- 谷山
- 新潮社の流れがありまして、
その次にご紹介するのが
「本読む馬鹿が、私は好きよ。」です。
これはパルコの広告ですけど、
新潮文庫用に書いたコピーだったというお話を
うかがったことがあるんですよ。
- 糸井
- そうです。
もともと新潮文庫のコピーとして
書いたものではあるんですよ。
だけど、これでは通らないんです。
つまり、本を読む人に馬鹿っていうのは
どうかと思うっていうことなんですよね。
たしかにそうなんですが、
ものすごく褒めてるんですけどね。
- 谷山
- ぼくは大好きですよ。
パルコのコピーとしても好きだったんですけど、
もしも新潮文庫でこれが出たら、
これはすごいことだなって思ったでしょうね。
だってこれ、絶対に褒めてますよね。
- 糸井
- 褒めてますよ。
それと同時に、本読む馬鹿だって言われて
怒る人には向けてないんですよね。
これは、ぼくとしては、
このフレーズ全部をいっぺんに思いついたんです。
メモしたか、してないかも忘れたけど、
すぐに記憶したぐらい、
「あ、できた」って思ったコピーです。
- 谷山
- いや、ぼくは最高だなと思ってます。
- 糸井
- いいですよね。
- 谷山
- そういう「本読む馬鹿」が増えてくれた方が、
文庫本だってもっと読む人が
増えたんじゃないかって思いますもん。
コピーだけでは変わらないのかもしれないですけど。
- 糸井
- 結局パルコの広告になったときには、
いわゆるグラマラスな女の子の写真でやって、
これはこれでおもしろかったけど、
誰が言ってもいいんですよね。
- 谷山
- うーん。
- 糸井
- たとえば、ぼくが鉄道好きだったとしたら、
「鉄道オタクの馬鹿が私は好きよ」って言われたら、
その好きっていうところに結論があるわけだから、
悪い気はしないんですよ。
- 谷山
- でも、なんか鉄道オタクの馬鹿より、
本読む馬鹿の方がかっこいい気がするんですけど。
- 糸井
- それは、谷山くんが本読む馬鹿の方だから。
- 一同
- (笑)
- 谷山
- ああ、そうかもしれない。
- 糸井
- これがもし「空手をやる馬鹿が」だったら、
きっとダメなんだろうね。
- 谷山
- 空手だと印象が変わりますね。
- 糸井
- だから、文科系の趣味を
上に乗っけないとダメなんでしょうね。
- 谷山
- ちなみにこのコピー、
CMで言葉が変わっていませんでしたか。
すごいグラマラスな女性が出てきて、
「なおかつ、読書好き。」という
ナレーションだったように記憶してまして。
- 糸井
- ああ、それもあったかもしれない。
- 谷山
- それは、なにか意図的なものだったんでしょうか。
ひょっとして、CMで「馬鹿」という言葉が
使えなくなったとか、
そういった事情があったのでしょうか。
- 糸井
- いや、そういうのではないですね。
CMで「本読む馬鹿が、私は好きよ。」っていうのは、
ナレーションとしては言いづらいんです。
「なおかつ、読書好き。」の方がCMには向いてますね。
- 谷山
- CMも印象的でしたよ。
それにしても「本読む馬鹿が、私は好きよ。」は、
新潮社からでなく、パルコで発信されても、
やっぱりすごく強かったと思うんです。
いいですよね、すばらしいなって思います。
- 糸井
- ありがとうございます。
このくらいのものが
すっばらしいかどうかはわかんないけど、
このくらいちゃんと作ったものが、
世の中の広告にいっぱいあってほしいね。
- 谷山
- 最近の広告については、
何年か前から糸井さんが
不満に思っていることがありますよね。
一時期に比べたら減ったかもしれませんけど、
とにかくビールを飲んで
「うまい!」って叫ぶような
CMばっかりになっていた、みたいな。
- 糸井
- そうなっちゃいましたよね。
- 谷山
- それに関してはいろんな理由があって、
世の中のあらゆる企業で
ある一つのマーケティング的な考え方が
わあっと広まって、
広告というより、プロパガンダみたいな感じかな。
商品をとにかく大きく出して、
伝えたいことをとりあえず大きく叫んで、
それをいっぱい出稿すればいいんだっていう
考え方が流行ったことがあったんです。
強者の戦い方としては間違いじゃないんですよ。
何十億円も使える企業なら、
たしかにそれでもいいのかもしれませんが。
- 糸井
- 何十億円も使うんだ。
- 谷山
- そんなにお金が使えちゃうから、
知恵とかじゃなくなるんですよね。
- 糸井
- だったら、くれ!(笑)
- 谷山
- わははは!
いやあ、だんだんぼくがしゃべる量が
増えてきている気がするんです。
よくないですよね。
糸井さんにしゃべっていただく会なのに。
- 糸井
- そんな会なんだ(笑)。
- 谷山
- 正直に言うと、
もし糸井さんが今日来れなくなったとしても、
ぼくひとりでも一応、
ぼくなりの解説はできちゃうぐらいの
準備はしてるっていう話を
収録前にしていたんですよね。
だから、糸井さんに申し訳ないっていうか、
こんなにぼくがしゃべっちゃダメなんです。
はい、次にいきましょう。
(次回は「くうねるあそぶ。」につづきます)
2024-10-18-FRI