こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第5回 やっぱりあった! 金のなる木。

原田
続きまして、このあたりには
中国の古い時代、
紀元前からの文化財が並んでいます。
──
こういうのって、実用品なんですか?
原田
儀礼などに使っていたものでしょう。
こちらは貯蔵用のツボですが。
──
灰陶蛋形壺‥‥かいとうたんけいこ。
英語では「Egg-Shaped Jar」。
こういう道具類というものは、
遺跡から出てきたりするものですか。

小野塚
そうですね、たいがい。
ふだんの生活に使っていたものって、
壊れた状態で
見つかることが多いんです。
つまりゴミとして廃棄されたものが、
バラバラになった状態で
遺跡から出てきます。
ですので、こうして
きれいなかたちが残っているものは、
お墓に納められ、
そのまま残ったものが多い。
博物館や美術館で見られるものは、
その多くが
お墓から出土したものなんです。
──
なんでしょう、この高坏みたいなの、
余白のある模様で
めっちゃカッコいいですね‥‥。
あ、つまり、復元してるんですかね。
原田
そうなんです。
ラヂヲ
よく見たまえ。
ラーメンの丼の模様が、そこここに。
──
ホントだ! 遥かなる古の時代から、
意識は一気に
現代のラーメン屋さんにひとっ飛び。
つまり‥‥白い部分が復元した箇所。
小野塚
はい。石膏で復元しています。
──
逆に、見つかったパーツはこれだけ。
こんな少ないパーツから
全体がこういう形だったと、わかる。

小野塚
そうです。わかるんです。
たとえば口の部分だけ見つかっても、
だいたい、それを「水平」にすれば、
器の角度などが出てくるので、
全体の形状を推定できるんですね。
あるいは、同じものが
完全な形でどこかで発見されていて、
調べていくうちに
「あ、あれと同じ形だよね」だとか。
原田
こちらは、鬼瓦みたいなものですね。
饕餮(とうてつ)という
中国の、さまざまな力を持っている
獣というか、怪物というか‥‥が、
あらわされているとされています。
日本にも「鬼瓦」ってありますよね。
魔除けの意味を持っていますが、
これも建物に饕餮の模様をつけると、
悪いものが入ってこない‥‥って。
ラヂヲ
おいしそうな形をしているね。
──
たしかに、ロールケーキっぽいです。

ラヂヲ
いい断面だよね。
クルミが入ってそうな感じの断面だ。
小野塚
様式化されているんですが、
ふたつの目があるの、わかりますか。
──
あ、あります!
小野塚
これが、饕餮(とうてつ)の目です。
妖怪というか、怪獣というか‥‥
そういう存在をデザイン化してます。
ラヂヲ
そうか、わかったぞ!
──
何でしょう先生。
ラヂヲ
これはですね、
あの『ウルトラセブン』に出てきた
ミクラスです。
──
わはは(笑)、似てる。たしかに。
カプセル怪獣でしたっけ。
ラヂヲ
たしかに言われてみれば怪獣っぽい。
ウルトラ怪獣ですよ、これ。
──
ウルトラマンやウルトラ怪獣って、
成田亨さんという、
もともと彫刻家のかたが
最初にデザインしたんですけど、
それまでの怪獣って
「サルとかゴリラが巨大化した」
ような感じだったところを‥‥。
ラヂヲ
うん。
──
キュビスムを造形的に引用したり、
アートから着想したり、
アートの手法を、積極的に
デザインに応用したそうなんです。
たとえば「ダダ」という怪獣の
あの幾何学模様は、
当時流行していた
オプティカル・アートの
ブリジット・ライリーから
着想を得たりしているそうでして。
ラヂヲ
へええ。
──
その意味で、先生が
この瓦にウルトラ怪獣を見たのも、
あながち
目の錯覚でもないのかな‥‥と。
ラヂヲ
目の錯覚て。
──
先生の慧眼、おそれいりました。

ラヂヲ
ほら、見たまえ。これもすごいぞ。
小野塚
七宝です。本当にさすがですね。
こちらの壺にも饕餮が表現されています。
ラヂヲ
えっ‥‥あ、そうだよね!
小野塚
こちらの壺は、
18世紀から19世紀にかけてのもの。
現代に近くなってから、
古い時代への研究熱や興味が高まって、
饕餮の文様を真似したんです。

饕餮七宝卣 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 饕餮七宝卣 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

──
これくらいの年代の文化財だと、
作家の銘とか残ってたりするんですか。
原田
どこどこの窯でつくられたとか、
そういう銘はあったりするんですけど、
個人の作家名は残されていません。
──
残っていてもよさそうな存在感だけど。
そういうものですか。
ラヂヲ
こういう壺には何を入れてたんだろう。
七味が出てきたらビックリするよね。

──
立ち食い蕎麦屋のカウンターに
この壺が(笑)。
七味をかけるのもひと苦労です。
原田
こちらは「お金のなる木」です。
ラヂヲ
おおお、やっぱりあった!(笑)
金のなる木や。

揺銭樹 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 揺銭樹 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

──
さっきは「女性のなる木」だったし、
昔の人というのは、
「木」に願望を託したんでしょうか。
原田
中国には、西方に「崑崙山」という
非常に急峻な山があるという
伝説があるんですね。
──
はい。こんろんざん。
原田
中国の人たちって
「玉」が大好きなんですけれども、
その崑崙山に美しい「玉」、
翡翠などが採れる場所があり、
そこへ至れば
不老不死の仙薬を得られる‥‥と。
山には、西王母という神さまがいて、
その神さまが不老長寿なんです。
──
なるほど。
原田
こちらを、ごらんください。
ここに人が見えますか、座ってる人。
背中から羽みたいにビョッと出てる。
これが仙人を表しています。
ラヂヲ
肝心の「お金」は?
──
先生! 「肝心の」って。
原田
ここです。丸に四角い穴が開いてます。
ラヂヲ
ほんとだ。金の生る木や!
いや、はじめて見たなあ。金のなる木。

原田
さらに、不老長寿も得られるという。
──
この木のまわりに、
いろんな欲望が渦巻いてるんですね。
ラヂヲ
一家に一本ほしいよね。
──
こういったものは、誰か‥‥
たとえば偉い人につくれと言われて、
つくったものなんでしょうか。
原田
おそらく。
ちなみにこれは「鋳造」なんですね。
つまり型に流し込んでつくってます。
──
量産することができたと。
ラヂヲ
これって「クリスマスツリー」だよ。
当時の人にとってみたら。
原田
たしかに(笑)。
──
現代のクリスマスツリーと比べると、
欲望がかなり直接的ですね(笑)。
お金とか、不老不死とか。
「赤い靴下」というオブラートに
いっさいくるむことなく。
ラヂヲ
願いが、むきだし。人間らしいね。
──
ああ、お次はまた素晴らしい。絨毯。

龍花文様緞通 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 龍花文様緞通 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

原田
緞通ですね。中国‥‥清の時代です。
龍の爪が5本の模様なので、
皇帝のための敷物だと、わかります。
5本の爪を持った龍は、
皇帝が使うものとされていたんです。
ラヂヲ
つまり、この上で
皇帝がゴロゴロしてたってことかな。
原田
ゴロゴロまでは、はっきりとは(笑)。

(つづきます)

2024-01-06-SAT

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  • 書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
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    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
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    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