なにかすっごいドラマがあったという
わけでもないのです。
とはいえ、担当のほぼ日乗組員たちが
力を合わせてがんばった。
そして海外のお客さんや社内のみんなにとって
「ほぼ日ストア」の使い勝手が、
前よりちょっとよくなった。
「これ、仲間のみんながよかったんですよ」
という話を、すこしさせてください。
いわゆる「越境EC」、つまり海外販売にまつわる
ほぼ日というチームの一側面の記録。
開発リーダーの多田さんを中心に追いかけます。
レポート担当は、ほぼ日編集部の田中です。

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8.ほぼ日の海外発送の歴史を聞く。(前編)

 
さて、「ほぼ日ストア」の海外配送プロジェクトについて
追いかけてきたこのレポートも、いよいよ大詰め。
最後はさんと一緒に、
ほぼ日に20年以上在籍している
物流リーダーのさんのもとを訪ねて、
ほぼ日の海外出荷の歴史について聞いてみました。

▲物流チームリーダー、西田さん(左)。毎回膨大な数の商品が動く「生活のたのしみ展」の主要メンバーでもあります。テキスト中継の運転手役
や、コンテンツ用の工作を担当することも。 ▲物流チームリーダー、西田さん(左)。毎回膨大な数の商品が動く「生活のたのしみ展」の主要メンバーでもあります。テキスト中継の運転手役 や、コンテンツ用の工作を担当することも。

最初は本当に大変だった。

西田
‥‥なるほど、ほぼ日の海外出荷の歴史。
ぼくが入社した2002年時点で、
「ほぼ日ストア」はもう海外出荷をやってましたね。

──
へぇーっ、そんなときから。
西田
本当のはじまりはわかんないですけど、
だいぶ最初からやってたと思います。
当時のお客さんは完全に日本の人たちで、
海外で「ほぼ日刊イトイ新聞」を読んでいる人が、
ついでにグッズを買っていたというケースですね。
「大使館の奥さんかな?」とかみんなで話してて。
実際はわかりませんけど。
でも当時も当時で、海外にものを送るって
本当に大変だったんですよ。
多田
具体的にはどんな感じだったんですか?
西田
昔は「ほぼ日ストア」って毎日販売してたわけじゃなくて、
1~2か月に1回とかのペースで、
イベント的に販売をしていたんです。
受付期間を決めて、買いたい人に情報を記入してもらって、
いついつまでに送りますよ、という方式ですね。
そのときは海外から注文があると、
その分だけ倉庫から取り寄せて、
社内で梱包して発送していたんです。

▲大昔のほぼ日の発送隊の様子。左が当時の西田さん。
▲大昔のほぼ日の発送隊の様子。左が当時の西田さん。

──
うわぁ、ぜんぶ自分たちで発送。
西田
「EMS」(日本郵便の海外配送サービス)の伝票を、
みんなでぺっぺ、ぺっぺ貼ってたんです。
ほぼ日手帳の発送とかもやってて、
何日もかけて数百件とかを送ってました。
さすがに途中で「もう無理だ」となって、
海外分も物流倉庫から出してもらうようには
なったんですけど。
多田
それはそうなりますよね。
西田
まぁ、たぶんほぼ日的考え方だと、
求める声があったからやっていたんですよね。
それで利益を上げようとかじゃなく
「買いたい人がいるなら届ける」ってイメージ。
最初はおそらく海外に住んでいる方から
問い合わせが来たとかじゃないかな。
ただ海外配送ってやっぱり大変なんで、
ぼく自身はそんなに積極的に
やりたい感じでもなくて(笑)。
──
(笑)その大変さって、特にどのあたりですか?
西田
まぁ、会社で自分たちで梱包してたときは
もう本当に大変だったし。
あと、「通関」ってなにか起きそうなんですよね。
「通関証」とか「関税」とかって、
想像するだに嫌じゃないですか(笑)。
実際にはほとんどなにも起こらないんですけど。

西田
それと「EMS」って、
日本郵便が世界各国の提携先の運送会社に
荷物を渡すんですけど、
当時、提携先によっては
「届け先の家の鍵が閉まってたらもう届けない」
みたいな、とんでもないところもあって(笑)。
こっちとしては
「いやいや、とにかく届けてくれ」と思うんですけど。
──
そりゃそうですね、届かないのは困る。
西田
そんなふうに、発送作業はわりと手間がかかるし、
途中で問題が起きる可能性もあるし。
だから苦労対効果で考えたら、海外出荷って、
普通は絶対やらないようなものだと思うんです。
だけどほぼ日は、
「やってほしいという人がいて、
それが自分たちにできることなら」
みたいな感じでやってたんですよね。
「ほぼ日ストア」の海外出荷の歴史としては、
そうやってはじめたこと自体が、
まずは一番すごいことだったとぼくは思いますね。

海外出荷の転換点。

──
じゃあ、そうやってはじまった海外出荷が、
つづけていくうちにだんだん伸びていって?
西田
そう。大きく変わっていったのが、
2012年~2014年くらいの時期ですね。
「ほぼ日手帳2013」で、英語版のほぼ日手帳が登場して。
「ほぼ日手帳2014」から英語の販売ページ
作るようになったんです。
裏側のしくみはまだ何も変えてないんですけど。
で、なにより大きかったのが「ほぼ日手帳2015」で
「MOTHER」の手帳カバーが出たことですね。
そこでいきなり外国からの注文が増えはじめるんです。
そこで花開いたイメージがありますね。

