糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(5)「人間だったらよかったんだけどねえ。」

谷山
じゃあ、次行きましょうか。
この流れからすると、
ちょっと軽い感じもするコピーかなと思いつつ、
ぼくはすごく印象に残っています。
「人間だったらよかったんだけどねえ。」
という、日刊アルバイトニュースのCMですよね。

1983 人間だったらよかったんだけどねえ。 (学生援護会/日刊アルバイトニュース)

糸井
そうです。
谷山
これまでご紹介してきたコピーに比べると、
これは、それほど知られていないかなと。
糸井
いや、思えば西武百貨店の広告だって、
そのものを見ている人は少ないんですよ。
つまり、広告を紹介するメディアで
紹介されることで有名になったんです。
だから、広告として見られてないの。
谷山
このCMはぼくが説明してもいいですか。
まず、舞台はたい焼き屋さんでしたかね。
糸井
麻布十番の浪花屋です。
谷山
浪花屋で撮影をして‥‥。
糸井
いや、そのセットなの。
谷山
そうか、浪花屋のセットでしたかっ!
そこになぜか牛がやってきて、
たい焼き屋の女将さんが
「あんた!」ってご主人に。
糸井
「アルバイトしたいっていう学生さんが来たんだけどね」
と言うと牛が来ていて、
「ああ、人間だったらよかったんだけどねえ」っていう。
一同
(笑)
谷山
たしか横に、雑誌を持った斉藤慶子さんが、
佇んでましたよね。
糸井
その次で、キョンキョンだったときもあったね。
谷山
それは富士山のほうですね。
糸井
「日刊アルバイトニュース見たんだってぇ」って
富士山がやってくるんですよ。
谷山
富士山が詰め襟を着ていたような気が。
糸井
富士山も学生だからさ。
一同
(笑)
谷山
なんか不思議な歌詞が
校歌みたいなのが後ろに流れていて、
「人間だったらよかったんだけどねえ」
「立派だけどねえ」って言ってませんでした?
糸井
いやあ、よく覚えてるね。
谷山
すごい好きなんですよ、このシリーズ。
これはこれで、さきほどの西武百貨店の
カルチャーとしての広告とは別で、
この軽(かろ)みのようなものも
1980年代らしい広告だって、ぼくは思います。
糸井
これも状況から説明しないといけませんね。
西武百貨店の広告を一緒に作っていた
ピラミッドフィルムっていう会社がありまして。
その中にお調子者のプロデューサーが
何人かいた中の1人が斉藤くんってやつで。
谷山
ああ、あの斉藤さん。わかります。
糸井
彼と知り合いになって、
斉藤くんの友達がやってる仕事で
予算もあんまりないんだけど
手伝ってほしいって頼まれたんです。
いいよって答えたんだけど、
全部をやってほしいって言われたの。
谷山
全部?
糸井
うん、絵コンテからぼくが描いてるの。
谷山
はあー、そうなんですか。
糸井
そういう仕事をしてみたかったんですよ。
コピーだけじゃなくて、
たい焼き屋の絵を描いて、
そこに「あんた!」っていうセリフも書いて、
牛が来てっていうのを、全部書きました。
これは関谷宗介さんに演出を頼んだんです。
谷山
当時見ていたときには、
本当に応募してきた学生が
斉藤慶子さんやキョンキョンで、
牛や富士山は関係ないと思っていたんです。
けど、そういうことではないんですね。
糸井
ぜんっぜん関係ないの(笑)。
かわいい子がそこにいるだけなのがいい。
牛だけで終わっちゃうのも、
なんか愛想がないからさ。
谷山
たしかに牛だけで終わっちゃうと、
あまりにもシュールすぎますね。
糸井
「おまえら、勝手に遊んでるだろ」ってなっちゃうの。
キョンキョンがアルバイトニュース持ってれば、
そういうコマーシャルだなと思ってくれるから。
谷山
ラストのキョンキョンや斉藤慶子さんが、
メジャー感を担保しているのはありました。
糸井
そこに「だんぜん・日刊アルバイトニュース♪」って
コピーがそこに入るんだけど、
そういうなんでもないやつが上手いんだ、おれ。
一同
(笑)
糸井
ちなみに浪花屋の大将とは
このときにまた仲よくなってさ、
ぼくと浪花屋のおじさんの2人でタレントになって、
牛乳協会のコマーシャルに出たことあるよ。
谷山
へーっ、そんなのありましたっけ(笑)。
糸井
牛乳のCMだからさ、
ぼくは牛柄の服を着てるの。

谷山
いやあ、これまでのコピーに比べたら
お話もわりと軽く終わってますけど。
糸井
これもだからさ、
すべてを受け入れるっていうのが
日刊アルバイトニュースなんですよ。
谷山
人間ならOK!
一同
(笑)
糸井
そうそうそう。
笑うけどさ、ほんとにそうなの。
コピーライターとしては、
ちゃんとそう書いてるんだから。
谷山
へんな話、この人手不足の時代に
もう一度このCMをリメイクして流しても、
すごいウケると思いますよ。
ぼくは大好きなCMです。
糸井
リメイクって(笑)。
谷山
いや、ほんとほんと。
すごい大好きなんですけど、
糸井さんの中ではそこまで
フィーチャーされてないんでしょうか。
糸井
いやいや、
ぼくは自分のやってる小さい仕事は大好きです。
こういうCMとか、当たらなかった歌謡曲とか、
そういうの大好きですから。
春やすこ・けいこの歌とかね。
谷山
へえー、それは知らないですね。
糸井
ザ・ぼんちの歌とかね。
谷山
ああー、そんな曲まで(笑)。
あっ、ぼくがいつも人に言っていることがあって、
糸井さんも以前に「今日のダーリン」で
書いていらしたかもしれませんが、
『PATA PATA(パタパタ)』がすばらしくて。
糸井
ああ、松本伊代さんの『パタパタ』。
作曲は筒美京平さんです。
谷山
『TVの国からキラキラ』のB面なんですよ。
筒美京平さんのメロディーももちろんいいけど、
糸井さんの歌詞がもう最高だと思います。
ほんとに。
糸井
ほんとです(笑)。
谷山
っていうかいま、ぼくらの前にいる
ほぼ日の人たちも聴いたことないのかな?
絶対聴いてね、っていうぐらいすばらしいから。
糸井
これはね、キョンキョンが
ヤキモチ妬いたんだから。
谷山
え、ほんとですか?
糸井
糸井さんは伊代ちゃんにばっかり作ってたから、
私は頼めなかったって言ってました。
谷山
えーっ、そんなことを。
糸井
うん、『パタパタ』いいですよ。

(次回ご紹介するコピーは
新潮文庫の「想像力と数百円」です)

2024-10-15-TUE

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