日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
- ──
- ここから先は、横尾さんの特集展示。
横尾さんオンリーということですね。
- 藤井
- はい。今回、タイトルを
「横尾忠則ー水のように」としました。 - 当館では、横尾さんの作品を「92点」、
所蔵しているんですが、
今回は
そのうち「77点」を展示しております。
盛りだくさんの内容です。
- ──
- それだけの数の作品って、
どういった機会というかタイミングで、
収蔵してこられたんですか。
- 藤井
- 当館では過去に2回、
横尾さんの個展を開催しているんです。
2002年と、2021年と。
そうしたタイミングをとらえて、
コレクションを充実させてきました。
- ──
- 現代美術館という意味でも、
とりわけ大きな作家だと思うんですが、
「92点」って、すごい数ですよね。
- 藤井
- 先日、展覧会を開催した
デイヴィッド・ホックニーの作品は
150点ありますし、
他にも版画家の駒井哲郎や浜田知明など、
所蔵作品数の多い作家さんはおられますけど、
たしかに絵画の作品では、
横尾さんは数の多い方だと思いますね。
- ──
- タイトルの「水のように」とは‥‥。
- 藤井
- はい。横尾さんが、画家に転身すると
決意されたあとに出版された
『横尾忠則画帖』という作品集に、
美術評論家の東野芳明さんとの対談が
掲載されているんですね
そのタイトルが「水のように」で。
- ──
- ええ。
- 藤井
- まず今回のタイトルを考えているときに、
「たしかに、横尾さんの画業って
千変万化してきているなあ、水のように」
‥‥と、思ったんです。
- ──
- なるほど、それで。
- 藤井
- それともうひとつ、横尾さんの作品には、
たくさんの「水」が描かれているんです。 - いろんな作品のなかで
お水がジャパジャパしているんですよ。
- ──
- 言われてみれば、たしかに。
水の表現が印象的だなあって思います。 - 有名な《お掘》でも、
クロールしている「ピンクガール」の
腕に絡みつく「水」が、
自分的にはすごく心に残っていますし。
- 藤井
- これはよく指摘されていることですし、
ご本人もおっしゃってるんですが、
横尾さんの作品って、
大半が「風景」を描いているんですね。
中でも「水」の出番が多い。
他にも、お風呂の水があふれていたり、
背景に海や滝が見えたり、
波濤が描かれていたり‥‥とか。
雑誌のエッセイでも
ご自身の作品における「水」について
書いてらっしゃいますし、
水というものが、横尾さんの作品を
特徴づけていたりもするのかなあ、と。
- ──
- なるほど。
- 藤井
- あるいはまた「水を差す」という表現、
あるじゃないですか。 - それって、滞りなく
うまい具合にものごとが進んでいたのに、
「なんでこの人、
このタイミングで、こんなこと言うの!」
みたいな意味ですよね。
そういった「ジャバッ!」的なところが、
横尾さんの作品にはある気がして。
- ──
- 「ジャバッ!」的‥‥。
- 藤井
- せっかく調和がとれているところに、
わざわざ水を引っかけちゃう、みたいな。
- ──
- なるほど‥‥そういう「ジャバッ!」的。
何かハッとさせられるような。
はい、なんとなくわかります。感じます。
- 藤井
- よく見ると、飛行機が不時着していたり、
タンカーが沈没しそうになっていたり。 - 不穏な出来事だとか
ちょっと思いもかけないような事態が、
画面のどこかで起こってる。
画面の中へ、スパッと侵入してきてる。
横尾さんの絵やポスターに
「おっ!」ってみんなが目を向けるのは、
そういうところも、
ひとつの要因になっている気がしていて。
- ──
- なるほど。横尾さんの有名なポスターで、
首を吊っている人が、
バラの花を1輪、持ってますよね。
あのバラの花って、
画面に対してちっちゃいと思うんですが、
あのバラ1輪で、
ハッとする感じが
ものすごく増幅する気がしているんです。
- 藤井
- ええ、ええ。そうですよね。
- ──
- たしか、首を吊っているのが、
「ご自身」だということだと思うので、
それだけでもハッとするのに、
さらに、あのバラ1輪が増幅してくる。 - お詳しい人がたくさんいらっしゃる中、
素人の感想で恐縮ですが、
藤井さんのおっしゃるジャバッと感は、
自分は、あのバラに感じていました。
あのバラこそが横尾さんだなあ‥‥と。
- 藤井
- バラも、首吊りのロープも、
横尾作品にはたくさん出てくるんですが、
「反復」という手法も
横尾作品にとっては、非常に特徴的です。
さっきのウォーホルの写真のときにも
チラッと話題に出ましたけど。 - たとえば、この《責場》もそうですけど。
- ──
- 反復。
- 藤井
- 同じ構図のバリエーションちがいで
6枚の作品があり、
すべてを重ねたときに完成形になる。 - つまり、版画のプロセス自体を、
ひとつの作品にしているんです。
- ──
- なるほど‥‥Y字路の作品とかも、
同じモチーフを「反復」してますもんね。
- 藤井
- あちらに《20年目のピカソ》という絵が
あるじゃないですか。 - 横尾さんが画家に転向するきっかけって
ニューヨーク近代美術館で
ピカソの大回顧展を見たことなんですが、
そのカタログの表紙に描かれているのが
あのピカソの自画像なんです。
- ──
- あ、あの、画面の左上に描かれている?
- 藤井
- でね、天地逆さになった橋を渡っている
男の子と女の子が、いますでしょ。 - こっちの《運命》という絵にも‥‥ほら。
- ──
- あ、いる!
- 足をクロスした感じも同じだし、
半ズボンとかスカートの柄も同じですね。
これ、描かれた時期としては‥‥。
- 藤井
- 《運命》が1997年で
《20年目のピカソ》が2001年です。
- ──
- 全体が見えてない方が先なんですか。
- 藤井
- そう、だんだん姿が現れてきたんですよ。
- ──
- それは、おもしろい「反復」ですね。
てっきり全身が先だと思っちゃいますが。
- 藤井
- そうなんですよね。そしてこれら作品からも、
どこか「あの世」な感じが漂いますよね。
(つづきます)
2024-03-07-THU
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今回、取材させていただいている
MOTコレクション
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
特集展示 横尾忠則―水のように/
生誕100年 サム・フランシス」
の会期は、3月10日(日)まで。
記事を読みながら展示室をまわると、
いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
次会期は
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
Eye to Eye-見ること」展
と題して、4月6日(土)からスタートします。
1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
いくつかの展示替えがあるとのこと。
また、オラファー・エリアソンの
《人間を超えたレゾネーター》も、
コレクション展では初展示されるとか。
また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
アレックス・カッツやリキテンスタイン、
そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
こちらも楽しみです!本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
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東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
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