JAXA+PARCO+ほぼ日でお届けする
地球観測衛星の大特集ですが、
大変ながらくおまたせしました!
これまで幾多のガンダムシリーズを
プロデュースしてきた、
バンダイナムコフィルムワークスの
小形尚弘さんの登場です!
ガンダム好きがたくさん集まる
JAXAさんの中でも
ガンダム好きが嵩じて入社したという
「筋金入り」の重藤真由美さん、
いつもの明るいコーディネイト役・
安部眞史さんと、
ガンダムについて、人工衛星について、
さらには「地球」について、
アツく語り合っていただきました。
全5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>小形尚弘さんのプロフィール

小形尚弘(おがたなおひろ)

『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダム サンダーボルト』『機動戦士ガンダムNT』『Gのレコンギスタ』など多くの作品でプロデュ―サーをつとめ、近年のガンダムシリーズ劇場作品『閃光のハサウェイ』『ククルス・ドアンの島』ではエグゼクティブプロデューサーをつとめる。現バンダイナムコフィルムワークス執行役員。

前へ目次ページへ次へ

第3回 善悪二元論ではない物語。

安部
というような事情で、
われわれの扱っている地球観測衛星って、
なかなか
明るい話にならないのが悩みなんですね。
でも、少し前に、
小形さんのインタビューを拝読したとき、
ようやく『閃光のハサウェイ』を
時代が受け入れてくれるような気がした、
っておっしゃってたんです。
小形
ええ。
──
富野由悠季監督が原作小説を書いたのは、
もう30年以上前ですものね。
安部
物語の内容も、
けっこう過激だったと思うんですが‥‥。
小形
そうですね、はい。
安部
いまの時代だったらいけそうというのは、
小形さんのなかで、
どういった考えや確信があったんですか。

小形
まあ、そもそも、富野由悠季監督って、
20年とか30年くらい先を見据えて
作品をつくっているので、
発表当時は、
あまり理解されないこともあるんですよ。
『閃光のハサウェイ』も、
執筆時点から30年ほど経っていましたし、
冒頭のテロのシーンなども含めて、
当時より、より実感的というか、
物語がリアルになってきたっていうか。
──
将来を見据える‥‥というのは、
具体的には、どういうことなんでしょう。
小形
ひとつには、数十年後の地球について、
想像をめぐらすことだと思います。
人口問題、環境問題などを含めて、
そのとき地球は、どうなってるんだろう。
富野さんは、
つねに、そういうことを考えながら
作品をつくっているんです。
──
最初の『機動戦士ガンダム』の設定が、
まさにそこですものね。
小形
人々の話題や関心にのぼりはじめていた
人口問題や環境問題を、
アンテナをはって、
しっかり取り入れて物語をつくっている。
その「基礎」がしっかりしてるからこそ、
『閃光のハサウェイ』のような物語が、
執筆から何十年もの時間を経ても、
きちんと成立するんだなと思っています。
重藤
拝見していて、地球の環境を心配して
何年も先を見ているハサウェイと、
現地に住んでいる人たちとのギャップが、
わたしは、すごく心に残りました。
小形
もともと、小説にそう書かれてるんです。
もう、30年前の小説に。
──
有名な話だと思いますが、
ガンダムには、ミノフスキー粒子という
架空の物質が出てきますよね。
戦場にばら撒くと、レーダーをはじめ、
通信機器が使えなくなっちゃうという。
小形
ええ。
──
あれも、そういう設定にして
レーダーを使えなくさせてしまえば
モビルスーツ同士の白兵戦に、
いっそう切迫感が出るからつくった‥‥
と何かで読んだことがあるんですが、
えー、物語をつくる人って、
そんなとこまで考えてるのか‥‥って。
小形
劇空間をつくるための工夫、ですよね。
いま、横浜で
1/1スケールつまり18メートルの
実物大「動くガンダム」が公開されているんです。
たくさんの技師さんたちと協力して
つくったんですけど、
地球の重力下では、
あれくらい動かすのも大変なんですね。
──
ええ、すごい迫力ですけど。
小形
ですから、18メートルもの
2足歩行の巨大ロボットなんてものを、
どうして人類は
開発しなければならなかったのか、
その理由を、
しっかり設定でつくりこまなかったら、
ぜんぶウソに見えちゃうんです。
ミノフスキー粒子も、
有視界下でモビルスーツを戦闘させる、
つまり、レーダーにたよらず、
ひとつの画面のなかで
モビルスーツ同士を戦わせるために、
いろいろ考えて発明したものなんです。
重藤
しかも、ハサウェイの時代になったら、
重力下でも
モビルスーツが長時間浮遊できる
ミノフスキーフライトみたいな技術が
発明されていたりしていますよね。
小形
ちゃんと進歩してるんです(笑)。
重藤
横浜の「動くガンダム」のところにあった
富野監督のお言葉も心に残っています。

