谷川俊太郎さんは
「ほぼ日の學校」の用務員さんの役を
かって出てくださいました。
用務員さんのいるところは、糸井重里が
ひと休みしたくなったときに立ち寄る場所です。
きっと学ぶみなさんも訪れていい場所です。
ほら、おしゃべりが聞こえてきます。
なんだか今回はふたりして、
「勉強してこなかった自慢」をしているようです。
もれ聞こえる90歳と73歳の声に耳をかたむけ、
みなさんもどうぞすこし、休憩していってください。

このおしゃべりの
動画編集バージョンを見たい方は、ぜひ
ほぼ日の學校」でごらんください。
このテキストバージョンには
入り切らなかったものも収録されています。

絵:早瀬とび

>谷川俊太郎さんについて

谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)

1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
現代を代表する詩人のひとり。

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第4回 言葉で世界のひながたを作る。

糸井
大人になってできた友達のなかに、
本をたっぷり読んできた人が
まじっていたりするでしょう?
そんなとき、友達として
「どうしようかな」ということに
なりませんでしたか。
谷川
ぼくはあんまり友達を作らなくて、
詩を書く唯一の友達が
幸比古だったわけです。
【編集部註】
北川幸比古
きたがわさちひこ
1930年生まれの児童文学作家、詩人、出版人。
谷川さんとは同級生だった。
彼はボードレールがどうの、
リルケがどうのって言ってくれた。
だからそういうのはちょこちょこ読みました。
でも、たとえば本でしか見ないような
三好達治なんていう人は、
うちの父の知り合いだったという理由で
ぼくの詩を見てくれたりしたわけですよ。
糸井
それ、すごいことですね。
谷川
だから、なんだか飛び飛びなんです。
ぼくには教養の大きな幹はなくて、
枝葉があるだけみたいな感じね。
糸井
いや‥‥、教養あたりのことは、
ぼくは比べることではできないんですが、
自分のコンプレックスでもあります。
しかし同時に「これでいいんだ」と
肯定したい気持ちがずいぶん混じってます。
学問では「体系立てる」ということが
必ず要求されますよね。
谷川
そうなんですよね。
でもぼくは大きくなってから、
たとえば河合隼雄さんとお話ししたとき、
「あなたはちゃんとした学校教育を受けなかった、
本をたくさん読まなかったことで、
すごく得してる」
と言われて、安心したことあります。
糸井
ああ、河合さんは、
そうおっしゃいそうですね。
谷川
あの人はものすごく学問する人なんだけどね。
そういうことを逆に言えちゃうんですよ。
糸井
でも人は、どこかで自分を
肯定しないと生きていけないです。
そんなときに「体系立ったもの」が
「よすが」になると思うんですが、
谷川さんの場合の「よすが」は
どこかにありましたか。

谷川
ぼくに自信がなかったことはないんです。
やっぱり結局は父親が、
私が大学ノートに書きためた詩を
認めてくれたということが
大きかったんじゃないかと思います。
糸井
当時、書いた自分として、
「これはいいんだ」「悪いんだ」
みたいな判断は?
谷川
ぜんぜんわからなかった(笑)。
幸比古のマネしたりなんかして、
おもしろいから書いてたっていう感じです。
少しは詩を読んでたから、
「こういうものを書きゃいいのかな?」
なんてことで、書いてましたね。
糸井
ああ、書くのがおもしろかったんですね。
谷川
うん。
言葉をこう、つなげていくと、
なんとなく世界のひな形みたいになる。
そういう感じがしたんです。
それ、模型を作るのと同じ感覚で。
ぼくは小さな頃から
飛行機の模型をつくるのが
すごく好きだった。
だから似たような感じで
書いてたんじゃないかなと思います。
糸井
谷川さんの詩、それはいまも、
そんな感じに思えますね。
谷川
いや、もうちょっと私‥‥
成熟しているんですけど(笑)。
糸井
たいへん失礼しました(笑)。
谷川
でも、おおもとはそういうことだと思います。
糸井
書いてて楽しいから書いている、
出来あがり以上に、
プロセスが見えてくる詩。
谷川
はい。
少なくともいまは、そうですね。
糸井
そうそう。
最近書いてらっしゃる詩に
とくにその傾向が見えます。
谷川
最近は、ほかにすることないから、
詩書くのが好きになっちゃったんですよ。
糸井
最高ですね。
谷川
書かないと、自分が不安になるのね。
いわゆる「アイデンティティ」っていうじゃない? 
あれが詩を書くことで
保たれているみたいになってきてるんですよ。
それがよくないとも思うんだけど、
でもまあいっか、みたいな感じで。
糸井
それがよくないっていうのは
どうしてですか。
谷川
そんなに「詩だけ」で
自分を決定しなきゃいけないのは、
なんか貧しいような気がしてさ。
糸井
痩せてる気がするのか。
谷川
なんだかね。
糸井
でもまぁ、年齢を重ねて、
体重とか減ってくわけですから(笑)。
谷川
そうですよね。
能力も全部、味覚とか嗅覚とかも、
ずいぶん落ちてるからね、
これでいいんじゃないのかなと思う。
糸井
いまの断言の仕方はカッコいいですね。
谷川
ありがとう。
糸井
谷川さんが、いま、
詩を書くことが好きになったとおっしゃるのは、
楽しいから詩を書きはじめたということと
左右対称になったような気がぼくはします。
見る人といっしょに作る、
人がドキドキして「うわー」と言ってくれることも、
自分に取り込めて書ける時代が、
若いときにまずはあって。
谷川
おっしゃるとおり、書いたものに対して
人が反応してくれたことが
これまですごい生きがいになってました。
まあ、いまでもそうですけどね、もちろん。
しかしぼくは現代詩の世界に
10代の頃からずっといたわけじゃないですか。
現代詩の世界は
どんどんつまらなくなってきています。
いまはそれをどうにかしたい、
みたいな意識があります。

(明日につづきます)

2022-07-07-THU

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