日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
- ──
- 藤井さんは、横尾さんの作品を、
どれくらい見てらっしゃるんでしょうか。
- 藤井
- 2002年の個展のときに
担当の一人として関わらせていただいて、
それから‥‥という感じです。
- ──
- じゃ、20年以上。
- それだけ見てきた藤井さんからして、
横尾忠則さんって、
あらためてどういう作家だと思いますか。
- 藤井
- 20年という時間を感じさせない人です。
- いつまでも若々しいという以上に、
横尾さんには、
リニアな時間の進み方を感じないんです。
- ──
- 時空が、ぐにゃぐにゃしている?
- 藤井
- 時間軸を行きつ戻りつする感じが、ある。
- 「いま、ここ」を感じる作品もあれば、
宇宙的な時間を感じる作品もある。
極端なものが共存しているんですよね。
60年代に描いた作品を、
2000年代に反復したりもしてますし、
たまに叱られるんですよ。
「ぼくのことを、
おじいさんだと思ってないでしょ」って。
- ──
- なるほど(笑)。
- 藤井
- いえいえ、思ってないわけじゃないけど、
おじいさんだということを
忘れさせる何かがあると思うんですよね。 - そういえば、
2002年の個展の準備をしているときに、
横尾さんのアトリエで作業してたら、
そこへ、糸井さんがいらしたんですよ。
- ──
- あら、そうでしたか。
- 藤井
- たしか、ハラマキか何かの打ち合わせで。
そのとき横尾さんが、糸井さんに
「あの人は、こんどぼくの展覧会をやる
東京都現代美術館の人だよ。
マラソンのランナーみたいな人でしょう」
っておっしゃって、
「藤井さん、ちょっと走ってみて」って。 - それで‥‥アトリエの中を走ったような、
そんな記憶があるんです。
- ──
- マラソンランナーなんですか。
- 藤井
- ぜんぜんちがいます。
- ──
- それでも走ったんですね‥‥アトリエを。
- 藤井
- 走った。走って見せてって言われたから。
そんなことは、糸井さんも、横尾さんも、
ご記憶じゃないと思いますが‥‥。
でも、わたしにとっては「走ったな」と。
- ──
- 走った本人は覚えてますよね(笑)。
- 藤井
- 覚えてます。
- ──
- 藤井さんは、横尾さんの作品って、
どうしてたくさんの人に好かれていると
思われますか。
- 藤井
- 好かれてる。
- ──
- 何ていうのか、少々、硬い言葉で言えば
「評価されている」というか。
- 藤井
- おもしろいから‥‥じゃないでしょうか。
- ──
- おもしろい。絵が。
- 藤井
- はい、おもしろいです。
- 何を描いているかは、わかりますよね。
裸の男の人が滝に打たれてます、とか。
Y字路だな、とか。
でも、何を描いてるかはわかるけれど、
「でも、なんで?」って。
- ──
- なるほど! 「でも、なんで?」かあ。
- 藤井
- はい、横尾さんは、
どうしてこんな絵を描いたんだろうって。
そのことを考えるのが、
わたしは、とってもおもしろいんです。
あと、ぜんぜん別のところに
ヒュッと連れて行ってもらえるような、
そういうところも好きです。
作品の中の、扉とか窓とか線路を通じて。
- ──
- キャンパスの表面では終わらない世界、
みたいな感覚ですか?
何というか、「その奥」があるような。
- 藤井
- こっちとあっち、こっちとそっち‥‥を
つなぐようなところがある。
夢と現実が自然につながっている感覚で、
じっと眺めていると、
いろんな世界が開かれていく気がします。
- ──
- たしかに、他のどんな人の絵にも
見たことのない風景を見ている感じです。
- 藤井
- 自分が何かを決めなきゃいけなかったり、
何かを主張しなくちゃいけないことって、
あるじゃないですか。 - 必ずどっちかを選ばなきゃいけないとか。
- ──
- ええ。ありますね。
- 藤井
- そういうときに、横尾さんの絵って
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な。
か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」
みたいなところがあるというか‥‥。 - 何かに委ねちゃってもいいんじゃないって、
語りかけてくれるような気もして。
- ──
- そんな絵なら、好きになっちゃいますね。
- こうじゃなければならないという感じが
ぜんぜんしないなあと、ぼくも思います。
- 藤井
- ああ、こんなふうにしてもいいんだなあ、
ということを教えてくれますよね。 - Y字路の作品でも、
「どっちの道を行ったら正解なのかなあ」
「どっちかを選ばなくちゃいけないんだ」
じゃなくて
「どっちへ行っても、どうにでもなるよ」
みたいな。
- ──
- どこかには着くよね、と。
- 藤井
- そうそう、楽になる感じがあるんです。
まあ、わたしもうまく言えませんけど。
- ──
- いや、伝わってきます。
- 藤井
- で‥‥ここが最後の展示室なんですが。
- ──
- はい、この展示室のためにつくられた、
宮島達男の作品が、
つねに展示されている部屋ですね。 - あ、そうか、これも「生死」ですよね。
- 藤井
- そうなんです。
- ──
- つまり、デジタルカウンターの数字が、
それぞれのスピードで、
「1」から「9」までカウントして、
そのあと、いったんパッと暗くなる。
そのようすが、
生と死の循環をあらわしている‥‥と。 - そんな作品の常設展示室に、
さきほどの「バラ1輪のポスター」が。
- 藤井
- このポスターが出品されたのは、
銀座松屋で開かれた
グラフィックデザイナーのグループ展、
「ペルソナ展」でした。 - 当時の横尾さんは、29歳で
まだ、それほどキャリアはなかった。
そんな自分について
「29才で頂点に達し、ぼくは死んだ」
というコピーを入れて、
新しい自分自身のための広告をつくった。
そう解釈されてきました。
- ──
- はい。
- 藤井
- その解釈を尊重しつつも、
ちょっと見方を変えてみたいなと思って。 - つまりこれ、首を吊ってるんじゃなくて、
どこか宇宙の彼方の遠い星から、
首にロープを巻いて
するすると降りてきたんじゃないかなと。
- ──
- おおー。
- 藤井
- そして、この地球に住むわたしたちに、
たくさんの作品を通して、
これまでお話してきたような
さまざまなメッセージを、伝えている。 - 横尾忠則さんって、
そういう人なんじゃないのかなあって、
わたしは、思っているんです。
(おわります)
2024-03-08-FRI
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今回、取材させていただいている
MOTコレクション
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
特集展示 横尾忠則―水のように/
生誕100年 サム・フランシス」
の会期は、3月10日(日)まで。
記事を読みながら展示室をまわると、
いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
次会期は
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
Eye to Eye-見ること」展
と題して、4月6日(土)からスタートします。
1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
いくつかの展示替えがあるとのこと。
また、オラファー・エリアソンの
《人間を超えたレゾネーター》も、
コレクション展では初展示されるとか。
また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
アレックス・カッツやリキテンスタイン、
そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
こちらも楽しみです!本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
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紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
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