- 谷山
- じゃあ、次行きましょうか。
この流れからすると、
ちょっと軽い感じもするコピーかなと思いつつ、
ぼくはすごく印象に残っています。
「人間だったらよかったんだけどねえ。」
という、日刊アルバイトニュースのCMですよね。
- 糸井
- そうです。
- 谷山
- これまでご紹介してきたコピーに比べると、
これは、それほど知られていないかなと。
- 糸井
- いや、思えば西武百貨店の広告だって、
そのものを見ている人は少ないんですよ。
つまり、広告を紹介するメディアで
紹介されることで有名になったんです。
だから、広告として見られてないの。
- 谷山
- このCMはぼくが説明してもいいですか。
まず、舞台はたい焼き屋さんでしたかね。
- 糸井
- 麻布十番の浪花屋です。
- 谷山
- 浪花屋で撮影をして‥‥。
- 糸井
- いや、そのセットなの。
- 谷山
- そうか、浪花屋のセットでしたかっ!
そこになぜか牛がやってきて、
たい焼き屋の女将さんが
「あんた!」ってご主人に。
- 糸井
- 「アルバイトしたいっていう学生さんが来たんだけどね」
と言うと牛が来ていて、
「ああ、人間だったらよかったんだけどねえ」っていう。
- 一同
- (笑)
- 谷山
- たしか横に、雑誌を持った斉藤慶子さんが、
佇んでましたよね。
- 糸井
- その次で、キョンキョンだったときもあったね。
- 谷山
- それは富士山のほうですね。
- 糸井
- 「日刊アルバイトニュース見たんだってぇ」って
富士山がやってくるんですよ。
- 谷山
- 富士山が詰め襟を着ていたような気が。
- 糸井
- 富士山も学生だからさ。
- 一同
- (笑)
- 谷山
- なんか不思議な歌詞が
校歌みたいなのが後ろに流れていて、
「人間だったらよかったんだけどねえ」
「立派だけどねえ」って言ってませんでした?
- 糸井
- いやあ、よく覚えてるね。
- 谷山
- すごい好きなんですよ、このシリーズ。
これはこれで、さきほどの西武百貨店の
カルチャーとしての広告とは別で、
この軽(かろ)みのようなものも
1980年代らしい広告だって、ぼくは思います。
- 糸井
- これも状況から説明しないといけませんね。
西武百貨店の広告を一緒に作っていた
ピラミッドフィルムっていう会社がありまして。
その中にお調子者のプロデューサーが
何人かいた中の1人が斉藤くんってやつで。
- 谷山
- ああ、あの斉藤さん。わかります。
- 糸井
- 彼と知り合いになって、
斉藤くんの友達がやってる仕事で
予算もあんまりないんだけど
手伝ってほしいって頼まれたんです。
いいよって答えたんだけど、
全部をやってほしいって言われたの。
- 谷山
- 全部?
- 糸井
- うん、絵コンテからぼくが描いてるの。
- 谷山
- はあー、そうなんですか。
- 糸井
- そういう仕事をしてみたかったんですよ。
コピーだけじゃなくて、
たい焼き屋の絵を描いて、
そこに「あんた!」っていうセリフも書いて、
牛が来てっていうのを、全部書きました。
これは関谷宗介さんに演出を頼んだんです。
- 谷山
- 当時見ていたときには、
本当に応募してきた学生が
斉藤慶子さんやキョンキョンで、
牛や富士山は関係ないと思っていたんです。
けど、そういうことではないんですね。
- 糸井
- ぜんっぜん関係ないの(笑)。
かわいい子がそこにいるだけなのがいい。
牛だけで終わっちゃうのも、
なんか愛想がないからさ。
- 谷山
- たしかに牛だけで終わっちゃうと、
あまりにもシュールすぎますね。
- 糸井
- 「おまえら、勝手に遊んでるだろ」ってなっちゃうの。
キョンキョンがアルバイトニュース持ってれば、
そういうコマーシャルだなと思ってくれるから。
- 谷山
- ラストのキョンキョンや斉藤慶子さんが、
メジャー感を担保しているのはありました。
- 糸井
- そこに「だんぜん・日刊アルバイトニュース♪」って
コピーがそこに入るんだけど、
そういうなんでもないやつが上手いんだ、おれ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ちなみに浪花屋の大将とは
このときにまた仲よくなってさ、
ぼくと浪花屋のおじさんの2人でタレントになって、
牛乳協会のコマーシャルに出たことあるよ。
- 谷山
- へーっ、そんなのありましたっけ(笑)。
- 糸井
- 牛乳のCMだからさ、
ぼくは牛柄の服を着てるの。
- 谷山
- いやあ、これまでのコピーに比べたら
お話もわりと軽く終わってますけど。
- 糸井
- これもだからさ、
すべてを受け入れるっていうのが
日刊アルバイトニュースなんですよ。
- 谷山
- 人間ならOK!
- 一同
- (笑)
- 糸井
- そうそうそう。
笑うけどさ、ほんとにそうなの。
コピーライターとしては、
ちゃんとそう書いてるんだから。
- 谷山
- へんな話、この人手不足の時代に
もう一度このCMをリメイクして流しても、
すごいウケると思いますよ。
ぼくは大好きなCMです。
- 糸井
- リメイクって(笑)。
- 谷山
- いや、ほんとほんと。
すごい大好きなんですけど、
糸井さんの中ではそこまで
フィーチャーされてないんでしょうか。
- 糸井
- いやいや、
ぼくは自分のやってる小さい仕事は大好きです。
こういうCMとか、当たらなかった歌謡曲とか、
そういうの大好きですから。
春やすこ・けいこの歌とかね。
- 谷山
- へえー、それは知らないですね。
- 糸井
- ザ・ぼんちの歌とかね。
- 谷山
- ああー、そんな曲まで(笑)。
あっ、ぼくがいつも人に言っていることがあって、
糸井さんも以前に「今日のダーリン」で
書いていらしたかもしれませんが、
『PATA PATA(パタパタ)』がすばらしくて。
- 糸井
- ああ、松本伊代さんの『パタパタ』。
作曲は筒美京平さんです。
- 谷山
- 『TVの国からキラキラ』のB面なんですよ。
筒美京平さんのメロディーももちろんいいけど、
糸井さんの歌詞がもう最高だと思います。
ほんとに。
- 糸井
- ほんとです(笑)。
- 谷山
- っていうかいま、ぼくらの前にいる
ほぼ日の人たちも聴いたことないのかな?
絶対聴いてね、っていうぐらいすばらしいから。
- 糸井
- これはね、キョンキョンが
ヤキモチ妬いたんだから。
- 谷山
- え、ほんとですか?
- 糸井
- 糸井さんは伊代ちゃんにばっかり作ってたから、
私は頼めなかったって言ってました。
- 谷山
- えーっ、そんなことを。
- 糸井
- うん、『パタパタ』いいですよ。
(次回ご紹介するコピーは
新潮文庫の「想像力と数百円」です)
2024-10-15-TUE