベイさん。「ほぼ日」が1998年にスタートしたときからずっと見てきている、いわばシステム部の生き字引。 ▲システム部のベイさん。「ほぼ日」が1998年にスタートしたときからずっと見てきている、いわばシステム部の生き字引。

──
たしかに。
川上
そのなかでGlobal-eのサービスは、
いまのフルサポートのサービスと、
ごくごくシンプルなサービスの、
ちょうど中間くらいの立ち位置なんですね。
多田
フルサポートではないけれども、
貿易に関するいろんなことはGlobal-eが全部やってくれる。
導入してしまえば、うちはすべて
Global-eの国内法人とのやりとりになるので、
いろいろ気にしなくて良くなるんですね。
川上
それで「このサービスを選べば結果的に楽だし、
うちにちょうどいいかもしれないね」
と決めた記憶がありますね。

契約書を理解するだけで、1ヶ月。

──
じゃあ、Global-eさんのサービスでいくことに決めて。
川上
そうですね。とはいえ実は、
いま言ったGlobal-eに決める段階でも、
ずいぶん時間がかかっているんです。
というのも、彼らのサービスの内容を
我々が理解するまでに、
かなりの時間がかかったんですよ。
契約書を読むのに1か月とか(笑)。
──
契約書を読むだけで、1か月!
樋口
非常に分厚い英語の契約書と、
それを翻訳したものがあって、
いろいろ調べながら読む必要があって。
なんだか本当に時間がかかりました(笑)。

▲経理の樋口さん。新規販路を多く担当。いつも親身にみんなのことを考える、縁の下の力持ち的存在。 ▲経理の樋口さん。新規販路を多く担当。いつも親身にみんなのことを考える、縁の下の力持ち的存在。

川上
そこは英語が難しいというより、
彼らの立ち位置と、サービスの内容が難しいんですよ。
我々が経験したことのない仕組みなので
「これが自分たちに扱えるんだろうか?」って。
海外の方がお買いものするときって、
送料・消費税・関税といった金額が生じるわけですけど、
それらの金額をお客さんに
どう見せるかの種類がいくつもあって。
それぞれ誰がどう費用を払って、どう決済をするのか。
パターンがみんな違うわけです。
樋口
これがもう本当に複雑で。
「このケースはこう、このケースはこう」と
整理していくのが、あまりに大変だったという。
だけどそこは経理処理に関わる重要なところなので、
絶対にきちんと理解しておかなければいけないし。
ほぼ日の他のシステムともつながる話だから、
「導入後データがうまく流れるか」
あたりのことも考えておく必要があって。
川上
だから最初にGlobal-eのサービスを知ってから、
内容を理解して導入を決めるまで、
半年くらいかかった記憶がありますね。
──
半年! 相当ですね。
樋口
そして導入が決まって動きはじめたら、
こんどは「価格決め」のところで
また壁にぶつかって(笑)。

──
「価格決め」というのは?
樋口
いままでは「ほぼ日ストア」では
「日本円でいくらで売ります」だけで
よかったんですけど、
今回、各国の通貨のまま買えるようにしたので、
通貨ごとに価格のルールを決める必要が出てきたんです。
それぞれの国での条件を加味しつつ、
「この場合は価格を105%にしないと、
利益が出ないね」みたいな調整が必要で。
税率って国ごとに15%、10%、0%とかバラバラだし、
関税も「800ドル以下はかかりません」とか、
いろんなルールがあるんですね。
そのあたりをひっくるめて、
きちんと利益が出るように
「この国ではこういうルールで売りましょう」
みたいなことを、
全部決めていかなきゃいけなかったんです。
──
あ、なるほど。
樋口
そこがほんとにいろんな要素が絡むので、
何度ミーティングしても決まらない時期があって、
ぐったりしていた記憶がありますね。
多田
しかもこの1年で、為替が大きく変わりましたから。
樋口
そうなんです。その影響もありました。

ものすごく忙しかったシステム部。

──
そうやって経理側でお金まわりのことを
整理していく一方で、
システム側の準備もあったわけですよね?
多田
はい。何人ものメンバーでやっていたんですけど、
今回いちばんプログラムを書いたのが
山縣さんだと思いますね。
山縣
そうですね、けっこういろいろやりました(笑)。

