オリンピックやワールドカップの試合後には、
快挙をたたえる新聞の「号外」が配られます。
ついさっきまでプレーしていたはずなのに、
駅前でもらった号外を見てみると、
「優勝」「金メダル」「世界新」という
華々しい見出しが踊っているじゃありませんか。
ウェブと違って紙を刷る手間があるのに、
どうしてそんなに早く配れるのか聞いてみました。
工夫や、努力や、技術や、からくりについて、
『スポーツ報知』の相沢拡さん、山本理さん、
解説をどうぞおねがいします!

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第2回 号外のスピード感と連携。

ほぼ日
突発的なニュースがあった場合は、
会社に残っていた人で
号外を作っているということですが、
現場のカメラマンから写真を送ってもらって、
すぐに発行できるものですか?
相沢
テニスとか海外で世界大会が行われている場合は
海外の通信社から受け取った写真を
使うこともありますね。
巨人戦であれば、現場のカメラマンがいます。
ほぼ日
たとえばジャイアンツの優勝のように、
号外を出すことが予定されている場合は、
当番のかたが待機しているのでしょうか。
相沢
号外を出すと決まっている試合では、
当番制で作る人たちをつけています。
書く人と、レイアウトする人がいれば
紙面を作ることはできますから。
ほぼ日
ここに来るまでの勝手な想像で、
誰かが「号外担当記者」みたいな役割に
任命されているんじゃないかと思っていました。
山本
なるほど(笑)。
突発的な号外は、そこにいるメンバーで作ります。
2012年にマリナーズのイチロー選手が
ヤンキースへトレードになったとき、
日本時間の早朝に発表されたのを覚えてますか。
我々としては、朝刊が出たあとですし、
「これは、号外やらなきゃ!」となって、
朝早く出社している編集局の局次長に電話して、
「今から号外出しません?」って。

ほぼ日
おおっ、緊急対応ですね。
山本
号外を出すことになったら
今度はレイアウト部門のデスクに電話して、
急ごしらえで人を集めて、
配ってもらう人も急遽用意して
できたのがこちらです。

ほぼ日
この日の衝撃は覚えています。
まさに「電撃移籍」でした!
山本
普通なら会見している写真でないと
間に合わないのですが、
トレードされたその日から
試合に出ていたので、
この写真が撮れていたんですね。
ほぼ日
すごーい! 
これぞ、まさに号外です。
刷る場所も近くにあるのでしょうか。
相沢
本社に隣接する印刷工場で刷ります。
すぐに配ることが重要なので。
ほぼ日
配る人は、すぐに集められるものですか。
相沢
社員で、いる人間をかき集めます。
ほぼ日
えっ、社員さんが配っているんですか!?

相沢
事前に決まっている号外の場合なら、
各局から何人かずつ。
ほぼ日
それでも、アルバイトさんではなく
社員さんが配ることになっているんですね。
配る場所は、事前に発表されていますか。
山本
事前のお知らせはしませんが、
だいたいは決まっていますね。
山手線の主要駅が定番になってます。
要するに、人の集まる場所で配っています。
ほぼ日
人がいる場所でないと、
時間帯によっては配りにくいですもんね。
相沢
ナイターが終わってからだと、
夜の9時半とか10時過ぎになってしまうので、
号外を作っても通行人がいなくなっちゃいます。
そのスピードがなかなか大変で。
山本
今年、ジャイアンツが5年ぶりに
セ・リーグでの優勝を決めた試合って、
ナイターで延長戦でもあったから、
少しでも早くに号外を出さないと。
タイムラグを短くする努力をしました。
相沢
我々にとって、当たり前の仕事ですけどね。
ほぼ日
かっこいいです。
相沢
実際に配られたのが
原監督が胴上げをされている、この号外ですね。
リーグ優勝というのは特殊な事例で
「優勝」以外の見出しはありえません。

ほぼ日
ペナントレースであれば
当日負けたとしても、
優勝の日にちがずれるだけだから。
相沢
見出しさえ決めておけば、
あとは写真を待つだけです。
原稿も、試合終了以外の話は、
もうすべて書いておきます。
ほぼ日
「5年ぶりの優勝」
というのはわかっていますもんね。
山本
わかっている要素は入れておけます。
この紙面のデザインを見る限り、
「涙の」は後から入れているかも。
ほぼ日
ああ、たしかに!
「あっ、監督が泣いてるぞ。涙を追加して!」
というやりとりがあったんでしょうね(笑)。
山本
今年の優勝は、やっぱり涙に触れないと。
原さんが泣いたっていうのは、
すごく印象的でしたからね。
それから、胴上げの回数も
後からじゃないと入れられません。

ほぼ日
「8度」っていう数字は
原監督の選手時代の背番号だから
予想できるでしょうけど、
絶対に間違えられない情報ですね。
山本
そうそう。
ほぼ日
今回はマジック2になってから
次の試合ですぐに優勝を決めました。
もし、最後に足踏みが続いていたとしたら、
スポーツ紙のみなさんも
じりじりしっぱなしですよね。
相沢
いや、本当ですよ。
毎日、毎日‥‥。

山本
ずーっと、号外のために待機です。
配る人も、毎日用意しないといけません。
相沢
スピードだけを求めて
事実だけをあっさりと並べて
作ってしまえば早いのですが、
作り手は、なかなかそうはいかない。
「ほぼ日」のみなさんも同じかもしれませんが、
作り手って、少しでもいいものを作るために、
ずっと粘りたくなるものなんです。
手を加えはじめると印刷時間が遅くなっちゃう。
これは、号外あるあるです。
ほぼ日
読む人に喜んでもらいたいから、
やっぱり時間はかかりますよね。
それにしたって、すごいスピードです。

(つづきます)

2019-12-17-TUE

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