こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第6回 ウン千万円の、古い布。

原田
続きましては、中国の書画のお部屋です。
小野塚
昔から日本の文化人たちは、
中国や朝鮮半島の文化財に造詣が深くて、
多くの書や絵を集めていたんです。
そのコレクションを見渡してみると、
すでに中国では失われてしまったような
重要な絵画が日本には残っていたり。
その意味で、
世界的にも貴重なコレクションなんです。
ラヂヲ
このペンギンみたいな人、
どっかで見たことある気がするんだけど。
──
李白さん‥‥ですね。
原田
詩を口ずさみながら夕闇を歩く姿です。
南宋の宮廷画家、
梁楷(りょうかい)の描いた作品です。

李白吟行図軸 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 李白吟行図軸 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ラヂヲ
落款がデカいね。
原田
これら日本に伝えられた中国の書画は、
何百年も大切にされてきたんですが、
長い年月の間には、
何度か「お手当て」されているんです。
──
お手当て‥‥とおっしゃいますと。
原田
巻物って「巻く」じゃないですか。
巻きぐせが強いと
折れたり切れたりしてしまうので、
緩やかに巻けるように、
「太巻」というものを使って、
保管するようにしています。
あるいはまた、
画絹という絹に描かれている絵には、
「肌裏紙」といって、
裏側から紙が当てられているんですね。
それを剥がして汚れを落としたりとか。
そうすることで、
作品の見え方がまったく変わります。
また、表具の「きれ」も
年月を経て糊が剥がれていくので、
そのあたりを修理してあげたりだとか。
──
なるほど。そのように
細やかな修理をしてあげることで、
もういちど生命が吹き込まれるような。
まさしく「お手当て」ですね。
ラヂヲ
東博さんのやさしさがにじみ出とるね。
またしても。
原田
適切なタイミングで
きちんとお手当てをしていれば、
よい状態で後世に残すことができます。
また、お好きな方って、
絵だけでなくて表具も見ているんです。
表具に使われている「きれ」が、
ちょっとすごい‥‥ものも多いんです。

──
すごい‥‥と、おっしゃいますと。
原田
中国の元や明の時代の古い「きれ」を、
室町時代に仕入れて、
表具をつくっているわけですね。
もちろん「主役」は絵や書なんですけれど、
その書画を見せるための表具に、
どういった「きれ」を取り合わせるか。
──
それによって、何かが変わるんですか。
原田
変わります、変わります。
掛け軸そのものが、ガラッと。
表具だとか中廻(ちゅうまわし)を
どういうものにするか、
天地の「きれ」をどうするかで、
その絵の格が、変わってくるんです。
反対に
「せっかくすばらしい作品なのに、
どうして、このきれを使ったのかな」
みたいな作品もありますし。
ラヂヲ
洋画の額縁と同じだね。
──
そこに「センス」が現れる‥‥と。
原田
この絵を一時所蔵していた
松平不昧という人は、
お茶の世界で非常に有名なんですが、
美術工芸の振興にも力をいれるなど、
とってもセンスに長けていた人です。
外国の「きれ」は珍重されましたが、
この表具裂(ひょうぐぎれ)のように、
中国の格の高い
アンティークの織物を使うだけでなく、
斬新なデザインのインド更紗を、
お茶の道具をつつむ布にしたりだとか。
ラヂヲ
現代のストリートファッションでも、
そういう人いるもんね。
原田
時代のファッションリーダーですね。
あの人が使っているから‥‥
みたいな流行を、生み出した人です。
──
ちなみに掛け軸の上の方についてる
あのビラビラは何なんでしょう。
前々から疑問に思っていたのですが。

