日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

 

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第6回 横尾忠則さんゆかりの作家。

藤井
さて、ここからは、
横尾忠則さんの特集展示ですので、
担当した藤井がご案内いたします。
──
どうぞよろしくお願いいたします!
藤井
はい、よろしくお願いいたします。
横尾さんの作品って、
たとえば横尾忠則現代美術館とか、
いろんなところで
ごらんになる機会があると思うんです。
──
はい、最近でも、
東京国立博物館の表慶館で、たっぷりと。
藤井
今回当館では
コレクション展示室での展示ですので、
まず冒頭のセクションで、
他の所蔵作家と横尾さんとの関わりを
紹介しています。
 
具体的には、横尾さんが
過去にエッセイで触れていらした作家や、
横尾さんが
作品を所蔵している作家‥‥などなど、
3人の作家を選んでいます。
──
「横尾忠則のゆかりの作家たち。」
サンドロ・キアさん、
ジェニファー・バートレットさん、
そして
アンディ・ウォーホルさん。
それぞれに、理由があるんですね。

藤井
はい、まずサンドロ・キアですが、
横尾さんはかつて、
彼に関するエッセイを書いているんです。
横尾さんが、本格的に
画家に転身なさったのが、1980年です。
そのころ、新しい美術の潮流‥‥
いわゆる「新表現主義」が、
大きなうねりとなって、押し寄せていて。
──
はい。新表現主義。
藤井
それまでのミニマルな表現形式から
ガラッと変わって、
作品に物語が織り込まれたり、
さまざまな色をパワフルに使ったり。
そうした美術の流れが、
世界中で同時多発的に起こったんですね。
──
たとえば、どんな人たちですか。
新表現主義を担っていたのは。
藤井
はい、フランチェスコ・クレメンテ、
エンツォ・クッキ、
そして、このサンドロ・キアは、
「3C」と呼ばれて注目されました。
──
つまり、横尾さんにしてみれば、
同時代的な意識を共有した作家さん。
藤井
ええ。今回はそこからキアの作品を、
もう10年ぶりくらいかな、
久しぶりに展示しています。
作品のタイトルは
《メランコリックなキャンプ》です。
真ん中に
ウサギの耳のようなものをつけている人が
寝転がってますけど、
アルブレヒト・デューラーの
《メランコリア》のポーズに似ていたり、
ジョルジョ・デ・キリコが思い浮かんだり、
美術史からの引用が
いろいろ入っているような作品です。
(サンドロ・キア《メランコリックなキャンプ》は、
こちら
──
横尾さんは、エッセイでは、
どういうことを書いてらっしゃたんですか。
藤井
タイトルが「ピカビアの息子たち」でした。
フランシス・ピカビアという
1900年代の前半に活躍した画家・詩人の
ダダイストがいるんですが
その人の息子という位置づけで、
サンドロ・キアのことを書いているんです。
横尾さんも自身も、
ピカビアの息子を自認しているというか、
ピカビアのことを
精神的な父のように捉えていたりしていて。
──
つまり「兄弟」じゃないですけれど、
キアさんについては、
ある種の親近感を抱いているような。
藤井
そうなんです。で、親近感といえば、
次のジェニファー・バートレットとは、
横尾さん、実際に親しい間柄で、
バートレットの作品も所蔵しています。
1970年代からアメリカで活躍していた
女性の作家ですが、1980年に
日本の版画工房で版画を制作していて。
そのとき、横尾さんと一緒に
新しい版画の技法を試してるんですね。
──
この作品は、絵画と彫刻の組み合わせ。
藤井
はい。単純に見たままを言いますと、
卵がある、
卵からかえって鳥が生まれる、
鳥の羽がちょっと燃えてるみたいだ、
死んじゃった‥‥。
──
はい、そのとおりに見えます。
絵画中のモチーフを、
彫刻として外に出しているんですね。
(ジェニファー・バートレット《円錐上の鳥》は、
こちら
藤井
作品のなかに描かれているものは
あくまで絵の中の世界の出来事だと
思ってしまいがちじゃないですか。
──
「絵空事」とか言いますもんね。
藤井
でも、この作品では、
その一部が彫刻になって「こっち側」に、
わたしたちのほうに来ちゃってる。
 
作品の中の物語や時間が、
わたしたちの現実と
つながるようなところが、
おもしろいなあと思っています。
──
なんとなく、うまく言えないけど、
ユニバースな感じがします。
藤井
そうですね。輪廻転生だったりとか、
循環する流れを想起させますね。
そういった宇宙的な時空間の連なりは、
横尾作品にも通じていると思います。
──
そして、アンディ・ウォーホル。
藤井
はい。アンディ・ウォーホルって、
横尾さんにとっても
スーパースターだったわけですけれど、
横尾さん、60年代には
ニューヨークのウォーホルのアトリエ
「ファクトリー」も訪問して、
お話もしていたんですよね。
──
森山大道さんが
はじめてニューヨークに行ったのは
横尾さんと一緒で、そのとき
「一緒にウォーホルに会いに行く?」
って聞かれたんだけど遠慮した、
でも、行っときゃよかった‥‥って、
以前おっしゃってました。
藤井
そう、お付き合いが深かったんです。
ウォーホルって、
1970年代くらいから亡くなるまで、
写真を撮り続けているんです。
そうやって、写真で
身のまわりのものを記録することが、
横尾さんが、70年代から
ずーっと書き続けている「日記」に、
どこか通じるなあと思ったんですね。
(アンディ・ウォーホル《墓地》は、こちら
──
これは反復‥‥同じ写真なのかなあ。
藤井
そこは、わからないんですよ。
複製したものを4枚ならべているのか、
別々の4カットなのか。
よく見ると
ちょっと角度がちがったりしてますが、
トリミングで
ゆらぎを出しているのかもしれないし。
──
なるほど。
藤井
反復という手法自体、
横尾さんに通じるところがあるんです。
さらにこの4枚、よく見ると
糸で縫われて、つながっているんです。
──
ほんとだ。写真を縫いつけるって、
何だかちょっとドキッとしちゃいます。
藤井
不穏な感じがしますよね、どこか。
有名な《マリリン・モンロー》も
「反復」ですが、
「反復」という手法と
糸で縫われている不穏さがあいまって、
「死のイメージ」みたいなものと、
どこかでつながっている気がしますね。
──
死のイメージというのは‥‥たしかに。
そして、横尾さんの作品にも、
「あの世感」といったらいいんですか、
そういう何かを感じたりします。
藤井
はい、わたしもそう思います。

(つづきます)

2024-03-06-WED

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  • MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020/ 特集展示 横尾忠則―水のように/ 生誕100年 サム・フランシス 3月10日(日)まで開催中!

    今回、取材させていただいている
    MOTコレクション
    歩く、赴く、移動する 19232020
    特集展示 横尾忠則―水のように/
    生誕100年 サム・フランシス」
    の会期は、3月10日(日)まで。
    記事を読みながら展示室をまわると、
    いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
    開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
    なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
    次会期は
    「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
    Eye to Eye-見ること」展
    と題して、4月6日(土)からスタートします。
    1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
    いくつかの展示替えがあるとのこと。
    また、オラファー・エリアソンの
    《人間を超えたレゾネーター》も、
    コレクション展では初展示されるとか。
    また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
    アレックス・カッツやリキテンスタイン、
    そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
    こちらも楽しみです!

    書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
    各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
    Amazonでのおもとめは、こちらです。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇

    014 続・東京都現代美術館篇