糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(8)「本読む馬鹿が、私は好きよ。」

谷山
新潮社の流れがありまして、
その次にご紹介するのが
「本読む馬鹿が、私は好きよ。」です。
これはパルコの広告ですけど、
新潮文庫用に書いたコピーだったというお話を
うかがったことがあるんですよ。

1988 本読む馬鹿が、私は好きよ。(パルコ)

糸井
そうです。
もともと新潮文庫のコピーとして
書いたものではあるんですよ。
だけど、これでは通らないんです。
つまり、本を読む人に馬鹿っていうのは
どうかと思うっていうことなんですよね。
たしかにそうなんですが、
ものすごく褒めてるんですけどね。
谷山
ぼくは大好きですよ。
パルコのコピーとしても好きだったんですけど、
もしも新潮文庫でこれが出たら、
これはすごいことだなって思ったでしょうね。
だってこれ、絶対に褒めてますよね。
糸井
褒めてますよ。
それと同時に、本読む馬鹿だって言われて
怒る人には向けてないんですよね。
これは、ぼくとしては、
このフレーズ全部をいっぺんに思いついたんです。
メモしたか、してないかも忘れたけど、
すぐに記憶したぐらい、
「あ、できた」って思ったコピーです。
谷山
いや、ぼくは最高だなと思ってます。
糸井
いいですよね。
谷山
そういう「本読む馬鹿」が増えてくれた方が、
文庫本だってもっと読む人が
増えたんじゃないかって思いますもん。
コピーだけでは変わらないのかもしれないですけど。
糸井
結局パルコの広告になったときには、
いわゆるグラマラスな女の子の写真でやって、
これはこれでおもしろかったけど、
誰が言ってもいいんですよね。
谷山
うーん。
糸井
たとえば、ぼくが鉄道好きだったとしたら、
「鉄道オタクの馬鹿が私は好きよ」って言われたら、
その好きっていうところに結論があるわけだから、
悪い気はしないんですよ。
谷山
でも、なんか鉄道オタクの馬鹿より、
本読む馬鹿の方がかっこいい気がするんですけど。
糸井
それは、谷山くんが本読む馬鹿の方だから。
一同
(笑)
谷山
ああ、そうかもしれない。
糸井
これがもし「空手をやる馬鹿が」だったら、
きっとダメなんだろうね。
谷山
空手だと印象が変わりますね。
糸井
だから、文科系の趣味を
上に乗っけないとダメなんでしょうね。
谷山
ちなみにこのコピー、
CMで言葉が変わっていませんでしたか。
すごいグラマラスな女性が出てきて、
「なおかつ、読書好き。」という
ナレーションだったように記憶してまして。
糸井
ああ、それもあったかもしれない。
谷山
それは、なにか意図的なものだったんでしょうか。
ひょっとして、CMで「馬鹿」という言葉が
使えなくなったとか、
そういった事情があったのでしょうか。

糸井
いや、そういうのではないですね。
CMで「本読む馬鹿が、私は好きよ。」っていうのは、
ナレーションとしては言いづらいんです。
「なおかつ、読書好き。」の方がCMには向いてますね。
谷山
CMも印象的でしたよ。
それにしても「本読む馬鹿が、私は好きよ。」は、
新潮社からでなく、パルコで発信されても、
やっぱりすごく強かったと思うんです。
いいですよね、すばらしいなって思います。
糸井
ありがとうございます。
このくらいのものが
すっばらしいかどうかはわかんないけど、
このくらいちゃんと作ったものが、
世の中の広告にいっぱいあってほしいね。
谷山
最近の広告については、
何年か前から糸井さんが
不満に思っていることがありますよね。
一時期に比べたら減ったかもしれませんけど、
とにかくビールを飲んで
「うまい!」って叫ぶような
CMばっかりになっていた、みたいな。
糸井
そうなっちゃいましたよね。
谷山
それに関してはいろんな理由があって、
世の中のあらゆる企業で
ある一つのマーケティング的な考え方が
わあっと広まって、
広告というより、プロパガンダみたいな感じかな。
商品をとにかく大きく出して、
伝えたいことをとりあえず大きく叫んで、
それをいっぱい出稿すればいいんだっていう
考え方が流行ったことがあったんです。
強者の戦い方としては間違いじゃないんですよ。
何十億円も使える企業なら、
たしかにそれでもいいのかもしれませんが。
糸井
何十億円も使うんだ。
谷山
そんなにお金が使えちゃうから、
知恵とかじゃなくなるんですよね。
糸井
だったら、くれ!(笑)
谷山
わははは!
いやあ、だんだんぼくがしゃべる量が
増えてきている気がするんです。
よくないですよね。
糸井さんにしゃべっていただく会なのに。
糸井
そんな会なんだ(笑)。
谷山
正直に言うと、
もし糸井さんが今日来れなくなったとしても、
ぼくひとりでも一応、
ぼくなりの解説はできちゃうぐらいの
準備はしてるっていう話を
収録前にしていたんですよね。
だから、糸井さんに申し訳ないっていうか、
こんなにぼくがしゃべっちゃダメなんです。
はい、次にいきましょう。

(次回は「くうねるあそぶ。」につづきます)

2024-10-18-FRI

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