こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第7回 クメール美術、タイのお像。

竹之内
さて、最上階までざっと見たので
エレベーターで
地下1階まで一気に参りましょう。
ラヂヲ
えっ、最後のボスは誰だったんだ。
さっきのレンゲ型ネッシーかなあ。
──
あ、『死亡遊戯』の設定でしたね。
すっかり忘れてました。
さすがラヂヲ先生、記憶力がいい。
原田
地下1階では、まず最初に
カンボジアのクメール彫刻ですね。
東洋館のコレクションには、
各国との交換文化財が
数多くあるのですが、
これらは当時カンボジアの宗主国だった
フランスから、送られたものです。
これだけまとまって
クメールの彫刻を見られる場所は、
日本では、
ここ東洋館くらいかなと思います。
──
交換っていうことは、
東博さんも、何か送ったんですか。
原田
はい。交換したのは、
第二次世界大戦の時期なんですが。
──
えっ、そんな大変な時期に?
小野塚
本当によく届いたなあと思います。
戦争中ということは、
船が沈んでもおかしくないわけで。

──
しかもフランスって敵国ですよね。
戦争では戦いながらも、
文化的な交流はしていたんですか。
原田
そうなんです、じつは。
当時、送られてきた
64点のクメール彫刻や工芸品は、
欠けることなく
いまもすべて東博にあるんですが、
日本から送ったものは、
しばらく行方不明になっていました。
──
そうなんですか。
やはり難しい試みだったんですね。
ラヂヲ
こちらからは何を送ったんですか。
原田
日本の着物とか鎌倉の彫刻、仏像、
あとはお能の能面とか‥‥。
ただ、近年の調査で、
ベトナムのハノイの博物館に残されている、
ということがわかったんです。
ハノイには当時、
フランス極東学院という研究機関があり、
日本の文化財は
ハノイに送られたようなのですが、
残念ながら、
すべては残ってはいませんでした。
──
ちなみにクメールの彫刻と言うと、
たとえば、どういった特徴が?
原田
日本では
ちょっとなじみのない仏さまが、
たくさんいらっしゃいますよ。
たとえば、こんなふうに
ヘビに座っている仏さまだとか。

ラヂヲ
わ、ほんとだ。ヘビに座ってる。
しかも「コブラ」みたいやないかい。
原田
そうなんです。
このお像は「ブッダ」なんですが、
ブッダが悟りを開いたときには
菩提樹の木の下で瞑想していたんですけど、
「悟りを開いたぞ」
となったとき、その状態を、
「ああ、気持ちいい‥‥」とかみしめながら、
そのまま瞑想するんですね。
──
ええ。
原田
その間、雨風が吹きつけてくることも
あったのですが、
ブッダは恍惚としているから、
そんなの、ぜんぜん気にしないんです。
で、そのようすを見ていた
ヘビの王・ムチリンダがあらわれて、
傘みたいにして
こうしてブッダを覆って、
雨風から守ってあげたという場面です。
──
自分のエラをひろげて、
コブラのアンブレラになった‥‥と。
ラヂヲ
やさしさだね。

原田
インドでは「水」に関係する蛇は
ナーガという神さまなんですけど、
東南アジアでも親しまれています。
人々にとっては
「ヘビ」って怖い存在でもありながら、
水を司る大切な神さまでもあるので、
仏教に取り入れられて、
こういうタイプのお像が、
たくさん、つくられたんです。
──
下は「とぐろ」ですかね。いわゆる。
原田
とぐろです。
とぐろの上に座らせてもらっています。
ラヂヲ
傘を差してもらってるうえに。

──
表現上の特徴というのはあるんですか、
クメール美術に、特有の。
原田
時代によってちがってくるんですけど、
お顔立ちで言うと、
唇がぽってりと厚かったり、
身体はガッシリしたお像が多いですね。
──
さっきのガンダーラのお像とは、
またちょっと、ちがった雰囲気ですね。
原田
その土地、その時代の理想の姿が、
お像として、あらわされていると思います。
ヒンドゥー教を信仰していた時代も長いので、
ヴィシュヌやシヴァという神様や、
あるいはガルダという鳥の神さまとか、
ゾウのガネーシャ、
水の精・天女アプサラーなど、
インド神話に出てくるような神々が
たくさん入ってきているのも特徴です。

