糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(7)「拳骨で読め。乳房で読め。」

糸井
そういえば谷山くんも
新潮文庫の広告やってたよね?
谷山
まさに「想像力と数百円」が終わった後で、
大貫卓也さんとぼくで作ることになりまして。
糸井
そっか、「Yonda?」だ!
谷山
糸井さんが長年ずーっと新潮文庫をやられていた後に、
新潮社から大貫卓也さんに依頼がきたんです。
その大貫さんからぼくのところに、
「谷山、ちょっと一緒にやってくれない?」
と言われてできたのが「Yonda?」ですね。
大貫さんもぼくも「想像力と数百円」が
大好きだったんですよ。
最初に大貫さんと話していたのが
「なんでこんな素晴らしいコピーを俺らがやめにして、
違うのにしなきゃいけないんだ!」みたいな、
打ち合わせがそこからはじまったんですよ。
ホントにそう思っていたんで、
まったく違う土俵のことをやらなきゃいけないと思って
「Yonda?」ができました。
糸井
「想像力と数百円」をロゴの上に乗っけといて、
好き放題に「Yonda?」とかやっても
よかったわけですよね。
「お買い物はそごう」みたいにさ。
谷山
でもちょっと「お買い物はそごう」と比べると、
クリエイティビティがありすぎて逆に難しい(笑)。
それでは、次にいきましょうか。
新潮文庫で「想像力と数百円」は
いわゆるショルダーコピーでしたけれど、
毎年キャンペーンをやっていた中で、
小林薫さんが出演されていた
「インテリげんちゃんの、夏やすみ。」で
ブレイクした感がありました。
その次の年が、緒形拳さんの
「拳骨で読め。乳房で読め。」でした。
どっちを選ぼうかなって思ったんですけど、
拳骨とか乳房っていう肉体性の言葉で
本のコピーを書いているのがすごい新鮮で、
こちらを選ばせていただきました。
こちらも、非常に有名なコピーです。

1987 拳骨で読め。乳房で読め。(新潮社/新潮文庫の100冊)

糸井
べつに有名でもないんだよ。
ポスターがちょっと貼られたぐらいで、
書店に行った人とか、夏の100冊っていうのを
すすめられた人以外は見てないと思うから。
谷山
コピーライター界では有名なんですよ。
糸井
広告としてニュースになったのが、
さらにニュースになってるだけなんですよ。
ほら、ぼくは地方競馬出身だからさ、
すごくたくさんの出稿量があるような
大きな会社の広告はまだやってなかったから。
谷山
また地方競馬が(笑)。
糸井
でも、新潮社の広告の場合は、
ちょっと褒められないといけない仕事なんですよ。
谷山
ああ、その感じは
ぼくも担当していたんでわかります。
糸井
新潮社の人に、さすがだねって
言われないといけない仕事をしなきゃならない。
それは、歌を作るのでも何でも、
褒められる作り方っていうのを時々してないと、
作詞家としてバカにされるんですよ。
谷山
ほほう。
糸井
どっかで、「あれ好きです」って
言われるようなのがないといけない。
「拳骨で読め。乳房で読め。」っていうのは、
谷山くんの言った通り、
肉体で読みましょうよってことなんですよね。
谷山
「拳骨で読め。乳房で読め。」には
肉体性を持ち込んでいますけど、
このコピーを見た後に残る感じは、
けっこうインテリジェンスもありますよね。
糸井
そうなんです。
谷山
そこがなんか新潮文庫らしいなって。
糸井
褒められなきゃいけないんでね。
あとはこのコピーの中に、おっぱいを入れてますよね。
キャッチフレーズにおっぱいを入れるのって、
ものすごい難しいじゃないですか。
ゆるいコピーを書いちゃうと、
そこにおっぱいは入れられないですよ。
セーフ! って言わせるくらいの
言葉のデザインができてないといけません。
拳骨と対応させるぐらいのことをしなくっちゃ。
谷山
石岡怜子さんがデザインした
ポスターもカッコよかったですよね。
糸井
ああ、そうでしたねえ。
この「拳骨で読め。乳房で読め。」で
ぼくが言いたかったことはつまり、
読書ってのはいっぱい読めばいいって
ことじゃないってことなんです。
夏に読書感想文の課題として
1冊読めっていう宿題が出ることもあるから、
普段から本を読まない人が
読まなきゃならないなぁと思ってるわけですよ。
そんなときに、いけいけ!っていうコピーが
夏の「新潮社の100冊」には欲しかった。
そこで「青空は、史上最大の読書灯である。」
みたいなコピーを書いていたわけです。
「インテリげんちゃんの、夏やすみ。」もそうで、
インテリゲンチャのことを
ちょっとナメているところがあります。
谷山
「げんちゃん」で軽くしていますもんね。
糸井
そうなんです。
本を読む人がエラいっていうイメージを
外しちゃいたいっていうのが、
ぼくが新潮文庫の広告をやっているときの
大きなテーマでした。
谷山
うん、うん。
糸井
読書をいっぱいしている人が
自慢できるような社会って、ぼくは嫌いなんです。
たまたま彼の人生がそっちに向かっていただけで、
本なんか読む暇なかったよっていう人もいるし、
流れによっては、大学にも高校にも行かないで、
中学を出てものすごく本を読んでる人もいる。
一生に一冊しか読んでない人もいるし。
それも全部「僕の君は世界一。」だからさ、
全部に幸あれって言いたいね。

谷山
たしかに、おっしゃるとおりですよね。
集英社文庫では「ナツイチ」って言ってて、
最初から1冊読めばいいよっていう世界で
ずっとやっていましたが、
新潮文庫は100冊も選んでいるっていう。
一同
(笑)
糸井
100冊推薦しますから、
どれでも読んでくださいっていう
棚を作るための戦略なんですよね。
谷山
戦略なんでしょうけどね。
逆に、集英社の1冊でいいっていうのは、
ものすごいハードルを下げる開き直りで、
ちょっと驚きましたけどね。
糸井
何を言ったって難しいんですよ。
「ナツイチ」だろうが「100冊」だろうが、
本を読むのって運なんだから。
友達の2人ぐらいが
すっごくおもしろいぞって言えば、
その本をいちおう読んだりもするし、
そういうムードを作るのが大事なんですよね。
谷山
そうですね、うん。
糸井
本を読むようにコピーが連れて行くっていうのは、
やっぱりインテリが読むことが多いんで、
時々インテリに褒められたいコピーを書くんです。
谷山
先ほどからおっしゃっている、
新潮文庫では褒められるような
仕事をしなきゃいけないっていうのはわかります。
そういうブランドのクライアントって、
いくつか存在していて、そのうちの1つですよ。
だから、糸井さんが広告をやめられるときに、
ぼくも担当することになったとき、
すごくうれしかったんですよ。
「ついに俺も新潮文庫のコピーを書くときが来た!」
と思っていたんですが、ぼくの場合は16年間、
メインコピーは「Yonda?」だけでした(笑)。
糸井
へえーっ。
谷山
大貫さんが変えなかったので。
もうずっとパンダのキャラクターと
「Yonda?」だけでしたね。
糸井
うん、それはそれですごいですね。

(次回も本が題材ですが、パルコのコピー
「本読む馬鹿が、私は好きよ。」です)

2024-10-17-THU

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