JAXA+PARCO+ほぼ日でお届けする
地球観測衛星の大特集ですが、
大変ながらくおまたせしました!
これまで幾多のガンダムシリーズを
プロデュースしてきた、
バンダイナムコフィルムワークスの
小形尚弘さんの登場です!
ガンダム好きがたくさん集まる
JAXAさんの中でも
ガンダム好きが嵩じて入社したという
「筋金入り」の重藤真由美さん、
いつもの明るいコーディネイト役・
安部眞史さんと、
ガンダムについて、人工衛星について、
さらには「地球」について、
アツく語り合っていただきました。
全5回、担当は「ほぼ日」奥野です。
小形尚弘(おがたなおひろ)
『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダム サンダーボルト』『機動戦士ガンダムNT』『Gのレコンギスタ』など多くの作品でプロデュ―サーをつとめ、近年のガンダムシリーズ劇場作品『閃光のハサウェイ』『ククルス・ドアンの島』ではエグゼクティブプロデューサーをつとめる。現バンダイナムコフィルムワークス執行役員。
- 重藤
- わたくしごとで申しわけないのですが、
入社したら種子島に配属されたんです。
- 小形
- あ、ロケット打ち上げの。
- 重藤
- そのときに一度だけ、
打ち上げを外で見ることができたんですが、
あのときの体験とくらべても、
轟音上映で見た
『閃光のハサウェイ』の打ち上げシーンは、
すごい臨場感で‥‥本当によかったです。
- ──
- おお、宇宙関係者のお墨付き!
- 小形
- ありがとうございます(笑)。
- あの作品は音にこだわってつくったので、
そう言っていただけると、うれしいです。
- 安部
- 打ち上げは、生の音を録ってるんですか。
- 小形
- あの場面に関しては、
おそらく生音を使ってると思いますけど、
基本的には、アニメーションの音って、
リアルな音であればいい、
というわけでもなかったりするんですよ。
- 安部
- そうなんですか。
- 小形
- 音から「想像してもらう」ほうが重要です。
- 生音だけじゃなく、
そこに何か別の音をミックスしたりして、
実際に聞いたときに、
そのシーンを想像できるような音づくりを
心がけているんです。
- 安部
- リアルな音ならいいというわけじゃなくて、
頭の中に「リアル」を描くための音。
- 小形
- そもそも「絵」も実写とはちがうので、
「頭の中で完成させる」のが、
いちばんベストなかたちなのかな、と。
- ──
- 以前に、実写映画の「フォーリー」つまり
映像につける音を録音するスタジオを
取材したことがあるんですが、
その作業が、めちゃめちゃおもしろくって。
- 小形
- あ、そうですよね。
- ──
- 時代劇だったんですけど、
パタパタパタという足音を録音するのにも、
町人、農民、お侍と登場人物に合わせて、
下駄、わらじ、草履‥‥って履き替えて、
音響技師の方が、実際に足踏みするんです。 - 土の上を歩く場面は、土を敷いて、
板の上を歩く場面は、板を敷いて。
- 小形
- ええ、ええ。
- ──
- その音を、どんな場面にしたいかに沿って、
他の音とミックスしたり、
大きくしたり、ちっちゃくしたり‥‥。 - 音でそんなに変わるのかと思ったんですが、
めちゃくちゃ変わりました、場面の印象が。
- 小形
- そうですよね。フォーリー的な考え方って、
アニメにも導入されているんです。 - 『閃光のハサウェイ』でもかなりこだわっていて、
市街地に
モビルスーツが落ちてくるシーンなんかは、
画面の外側にも、
逃げ惑っている人を想定していたり、
周囲の環境からつくりこんで録っています。
- 安部
- おおー。
- 小形
- そうすることでリアルな感覚が高まります。
- 劇場作品だと、追求できるんですよね。
テレビだとそこまで追い込めないですけど。
- ──
- 劇場の「5.1ch」みたいな環境があれば。
- 小形
- いまはもう「7.1ch」ですね。
- 安部
- 考えてみれば、ガンダムのビームサーベル、
あれも「バヒューン!」って出ますけど、
実際は、ビームって音はしないですもんね。
- ──
- たしかに。
- 安部
- でも、音がないと物足りないんでしょうね。
ヒートホークの「ブワーン」がなかったら。
- ──
- ヒートホーク。
それは、ザクが持ってるオノ‥‥。
- 小形
- みなさんのまえで釈迦に説法なんですけど、
そもそも宇宙空間では音はしませんし。
- 重藤
- はい(笑)。
- 小形
- ただ、『閃光のハサウェイ』のなかでは、
落下してくるΞ(クスィー)ガンダムの入った
カーゴピサとランデブーするシーン、
あそこだけは、音を無くしているんです。
- 重藤
- ああ‥‥たしかに。
- 小形
- リアルさや臨場感を、表現したかったので。
- それ以外の主なガンダム作品の宇宙シーンでは、
物語のわかりやすさを第一に考えて、
ビームの音や爆発音なども入れていますが、
よりグッと演出を入れたいところは
無音でいこうとか、
そういう判断をしながらつくっていますね。
- 重藤
- たしかに、無音の場面では、
宇宙空間の緊張感が、すごく伝わりました。
- ──
- おお。
- 重藤
- はい‥‥国際宇宙ステーションなんかでの
実際の船外活動なんかは、
こういう緊張感の中でやってるんだろうな、
みたいなことも感じましたし。
- 小形
- 国際宇宙ステーションの船外活動の動画も
見たことあるんですけど、
宇宙飛行士の呼吸音とか
機器の発信音、
ウーンとか唸ってる音が鳴っているだけで、
あとは「無音」なんですよね。 - あれ、ものすごい臨場感ですよね。
隔絶された空間という感じが、すごいです。
- ──
- やはり、いろいろお詳しいんですね‥‥!