小形
「ごめんなさい」ですか(笑)。
重藤
これだけしか動かなくてごめんなさい、
みなさんガッカリしたかもしれません、
だから、これからの時代は
あなたたち若い人が
もっと「動くガンダム」をつくってほしい。
そんなようなことが書いてありました。
小形
本当は、もっと動かしたかったんです。
重力下で、実際に歩行させたかった。
あの横浜の「動くガンダム」は、
歩いているように見せていますけれど、
実際に歩いてはいないので。
重藤
そうであっても、感動しました。
小形
やっぱり、あれだけ大きなロボットが
地球の重力下で
地に足をつけて歩く‥‥ということが、
どれだけ大変なことか。
富野監督は「本当に歩かせたい」って
本気で思っていたんですが、
すいません、
これくらいまでしかできませんでした、
ということですね。
──
なるほど‥‥『機動戦士ガンダム』でも、
アムロがガンダムで
はじめて大気圏突入して
地球に降りたとき、
地球の重力に
めちゃくちゃ苦労していましたもんね。
あの描写も相当リアルだったんだなあ。
安部
そんなふうに物語をつくりこむときの、
監督の仕事はわかるんですが、
小形さんたちプロデューサーさんって、
どういった役割を担っているんですか。
小形
人や作品によると思うんですけど、
ガンダムに関しては、
監督が思い描いた世界観を映像化するにあたり、
二人三脚で
あーでもないこーでもないしながら
制作していく役割です。
安部
あの、小形さんがプロデュースした
『閃光のハサウェイ』は、
冒頭から
ハイジャック、テロのシーンだったり、
なかなか激しい展開ですが、
関係各所から
「もう、ちょっと穏便に‥‥」だとか、
そういう要請は来ないんですか。
小形
テレビだったら言われたかもしれない。
というか、テレビの場合は、
不特定多数の方の目に触れますから、
たぶん、
言われる前に配慮していると思います。
ただ、今回は劇場作品だということで、
みなさん、お金を払って、
見ると決めて見てくださっていますし、
あの場面を無くしてしまうことは、
物語をつくるうえで、
かなり難しいと思いますので。

重藤
たしかに。
小形
この夏に公開した
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』
(以下、『ククルス・ドアンの島』)
も、このような社会情勢になるとは
予想だにしていないときにつくった作品。
それなのに、戦災孤児だったり、
どこに「正義」があるのかという主題が、
どこか現実とリンクしていて。
重藤
そうですよね。
小形
もともと『ククルス・ドアンの島』って、
『機動戦士ガンダム』の第15話の
翻案なんですよ。
つまり、ベースになっているのは、
もう40年以上前に描かれたお話なんです。
──
それが、いまでも通用する‥‥どころか、
ドンピシャのリアリティで迫ってくる。
小形
それもこれもやっぱり、
富野監督がいちばんはじめに描いた
『機動戦士ガンダム』の物語の構造の部分が、
揺るぎないものだからだと思います。
安部
あと、ガンダムのお話って、
勧善懲悪じゃないところがすごいですよね。
小形
そうですね。
安部
どっちがいい悪いじゃなく、
「正義とはなんだ、悪とはなんだ」という、
そのへんから入っていくじゃないですか。
──
『機動戦士ガンダム』で、
ジオン公国軍の兵士が、
ホワイトベースから降りた避難民の母子に
親切にするシーンがあって、
ああいう何気ない描写に、
善悪二元論じゃない
ガンダムという物語の「深さ」を感じます。
安部
そう、地球連邦軍には地球連邦軍の、
ジオン公国軍には
ジオン公国軍の「正義」があって、
でもそれが、どうしても相容れなくて、
ああして、戦争になってしまってますよね。
ぼくたちも、環境問題に対して、
さまざまな取り組みをしているんですけど、
経済的な成長と環境問題って、
いまの資本主義の世界では、
やっぱり、ものすごく相性が悪いんですね。
小形
ええ、そうですよね。
安部
エネルギーを過剰に消費するのはよくない、
でも「豊かになる」のが悪いことか、
といったら、そう断言することって難しい。
森林を違法に伐採している人たちにしても、
木を切って売らなきゃ生きてけない、
そういう人たちに対して
ただ「木、切るなよ」と言えるのだろうか。
同じように、ガンダムの物語も、
どっちかに肩入れするとかいうんじゃない、
見ている人に考えてほしいという
スタンスでつくっているのかなあ‥‥って。
小形
そうですね、ぼくたちも
これが正解です、これは間違ってますって、
そんなことをいうつもりはないんです。
現代の社会や将来の地球を豊かにするには
どうしたらいいか‥‥ということを、
みなさんが考えるきっかけになればいいな、
くらいの気持ちで、つくっています。

『機動戦士ガンダムUC』より ©創通・サンライズ 『機動戦士ガンダムUC』より ©創通・サンライズ

(つづきます)

2022-10-05-WED

前へ目次ページへ次へ