糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(6)「想像力と数百円」

谷山
次のコピーが新潮社の
「想像力と数百円」でございます。
以前、TCC60周年イベントのゲストで
来ていただいたときにこのコピーについて、
「最初から不朽の名作を書こうと思って書いた」
と糸井さん自らおっしゃっていました。
いやあ、かっこいいですよね。
糸井
そんなこと言ったんだ(笑)。

1984 想像力と数百円 (新潮社/新潮文庫の100冊)

谷山
実際、ぼくのコピーの授業を受けに来るような
コピーライターやコピーライター志望の人に、
「好きなコピーは何ですか?」って聞いてみると、
40年前の「想像力と数百円」って書く人が、
まだまだたくさんいるんですよ。
ホントに不朽の名作になったなあって
思うんですけど、いかがでしょうか。
糸井
そんなこと言ったんだね(笑)。
まずこれは、キャッチフレーズじゃないんですよ。
谷山
ああ、そうですよね。
糸井
ロゴの上にあるショルダーコピーと呼ばれてるやつで、
企業スローガンに近いようなものですね。
「新潮文庫って、なあに?」って言われたときに、
これを上に乗せておくのが「想像力と数百円」。
ショートケーキで言うイチゴみたいな場所にあるやつで、
不朽の名作を書こうと思ったんですよ(笑)。
谷山
いや、そのお話を聞いたときに、
ほんと「かっこいい‥‥」と思いましたから。

糸井
その頃からわかっていた問題があってさ、
文庫本が数百円じゃなくなる時代が
いつかくるだろうなと思っていました。
谷山
もうすでにちょっと1000円を超えるものも‥‥。
まだ数百円の方が多いですかね。
糸井
これも環境の話から説明すると、
それまで新潮文庫のコピーは、
仲畑くんのやっていた仕事だったんです。
谷山
はいはいはい、知ってますとも。
仲畑さんの作っていた広告にも、
名作と言われるコピーがありますよね。
「知性の差が顔に出るらしいよ…困ったね。」
とか、ちゃんと覚えています。
糸井
桃井かおりさんがタレントで、
仲畑くんがずっとやってた仕事でした。
でも、なぜかサン・アドから、
コピーをお願いしたいって頼まれたんです。
谷山
あら、何かあったんですかね。
糸井
その頃はもう仲畑くんと友達になってるから、
仲畑くんが言ったのかもしれないなあ。
でも、仲畑くんの仕事だったわけだから、
これもまたプレッシャーなんですよ。
つまり、上手じゃないと
バカにされるタイプの仕事じゃないですか。
谷山
まあ、そうですよね。
糸井
満塁でバッターボックス! みたいな話です。
逆に言うと、フリーの仕事をしてると
そんな話しか来ないんですよね。
でも、サン・アドとできるっていうのは、
おもしろいなと思った。
アートディレクターが副田高行さんで、
しつらえも全部サン・アドがやってくれました。
フリーのぼくとしては、
サン・アドのチームと仕事できるのがうれしくて、
けっこう気張ってはじまったんですよね。
この「想像力と数百円」については、
すぐにはできなかったかもしれない。
でも、タレントから決めていかなきゃならなくて。
谷山
はいはい。
糸井
どうしたかっていうと、
井上陽水さんがタレントとして
引き受けてくれたらいいなあって考えたんです。
あの詞の要素は、ちょっと文学的だから。
出演OKになったんで実現することになって、
サン・アドのチームと一緒に、
どうやろうかって考えていたんです。
コピーができるよりも先に、
最初から、1月にあったかいプールの
広告を出そうよって話をしたんです。
冬に夏をやって、夏に真冬をやるっていう。
谷山
そういうCM、ありましたね。
糸井
CMも全部ロケして撮ってましたね。
年間で引き受けた人ならではの作り方をしたくて、
正月広告をサイパンかグアムで作って、
夏の広告を然別湖(しかりべつこ)で作る。
夏に雪景色を出したかったんです。
「100冊ぜんぶ読むと、
とんでもないことになると思う。」や、
「自慢ではありませんが井上君もダザイでした。」
というコピーでスタートしたのが、
ぼくの新潮文庫デビューだったんじゃないかな。
そういう設定がないと、ぼくも、
一所懸命やる動機みたいなものを保つのが
難しかったんだと思いますね。
ポスターの上の方では自由にやってるのに、
しっかりとしたショルダーコピーがあれば、
上でのびのびとできるわけだから。
谷山
ああ、そこからはじまっていたんですね。
夏冬の逆転はCMでよく覚えていましたけど、
それが最初だっていうのは意外でした。
糸井
うん、たしかそうだったんじゃないかな。
谷山
あ、たしかに当時のCMでも、
「想像力と数百円」と言っていましたね。
糸井
言わないとおさまらないんですよ。
ちなみに、新潮社のロケのこぼれ話としては、
然別湖に氷でホテルを作ったんですよ。
谷山
また、いろんなものをつくりますねえ。
糸井
真冬の然別湖は全部結氷してるんで、
切り出した氷をブロックにしてホテルを作って、
ベッドとかバーカウンターも作って、
そこでお酒が飲めて、寝れば寝られるっていう
状況を作ったんですよ。
その前で、井上陽水さんが防寒服を着て、
文庫本を読んでるっていう広告を作ったんです。
その頃は、案内してくれる地元の人たちと、
通行禁止の道を通って然別湖に行くぐらい
凍っているような場所だったんですよ。
でも、氷上のホテルで撮影すると決めてロケをしたら、
なんとそれが、そのまま生き延びちゃった。
然別湖は氷上にホテルを作るのが
名物の観光地になっちゃったんですよ。
たぶん、今年もまたあるんじゃないですかね。