宇宙のことについて。
- 小形
- いえいえ、そんなことないです。
- 安部
- あの、ぼくと重藤は「いぶき2号」という、
地球全体の温室効果ガスの濃度を測定する
人工衛星のプロジェクトで、
ずっといっしょにやってきたんですけれど。
- 小形
- ええ。
- 安部
- 初代である「いぶき1号」は
2009年からデータを取り続けていまして、
測定結果をグラフにしてみると、
こうして、濃度が上がり続けているんです。 - 人工衛星のよさって、こうやって、
長期安定的にデータが取れることなんです。
そのために、わざわざ
あんなにもお金と時間と手間ひまをかけて、
人工衛星を飛ばしているんですね。
- 小形
- なるほど。
- 安部
- あるいは「だいち2号」という衛星の場合、
レーダーを使って、
地球上の森林の減少具合などを見ているんです。 - アマゾンなどでは、JICAと協力して
森林の違法伐採の警報システムをつくって、
アラートが出たら
現地の警察が急行するみたいなシステムを
開発したりしてきたんですが、
「地球観測衛星」って、
もう‥‥めちゃくちゃ認知度が低いんです。
- 小形
- え、そうなんですか?
- 安部
- JAXAの人工衛星でも、
映画にもなった人気の「はやぶさ」なんて
認知度65パーセントくらいあるし、
宇宙飛行士とかも、
壮大な夢やロマンを感じるということもあってか、
人気なんですけど、
われわれの「地球観測衛星」の仕事って、
夢もへったくれもないっていうか、
むしろ、厳しい現実を見せられるわけです。
- 小形
- ああ、なるほど。
- 安部
- そんなこともあって、
なかなか認知度も高まらずに‥‥というか、
めちゃくちゃ低くて。 - 実際に調べたら、3パーセントとかくらい。
- 小形
- へえ!
- 安部
- もちろん小形さんも、はじめて聞いた‥‥
という感じだと思うんですが。
- 小形
- お名前は知ってます。「いぶき2号」とか。
- 重藤
- えっ、すごい!
- 安部
- うれしい!
- ──
- つまり、「3パーセント」に入ってるんだ。
小形さん。
- 小形
- はい、具体的なデータを拝見したのは
はじめてですが、知ってますよ。
- 安部
- それは、本当に、うれしいです(笑)。
ありがとうございます。
- 重藤
- わたしたちの部署自体が
地球の周囲の、けっこう高度の低いところ、
だいたい500キロから700キロくらいを
まわっている衛星ばかりを扱っていまして。
- 安部
- 宇宙といっても、かなり「近所」なんです。
- 重藤
- その点「はやぶさ」なんかは、
もう、遠く遠くの宇宙まで旅をしますから、
ドラマ性があるんですが‥‥。
- ──
- 高度の違いが、認知度の違い‥‥深い。
- 小形
- 『Gのレコンギスタ』という作品は、
宇宙エレベーターがテーマなんです。 - なので、物語をつくるときに富野監督が、
地球儀の表面から「タコ糸」をひっぱって、
月がこのへんだとしたら、
人工衛星はこのあたりに回っているのか、
ISSはこのへんか、とか‥‥。
- 安部
- おお‥‥。
- 小形
- いろいろやっていたんで、わかります。
- 重藤
- そういう、徹底的に実証的な物語づくりに、
しびれるんです‥‥!
(つづきます)
2022-10-04-TUE
-
シリーズ、ぞくぞく更新予定!
001 地球観測衛星の「開発」 篇
002 地球観測衛星の「運用」 篇
003 JAXA+ガンダム スペシャル座談会
004「パラボラアンテナ」 篇
005「周波数調整」 篇
006「軌道力学」 篇地球観測衛星の情報については
「JAXA サテナビ」でチェックを!