谷川俊太郎さんは
「ほぼ日の學校」の用務員さんの役を
かって出てくださいました。
用務員さんのいるところは、糸井重里が
ひと休みしたくなったときに立ち寄る場所です。
きっと学ぶみなさんも訪れていい場所です。
ほら、おしゃべりが聞こえてきます。
なんだか今回はふたりして、
「勉強してこなかった自慢」をしているようです。
もれ聞こえる90歳と73歳の声に耳をかたむけ、
みなさんもどうぞすこし、休憩していってください。
*
このおしゃべりの
動画編集バージョンを見たい方は、ぜひ
「ほぼ日の學校」でごらんください。
このテキストバージョンには
入り切らなかったものも収録されています。
絵:早瀬とび
谷川俊太郎さん(たにかわ しゅんたろう)
1931年生まれ。詩人。
「朝のリレー」「二十億光年の孤独」
「いるか」「みみをすます」「生きる」など、
数千篇におよぶ詩作品や、レオ・レオニ作『スイミー』、
スヌーピーでおなじみ「ピーナツブックス」シリーズ、
『マザー・グースのうた』などの翻訳、
そして、テレビアニメの「鉄腕アトム」主題歌や
「月火水木金土日のうた」などの作詞も手がける。
現代を代表する詩人のひとり。
- 糸井
- 誰にもわかるような言葉が
自分の中から詩として出てきて
循環がはじまると、
その「詩」は
みんなのものになります。
ときには「私でなくてもいい」
というくらいにまで、
なっていくことがありますね。
- 谷川
- そうそう、
そりゃそうなんですよ。
詩はほんとうに「私」じゃなくてもいいと
ぼくは思ってるんですけどね。
「これ、自分の書いた言葉かしら」
みたいなことも、よくあるんですよ。
というより、それを
逆に主張したいのです。
これを俺は書いてるけど、
このことは俺が書いたもんじゃないな、
というふうに、みんなに受け取ってほしい。
- 糸井
- 谷川さんがこのところ出している
詩集を見ていると、
「もう自然にそうなってるんだろうな」
と感じることができて、
なんだかニヤニヤしちゃうんですよ。
- 谷川
- いいなぁ、私の詩読んで、
ニヤニヤする人好き!
- 糸井
- スポーツの選手は、
きれいにシュートを決めたときには
同時に拍手も聞こえてきます。
仲間に対しても、
「この角度でシュート入れるのって、
それはもう、俺だよな?」
みたいな気持ちがあって、
それが長い期間、
自分を勇気づけてくれるわけですよね。
でもほんとうは、
誰がシュートを入れたかはどうでもいい。
「あ、いま点入ったよね!」
ということをみんながよろこんでいる状態を
味わうということが、
谷川さんの詩によって、
ちゃんと本になった状態で読めます。
それがとても愉快です。
- 谷川
- けれども詩の場合は、
現場で誰かが何かを言ってくれる、
というものじゃないんですよ。
それがちょっと残念なんです。
書いて印刷されて本になってからも、
すごいタイムラグがあるわけですよ。
『二十億光年の孤独』なんていう
ぼくの最初の本がすごくいいとか、
絵本にしますとか言ってもらえて、
それはすごくうれしいんだけど、
俺が18のときに書いた詩を
90になってから褒められても、
ちょっとピントがズレると
思ってしまうということはありますね。
- 糸井
- 「昔の自分」もまだ生きてるから。
- 谷川
- そう。
だからそれはすごく幸運なことで、
感謝してる。
けども、なんかちょっとね、
つまりプレゼンスっていえばいいのか、
どうしても現在書いたものに対して
自分自身は反応してしまうんです。
- 糸井
- おっしゃること、よくわかります。
ぼくはいま、谷川さんの後ろに
つかまって歩いてみたいくらい、
「いま」がすごいです。
谷川さんが見ようとしている
「ほんとう」という部分、
昔よりもやっぱりいまの谷川さんのほうが
見つけられる場所にいる気がしています。
なんというか、とても気持ちがいい。
たとえば40歳だったら
言えなかったこと、あると思います。
- 谷川
- それはいっぱいありますね、
言えなかったし、考えつかなかったこと。
それから、何かが目の前にあったとしても、
以前はぜんぜん感動しなかったんだけど、
いま見たら、
「あ、こんなにいいもんだったんだ」
みたいなことも、いっぱいあります。
- 糸井
- いまは、新しい詩を
どんどん書いてるんですか?
- 谷川
- いま、コロナもあって、
外へ出て朗読したりすることもないから、
暇になってんですよ。
足も弱って、あまり外へも出ていかれない。
音楽聴いたり映画を観たり、
本読んだりしててもいいんだけど、
自分で何か作りたいと思ったら
やっぱりぼくは、詩を書くしかなくってね。
「しょうがなくて詩を書いてる」という感じで
書けちゃってるんですね。
あとは、やっぱり〆切があるからです。
でも、〆切の3か月前に
詩を書いちゃうこともあってさ。
〆切があるのが気になっちゃってね、
ぼくは注文された日にもう、書きたいわけよ。
- 糸井
- ああ、なるほど(笑)。
- 谷川
- 3か月後に〆切があるなんて残酷じゃん。
せめてひと月ぐらいにしといてもらわないと。
- 糸井
- 3か月‥‥まぁ、
約束したってふつう忘れますよね。
- 谷川
- でしょ?
だから先に書き終えて、
しょっちゅう取り出しては推敲してます。
このところ、推敲がすごく増えました。
前はそこまで書き直してなかったんだけど、
つい直したくなっちゃうの。
自分の欠点が
目につくようになっちゃった。
- 糸井
- アッチャー。
- 谷川
- 「なんで俺は自分の決まり文句みたいに
こんな言葉を使うんだろう?」
なんてしょっちゅう思うんですよ。
それはね、ちょっと新しくしたいわけね。
直して逆にひどいものにならないように
気をつけなきゃいけないけど。
- 糸井
- 直したほうが悪くなることはあり得ますよね。
- 谷川
- あり得ますよ、おおいに。
- 糸井
- でも谷川さんは、直したい時期なんですね。
- 谷川
- そう、気になっちゃうんですよね。
うわ、俺はこんなバカみたいなこと
やってたんだな、
いまの私はもうちょっと高級だぞ、
ってところを見せたいわけ(笑)。
推敲に向かう姿勢が
昔とはぜんぜん違ってきてますね、たぶん。
- 糸井
- はぁぁぁ。
ぼくは、後輩として、おそらく
10年以上年の差がありますね。
えーっと‥‥90歳と73歳だから17年!
- 谷川
- けっこう年下なんだ、君。
- 糸井
- 申し訳ない。
でも、谷川さんが自分のいまの年のときを
ぼくは知ってるはずです。
- 谷川
- ああ、そうか。そうだね。
- 糸井
- だから、そこから
90歳まで歩んでいる
谷川さんのお姿は、ずっと覚えてます。
- 谷川
- それはありがたいです。
(明日につづきます。明日は最終回)
2022-07-08-FRI