谷山
へえー、まだあるんですね!
さっき言ったように、
今でも「想像力と数百円」というコピーが
コピーライターやコピーライター志望者から
すごく人気があるというのは、
時代と関係なくわかるという意味において
突出しているんだと思います。
「不思議、大好き。」や「おいしい生活。」は、
その時代性がわかってないと、
説明されないとわからないところもありますから。
ただ、おそらく千何百円の文庫本が出てきても
あまり影響はないと思うですけど、
これからどんどん電子マネーになって、
小銭を出すような行為が一切なくなったら、
ちょっとわからなくなるのかなぁって。
糸井
そうですね、コインの印象がないと。
谷山
あの、ちょっと聞いておきたかったことがありまして、
前々から、このコピーのインスパイアは
「月と六ペンス」なのかなとずっと思ってて。
糸井
言ってるよ、それは。
谷山
あれっ、言ってました?
糸井
みんなが「おれにはわかるんですよ」みたいに
ぼくに言ってくるんだけどさ、言ってるもん。
谷山
ああ、そうでしたか。
それは誰かに聞いた話ではなくて、
「月と六ペンス」かなって思ってたら、
この前、別の人と話していても
「月と六ペンス」かなって言ってまして。
糸井
うん、言ったからね。
谷山
言ってたんですか!
糸井
ただ、「月と六ペンス」と構造が違うのは、
月を六ペンスで買うわけじゃないってことかな。
谷山
構造は全然違いますね。
糸井
あれは商品じゃなくて、詩なんですよね。
六ペンスというお金を入れているのが、
詩になってるわけですよ。
それは、読んでもいないタイトルだけど、
子ども心にかっこいいなと思いました。
谷山
かっこいいですよね、「月と六ペンス」って。
糸井
六ペンスのところに数百円って入れることで、
「知は商品じゃないよ」というのと、
「知は商品だよ」っていう合間のところの
橋みたいなものをつなげてくれるんです。
谷山
ちなみに「月と六ペンス」は、
サマセット・モームが
ゴーギャンをモデルに書いた小説ですけど、
その言葉自体は日本で言うところの
「月とすっぽん」らしいですね。
糸井
へえー、月とすっぽん。
谷山
月も丸いし、六ペンス硬貨も丸いけれども、
こんなに違うっていう意味だそうです。
糸井
もともとは、おしゃれなんじゃない?
日本がすっぽんを例に出しちゃったために
おしゃれじゃなくしちゃっただけで。
谷山
すっぽんってところで、
ギャグみたいになっちゃった。
糸井
タコを入れるとみんな笑っちゃうのと同じで、
「月と六ペンス」はじゅうぶん「詩」じゃないかな。

(次回も新潮文庫のコピーで、
「拳骨で読め。乳房で読め。」です)

2024-10-16-WED

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