- 糸井
- そういえば谷山くんも
新潮文庫の広告やってたよね?
- 谷山
- まさに「想像力と数百円」が終わった後で、
大貫卓也さんとぼくで作ることになりまして。
- 糸井
- そっか、「Yonda?」だ!
- 谷山
- 糸井さんが長年ずーっと新潮文庫をやられていた後に、
新潮社から大貫卓也さんに依頼がきたんです。
その大貫さんからぼくのところに、
「谷山、ちょっと一緒にやってくれない?」
と言われてできたのが「Yonda?」ですね。
大貫さんもぼくも「想像力と数百円」が
大好きだったんですよ。
最初に大貫さんと話していたのが
「なんでこんな素晴らしいコピーを俺らがやめにして、
違うのにしなきゃいけないんだ!」みたいな、
打ち合わせがそこからはじまったんですよ。
ホントにそう思っていたんで、
まったく違う土俵のことをやらなきゃいけないと思って
「Yonda?」ができました。
- 糸井
- 「想像力と数百円」をロゴの上に乗っけといて、
好き放題に「Yonda?」とかやっても
よかったわけですよね。
「お買い物はそごう」みたいにさ。
- 谷山
- でもちょっと「お買い物はそごう」と比べると、
クリエイティビティがありすぎて逆に難しい(笑)。
それでは、次にいきましょうか。
新潮文庫で「想像力と数百円」は
いわゆるショルダーコピーでしたけれど、
毎年キャンペーンをやっていた中で、
小林薫さんが出演されていた
「インテリげんちゃんの、夏やすみ。」で
ブレイクした感がありました。 - その次の年が、緒形拳さんの
「拳骨で読め。乳房で読め。」でした。
どっちを選ぼうかなって思ったんですけど、
拳骨とか乳房っていう肉体性の言葉で
本のコピーを書いているのがすごい新鮮で、
こちらを選ばせていただきました。
こちらも、非常に有名なコピーです。
- 糸井
- べつに有名でもないんだよ。
ポスターがちょっと貼られたぐらいで、
書店に行った人とか、夏の100冊っていうのを
すすめられた人以外は見てないと思うから。
- 谷山
- コピーライター界では有名なんですよ。
- 糸井
- 広告としてニュースになったのが、
さらにニュースになってるだけなんですよ。
ほら、ぼくは地方競馬出身だからさ、
すごくたくさんの出稿量があるような
大きな会社の広告はまだやってなかったから。
- 谷山
- また地方競馬が(笑)。
- 糸井
- でも、新潮社の広告の場合は、
ちょっと褒められないといけない仕事なんですよ。
- 谷山
- ああ、その感じは
ぼくも担当していたんでわかります。
- 糸井
- 新潮社の人に、さすがだねって
言われないといけない仕事をしなきゃならない。
それは、歌を作るのでも何でも、
褒められる作り方っていうのを時々してないと、
作詞家としてバカにされるんですよ。
- 谷山
- ほほう。
- 糸井
- どっかで、「あれ好きです」って
言われるようなのがないといけない。
「拳骨で読め。乳房で読め。」っていうのは、
谷山くんの言った通り、
肉体で読みましょうよってことなんですよね。
- 谷山
- 「拳骨で読め。乳房で読め。」には
肉体性を持ち込んでいますけど、
このコピーを見た後に残る感じは、
けっこうインテリジェンスもありますよね。
- 糸井
- そうなんです。
- 谷山
- そこがなんか新潮文庫らしいなって。
- 糸井
- 褒められなきゃいけないんでね。
あとはこのコピーの中に、おっぱいを入れてますよね。
キャッチフレーズにおっぱいを入れるのって、
ものすごい難しいじゃないですか。
ゆるいコピーを書いちゃうと、
そこにおっぱいは入れられないですよ。
セーフ! って言わせるくらいの
言葉のデザインができてないといけません。
拳骨と対応させるぐらいのことをしなくっちゃ。
- 谷山
- 石岡怜子さんがデザインした
ポスターもカッコよかったですよね。
- 糸井
- ああ、そうでしたねえ。
この「拳骨で読め。乳房で読め。」で
ぼくが言いたかったことはつまり、
読書ってのはいっぱい読めばいいって
ことじゃないってことなんです。
夏に読書感想文の課題として
1冊読めっていう宿題が出ることもあるから、
普段から本を読まない人が
読まなきゃならないなぁと思ってるわけですよ。
そんなときに、いけいけ!っていうコピーが
夏の「新潮社の100冊」には欲しかった。
そこで「青空は、史上最大の読書灯である。」
みたいなコピーを書いていたわけです。
「インテリげんちゃんの、夏やすみ。」もそうで、
インテリゲンチャのことを
ちょっとナメているところがあります。
- 谷山
- 「げんちゃん」で軽くしていますもんね。
- 糸井
- そうなんです。
本を読む人がエラいっていうイメージを
外しちゃいたいっていうのが、
ぼくが新潮文庫の広告をやっているときの
大きなテーマでした。
- 谷山
- うん、うん。
- 糸井
- 読書をいっぱいしている人が
自慢できるような社会って、ぼくは嫌いなんです。
たまたま彼の人生がそっちに向かっていただけで、
本なんか読む暇なかったよっていう人もいるし、
流れによっては、大学にも高校にも行かないで、
中学を出てものすごく本を読んでる人もいる。
一生に一冊しか読んでない人もいるし。
それも全部「僕の君は世界一。」だからさ、
全部に幸あれって言いたいね。
- 谷山
- たしかに、おっしゃるとおりですよね。
集英社文庫では「ナツイチ」って言ってて、
最初から1冊読めばいいよっていう世界で
ずっとやっていましたが、
新潮文庫は100冊も選んでいるっていう。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 100冊推薦しますから、
どれでも読んでくださいっていう
棚を作るための戦略なんですよね。
- 谷山
- 戦略なんでしょうけどね。
逆に、集英社の1冊でいいっていうのは、
ものすごいハードルを下げる開き直りで、
ちょっと驚きましたけどね。
- 糸井
- 何を言ったって難しいんですよ。
「ナツイチ」だろうが「100冊」だろうが、
本を読むのって運なんだから。
友達の2人ぐらいが
すっごくおもしろいぞって言えば、
その本をいちおう読んだりもするし、
そういうムードを作るのが大事なんですよね。
- 谷山
- そうですね、うん。
- 糸井
- 本を読むようにコピーが連れて行くっていうのは、
やっぱりインテリが読むことが多いんで、
時々インテリに褒められたいコピーを書くんです。
- 谷山
- 先ほどからおっしゃっている、
新潮文庫では褒められるような
仕事をしなきゃいけないっていうのはわかります。
そういうブランドのクライアントって、
いくつか存在していて、そのうちの1つですよ。
だから、糸井さんが広告をやめられるときに、
ぼくも担当することになったとき、
すごくうれしかったんですよ。
「ついに俺も新潮文庫のコピーを書くときが来た!」
と思っていたんですが、ぼくの場合は16年間、
メインコピーは「Yonda?」だけでした(笑)。
- 糸井
- へえーっ。
- 谷山
- 大貫さんが変えなかったので。
もうずっとパンダのキャラクターと
「Yonda?」だけでしたね。
- 糸井
- うん、それはそれですごいですね。
(次回も本が題材ですが、パルコのコピー
「本読む馬鹿が、私は好きよ。」です)
2024-10-17-THU