原田
あれは「風帯」といいまして。
──
風帯。何の用をなしているんですか。
原田
古い時代の中国では、
掛け軸を屋外で鑑賞する習わしが
あったそうで、
この風帯が風に揺られることで、
「燕よけ」の役割を果たしていたと
説明されることもありますが、
実際には「飾り」、
それこそ
ファッションになっていますね。
ピラピラッとした風帯もあれば、
スジ風帯といって、
線で描いているものもあります。
──
なるほど。
ともあれ「表具のよしあし」で
作品全体の評価が上下しちゃう、と。
原田
評価ということでいえば、
まずは、当然「本紙」つまり
絵や書そのものの評価がいちばんですが、
その表具に「古渡」といわれる、
たとえば
中国の元の時代の織物を使っていれば、
値段はググーッと上がっていきます。
──
どういったお値段でしょう。ぶっちゃけ。
原田
場合によっては、数千万円‥‥。
──
すっ‥‥。
ラヂヲ
ケタが予想とちがったなあ(笑)。
──
とんでもない世界があるものですね‥‥。
ラヂヲ
いやあ、すごいね。
あ、これは何だろう。屏風かな。
原田
こちらは、夜光貝を用いた屏風ですね。
貝の内側の層を剥がしていくと、
こういった
微妙なきらめきを発するんです。

──
それを絵の形に整えて、はめ込んでる。
螺鈿(らでん)というやつですね。
ギターの装飾などでも、よく見ますね。
原田
そうです。ただ、こちらの螺鈿は、
はめ込むのではなく、
貝を貼ったうえに漆を塗ってから、
模様を研ぎだす技法です。
夜光貝って、こうして美しいんですが、
とても大きくて、おいしいんですよ。
──
あ‥‥沖縄の居酒屋で出てきたような。
原田
刺身にすると、おいしいんです!
ラヂヲ
いいなあ。古くて貴重で
キラキラしてる屏風の話の着地点が、
「おいしい」って、いいなあ。
──
おいしいは、強いですもんね!
ラヂヲ
食べてよし、屏風にしてよし。
これって象牙?
原田
はい、象牙です。こっちは犀角です。
──
ちょっとヤバいですね、これ。
えーっと、え、杯なんですか。

ラヂヲ
酒が完全にこぼれるじゃないか‥‥
あ、上の部分だけが杯になってるね。
へえ、こんななって飲むのか。
この無駄な部分に芸術を感じますな。
──
この盃でお酒を飲もうすると、
前にいる人のお鼻の穴に
先っちょを引っ掛けないかなあとか、
1メートルくらい先まで
影響を及ぼしてしまいそうですね。
ラヂヲ
それが「権力」ってもんだよね。
──
深いなあ‥‥先生はいつでも。

小野塚
次のコーナーは、朝鮮半島です。
磨製石器と金属器ですね。
古代から、近代現代のものまで、
ぐるっとひとまわりです。
ラヂヲ
海のトリトンが持ってたぞ、これ。

──
手塚治虫さんの原作を、
あの富野由悠季監督がアニメ化して、
ラストで物議を醸したという‥‥。
たしかに、短い剣を持っていました。
こういう剣って、
実際に武器として使ってたわけでは。
小野塚
どちらかというと実用品ではなくて、
祭礼用、お守り、象徴でしょうね。
朝鮮半島は日本から近いので、
たくさんのコレクションがあります。
このあたりの
朝鮮の古墳から出土した文化財を
日本の古墳から
出土してきたものと比べてみると、
いろいろとおもしろいんですよ。
──
似てるってことですか、つまり。
小野塚
似てますね。
当時、大陸の技術や製品に対しては
憧れがあったと思いますし、
渡来人といって、朝鮮半島から
日本にたくさんの人が来ていました。
そうした交流の中で、
かたちやデザインが伝わってきたり。
ラヂヲ
これはネス湖の湖面かな。
──
ははは、ネッシーですか。まさか~。

竹之内
これは、ラーメンのレンゲですね。
──
えっ、そうなんだ!
へええ、これってレンゲなんですか。
さっきもどこかで、
ラーメンどんぶりの模様があったし、
さすがは中国4000年の‥‥。
ラヂヲ
いやいや。
竹之内
いやいや。
──
あ、ちがうんですか?
竹之内
冗談です。
──
冗談って! 
たしかに、こんなんじゃ
チャーハンすくいにくそうだなと
うっすら思ったんですよ!
竹之内
これは緑釉鳥という鳥の置物です。
水鳥をかたどったものですね。
ラヂヲ
だまされやすすぎないか?(笑)

2024-01-07-SUN

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  • 書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
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    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
    Amazonでのおもとめは、こちらです。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