──
お医者などの知識層を粛清したという
ポル・ポト派が、
こういった文化財を破壊したりとかは。
原田
遺跡が戦場になったケースはあったようです。
現地へ行くと銃痕があったり、
かつては、地雷による被害もあったそうです。
──
わざわざ偶像を破壊するような行為は‥‥。
原田
バーミヤーンの大仏が破壊されたような
大規模な破壊はなかったようですが、
遺跡がポルポト派の隠れ家になったり、
人々の避難場所になったり、
内戦による被害は大きかったようですね。
小野塚
さっき見ていただいたヘラクレス像は、
ハトラという
イラクの遺跡から出てきたんですが、
あのあたりは
かつてイスラム国が支配していたんですね。
地元の博物館では、、
過激派が、ある種のパフォーマンスとして、
ハンマーで展示物を破壊したりしていました。
──
そういうものを狙って壊すというのは、
それだけ民衆に対して、
影響力があると思ってるからですよね。
なるほど‥‥。
ラヂヲ
この斧が、またすごいね。

原田
これも実用ではなく、
祭祀に使われたものだと思います。
洞窟壁画にも
武器を持ったシャーマンみたいな人が
描かれたりしているので、
おそらくですが、気象を占ったりとか、
そういう儀式で使われたのかな、と。
ラヂヲ
占いばっかりやってたんだね、昔の人。
小野塚
そうですね。
占いで一大事を決めていたんですよね。
原田
現代でも
ミャンマーがヤンゴンからネピドーへ
首都移転したことにも
なんと「占い」が関係しているのですよ。
ラヂヲ
つまり「そこがいい」と出たから。
原田
はい。
ラヂヲ
話がはやくていいなあ。
「あ、占いなんで」なんて言われたら
反対のしようもないよ。
──
たしかに。うなずくしかないかも。
ラヂヲ
これからは、日本の政治の世界も
初心に返って、占いで
いろいろ決めたらいいじゃないか。
原田
さてこちらは明治・大正の時代に
三木榮という人が
タイから持ち帰ってきたものです。
──
三木榮さん。その方は‥‥。
原田
いまの東京藝大、
当時の東京美術学校を卒業したあとに、
タイで、日本の漆工技術を教える
お雇い外国人のようなかたちで
王室の調度品制作に関わり、
技術者を養成していた人なんです。
──
その方が、このような仏像を
たくさん持って帰ってきた‥‥と。
原田
そうなんです。
これはタイに特徴的なお像ですね。
アユタヤーという時代のものです。
──
特徴を一言でいうと‥‥。
原田
漫画の「こち亀」じゃないですけど、
ごらんのように
両の眉毛がつながっています(笑)。

ラヂヲ
ですよね(笑)。
なんだか親近感あるなあと思ったら。
原田
このように
とっても太い眉毛に見える像も
あるんですよ。
ラヂヲ
当時はそれをよしとしたんですかね。
眉毛が繋がっている状態を、よしと。
原田
そのようですね。
カンボジアの仏さまと比較すると、
タイの仏さまは、
笑っていることが多い印象です。
こちらも、
本来は「ヘビ」がいたんですけど、
残念ながら、
ナーガの頭は失われてしまっています。
──
あ、後ろにいたんだ。

原田
この方は仏さまなんですけれども、
花柄の衣をつけています。
インドの東、
現在のバングラデシュの織物が、
当時流行していたようなんですね。
なかでも、
ダッカの織物は古くから有名なのですが、
このお像がつくられたころには、
ダッカ製の花柄の織物が
タイでも流行していて
信者さんが寄進したらしいんです。
それで、この時代には、
こういった花柄の衣を身につけたお坊さんも
実際いたのだそうです。
──
花柄のお坊さん‥‥
なんか、あの世感がすごそうです。
竹之内
このお像を見ていると、
わたしは『笑点』を思い出します。
ラヂヲ
ははは、「山田くん、一枚」‥‥って。
やめてください。
筆が乱れるじゃないか!(笑)。
──
あ、先生いいですね、このイラスト。
ラヂヲ
え、そう?
──
はい、すごくいいです。
いますