オリンピックやワールドカップの試合後には、
快挙をたたえる新聞の「号外」が配られます。
ついさっきまでプレーしていたはずなのに、
駅前でもらった号外を見てみると、
「優勝」「金メダル」「世界新」という
華々しい見出しが踊っているじゃありませんか。
ウェブと違って紙を刷る手間があるのに、
どうしてそんなに早く配れるのか聞いてみました。
工夫や、努力や、技術や、からくりについて、
『スポーツ報知』の相沢拡さん、山本理さん、
解説をどうぞおねがいします!

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第3回 ネット時代も号外はうれしい。

ほぼ日
号外に使われる写真は
どれも記憶に残る写真ですが、
どの写真を使うかで
議論になったりはしないんですか。
相沢
号外だったら決め打ちの1枚です。
横位置か縦位置かだけ決めて、
いちばんいい瞬間の写真を選びます。
ほぼ日
球場でいつも感心することがあるんです。
いろんな角度から撮影している
カメラマンさんがいらっしゃいますよね。
カメラマンさん同士の阿吽の呼吸で
ピッチャーを撮ったり、バッターを撮ったり、
守備を撮ったり、役割は決まっているんですか?

相沢
カメラの専門ではないですが、
「このプレーの時にはこれを撮る」
というカメラマンたちには
暗黙の共通ルールがあるようですね。
タイムリーを打って走っていった選手は
ガッツポーズをするから、
ファーストにカメラを向ける。
ピンチになったら、三塁側の者は
一塁ベンチの原さんの表情を狙うとか。
ほぼ日
独自のセオリーがあるんですね。
号外を出すレベルとなると
相当なビッグニュースだと思うのですが、
スポーツ報知さんがジャイアンツ以外で
単独で出した特報の号外って、
なにかありませんか。
山本
最近の例で言いますと、
バスケットボールの八村塁選手が
NBA入りした号外は、
うちしか出していなかったそうで。
ほぼ日
えーっ! 
NBAのドラフトで指名されたニュース、
かなり大きな話題になりましたよね?
相沢
「これは号外出した方がいいですよ」
という話で出したんです。
山本
でも、うちしか出していなかった。
こちらです。

ほぼ日
うわあー、かっこいい! 
最近のニュースはネットで知れるから、
ネットがない頃と比べたら、
号外の意味合いも変わってきていますよね。
相沢
ひと昔前は各社こぞって号外を出しましたけど、
最近は、号外の数も減っていますね。
ほぼ日
ああ、そうですか。
相沢
号外は、新聞と新聞の間に出されるものです。
スポーツ報知は朝刊しかないんで、
当日の朝刊と翌日の朝刊の間に起きた
ビッグイベントで偉業があって、
これはぜひ伝えたいという形で作られます。
速さだけで言ったら、
ネットならその場で済みますからね。
山本
速報という意味では、
ネットの方が圧倒的に早いです。
我々は、紙に印刷する→持っていく→配る、
というプロセスがあるんで。
ほぼ日
とはいえ、紙は嬉しいです。
わざわざもらいに行く人もいますよね。
みんながもらえるわけじゃないから、
というのも嬉しいのかな。
山本
最近になって気づいたことがあって、
号外をもらってくれた人は
写真をTwitterにアップしてくれるんですよ、
「号外ゲットできました!」って。
それは、我々にとっても嬉しいことで。
ほぼ日
号外をもらうことが
自慢できることになっているんですね。
山本
ニュースの内容はもちろんですが、
号外そのものを珍しがってくれているんです。
巨人優勝の号外をアップした人に対して、
ほかの巨人ファンの方から、
「俺、もらえなかったから悔しい」って。
届けているぼくらもすごく嬉しくなって、
巨人ファンのみなさんが本当に
優勝を待ちわびていたんだなって思えました。
ネットがあったおかげの二次的な効果ですね。

ほぼ日
オリンピックがあると、
社内の誰かが号外を持ってきてくれるんですが、
できれば自分で直接もらいたかったなって
いつも思うんですよね。
SNSにアップしたくなる気持ちもわかります。
山本
みんなが話題にしたくなるニュースを選んで、
号外として出すのが我々の仕事なんですよね。
配るだけで誰も話題にしてくれないんじゃ、
みんなが望んでいないってことですから。
ほぼ日
あ、念のため確認ですが、
SNSにアップされて嬉しいのは、
号外限定の話ですよね。
相沢
売り物の方の新聞は、
アップされると困っちゃう(笑)。

ほぼ日
そうですよね、売れなくなっちゃいますから。
そういえば、上京する前は田舎に住んでいて、
テレビでしか号外を見る機会がなかったので、
都会的なシンボルのひとつだなと感じていました。
ビッグニュースがあったときに
「号外でーす!」って配っているシーンが
ニュースの映像で使われているのが印象的で。
山本
ニュース番組であのシーンが使われるのは、
テレビ局からのニーズでもありますね。
たとえば「ジャイアンツが優勝しました」
というニュースに対する雑観映像として、
「新聞の号外が発行されてみんなが取っている」
という絵が欲しいわけです。
テレビ局から「号外、出しますか?」
という確認の連絡があるんですよね。
ほぼ日
へぇー!
山本
事前に連絡しておかないと、
テレビ局もばっちり撮れませんから。
八村塁選手の号外を出した時にも確認されて、
「間違いなく、新橋で配ります」
と約束してから配っていました。
ほぼ日
現段階でこれから予定している
号外のチャンスといえば、
やっぱりオリンピックでしょうか。
相沢
やっぱり、オリンピックのメダルですね。
我々もすごく期待しています。
ほぼ日
たのしみにしながら、
号外をもらいに行きます!
相沢
ぜひ、ぜひ。
ほぼ日
というか、配りたいぐらいです。

(つづきます)

2019-12-18-WED

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