多田
海外の方を意識した商品が生まれて、
英語の販売ページを作って。
さらに、特に人気の商品が生まれて。
西田
で、どんどん注文が増えていって。
だけど、ぼく的に良かったなと思うのが、
それまでずっとコツコツやってきてたから、
そうやって増えても、なんだか対応できたんです。
「注文増えてるなあ、最近」くらいの感じで。
──
じゃあ、いろいろ大変さはありつつ、順調に?
西田
そうですね。
そういう感じで続けていたんですけど、
2020年にまた、大きな転換点があって。
多田
4年くらい前。
西田
なにかというと、海外向け荷物の配送会社をすべて
「FedEx」に変えたんですよ。
アメリカが母体の大きな国際企業ですけど、
全世界に会社があって、どこの国でも
そのままFedExの人が届けてくれるんです。
それで、それまで2週間かかってたものが、
3日とかで届くようになって。

──
え、すごい変化。
西田
記入項目も増えたんですけど、
ちゃんと入力されていれば、届く率も段違いなんです。
ぼく的にびっくりしたのが、
「南アフリカの人から郵便番号の記入がなくて
届けられないって言ってます」とか、
普通に問い合わせが来るようになったんですね。
それも確認して伝えれば、ちゃんと届けてくれるし。
だから昔は海外配送って
「届くときは届くし、届かないときは届かない」
みたいな感じでしたけど、
いまは問い合わせするのも、
国内の運送会社に電話するのと同じ感じです。
ここ、めっちゃくちゃでかいんですよ。
──
たしかに。
西田
で、「ほぼ日ストア」の海外出荷の歴史においては、
おそらく次の大きな転換が、
今回のGlobal-eプロジェクトかなと思います。
これで「注文サービス」部分が変わったわけですね。
多田
そうですね。購入するときに
税金まで含めた最終金額がわかるようになったり、
いろんな決済サービスが使えるようになったり、
ちょっと注文がしやすくなって。

物流的には、今回どう変わった?

──
じゃあ今回の仕様変更で、
西田さんの仕事もいろいろ変わりましたか?
西田
変わりました。変わった。
‥‥けど正直、いろんなことがぼくの手から離れて、
現場のこととか、もう全然わからなくて(笑)。
──
そんな(笑)。

西田
いまはもう、海外分をすべてGlobal-eのほうで
対応してくれているので、
どの国でどの支払い方法があるのかとか
ぼくは知らないですし。
Global-eからほぼ日宛に問い合わせも来るんですけど、
それも英語なので、社内の英語ができる人たちが
対応してくれているんですよね。
だから「とうとうこんなことに」みたいな(笑)。
ものすごいことになりましたね。
「すごい便利になったんだろうな」すら、
ぼくは実感できないくらいです。
──
そのくらい、自分の手を離れちゃった。
西田
そうですね。
だけどそれは「ほぼ日ストア」が
長い時間をかけて育ってきた結果だし、
それだけほぼ日が大きくなったってことだから、
単純に「すごいなあ」と思ってるだけですけど。
まぁ、買ってくれる人たちのストレスが
おそらく減ったはずなので、
それがいちばんよかったなと思います。
多田
買う人には便利になりましたよ。
西田
そうですよね、それがいちばんです。
海外の人も、日本の企業で買うのとか、
きっと怖いじゃないですか。
そういう負担が減っているとしたら、
やっぱりそれはすごくいいですよね。

いちばん楽になった部分。

──
そういえば、先日韓国に行ったとき、
多田さんがプレゼンの中で
「海外出荷は西田さんがめちゃくちゃ
大変だから助けたい」と言ってたんですけど。
西田
うわ、多田さん、
そんなこと言ってくれてたんですか。
ありがとうございます。
いや正直、海外出荷、めちゃめちゃよくなりましたよ。
前はいろいろ大変でしたけど、
いまはストレスがずいぶん減りました。
面倒な問い合わせも減りましたし。

多田
よかった。
西田
ぼく的になにより嬉しかったのが、
クレジットカード詐欺の
チェック作業がなくなったことですね。
──
クレジットカード詐欺のチェック作業?
西田
いままで、購入した人のなかに
悪いやつがいないかどうか、
ぼくがずっとチェックしてたんです。
多田
毎日1,000件とか見てたって言うからね。
──
そんなに。
西田
そうそうそう。
ここで止めなければゴールを決められるんで。
だけど海外のクレジットカード詐欺って、
相手のほうが強いに決まってるんで、
「こんなとこから!」みたいなところから
どうしても抜けていくんですよ。
毎日すごい張ってるんですけど、
ぼくなんて、なんでもないゴールキーパーなわけで。
指と指の間みたいなところから、
どうしても抜けていくんですよ。
「うわぁ、そこか‥‥」みたいな。

多田
あぁ。
西田
それ、誰にも言われたことないですけど、
「あれなんで通しちゃったの?」とか言われたら
本当に辛いなと思いながら延々やっていたので、
今回その作業がなくなって、本当にほっとしました。
それはもう、超うれしいっす。

(つづきます)

2023-12-28-THU

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