▲システム部の山縣さん。ECまわりの話題に強い、しっかり者のエンジニア。野球大好き。 ▲システム部の山縣さん。ECまわりの話題に強い、しっかり者のエンジニア。野球大好き。

つばさ
たしかプロジェクトの途中で、
山縣さんが死んでた記憶があります(笑)。
山縣
やることが多すぎて「チーン‥‥」みたいな。
リリース直前とかはとくに
社内のあちこちで合宿的にやってたんですけど、
いろんな人から「印象的だった」と言われました(笑)。
多田
Global-eさんとしても、こんなふうにサービスを
直に導入した日本の会社はほぼ日が初めてで、
初体験のことがいっぱいあったんだと思うんですよ。
だから「この日本語は変かも?」みたいなところも
あったりして、そういうのも直したりとか。
山縣
「ここって直せますか?」という確認からはじめて、
ひとつひとつ一緒に直していって。
けっこうGlobal-eのみなさんと共同作業で
作っていった感じがありますね。
ベイ
調整はいろいろありましたね(笑)。

樋口
だけど今回、経理の私からすると、
システムチームとのやりとりがすごいスムーズで、
本当に楽だったんですよ。
多田
山縣さんがいて助かったのが、
もともと経理の知識があるから、
「ここは会計的に飲める誤差だ」
とかの肌感があるんですよね。
ぼくとか、システムの頭だけで考えてると
「数字が完全にぴったり一致する」とかを
目指してしまうんです。
だけど山縣さんは
「これはどうしてもずれるものだ」とかを知ってて、
ぼくが突っ込んでいこうとすると
「多田さん、それもういいんで」って。
ベイ
言ってる山縣さんが目に浮かぶ(笑)。
山縣
ええっ(笑)。いやいや。
「そこは樋口さんがうまく処理してくれるから
考えなくていいんだよ」みたいに、優しく伝えて。
多田
あとは、ベイさんは「ほぼ日ストア」の立ち上げから
全部知っている生き字引みたいな人なんで(笑)、
なにか聞いたときに、解決までが早かったり。
そんなふうに、それぞれが得意分野を活かしつつ、
進んでいった感覚がありますね。

ここまでたどり着いた「ほぼ日ストア」。

──
「ほぼ日ストア」のシステム部分を
ずっと見てきているベイさんは、
今回のプロジェクトはどんな気分ですか?
ベイ
「ほぼ日、海外での税金のこととかまで、
先回りして考えられるようになったの?」
っていうのは、やっぱりすごいよね。
昔は海外に発送してるだけで珍しかったんですよ。
だけどいまってそれだけでは珍しくなくて、
法令遵守とかをぜんぶやった上で、
ようやく「うちは越境ECやってます」って
言える時代になってるから。
「ほぼ日ストア」がそういう場所に
ちゃんとたどり着けてるのは嬉しいです。

──
現場でバリバリプログラムを書いていた
山縣さんとしては、今回どうでしたか?
山縣
「越境EC」ということば自体は、
EC業界(インターネット通販業界)では
何年も前から話題にはなってたんです。
だけどいろいろ難しくて、
ずっと「SFの話」みたいなイメージで(笑)。
だけど今回こうやって関わらせてもらえたことで、
ようやくいろいろ
「ああ、越境ECってこういうことなんだな」
という感覚が掴めてきた気がしています。
──
「ほぼ日ストア」は今回の切り替えで、
だいぶグローバルスタンダードに
近づいた感じなんでしょうか。
川上
機能的にはけっこう先端を走ってるよね。
関税とかを計算してくれて、ものが届いたときに
FedExに支払わなくてもいいわけで。
──
へぇーっ、先端!
山縣
そう思います。現地のお客さんが、
現地のサイトで買うのと同じ感覚で
買えるようになっていますから。
ベイ
自分で個人輸入とかすると、
郵便局の人に関税を払うもんね。
それよりいい体験を届けられてるかなとは思いますね。

(つづきます)

2023-12-26-TUE

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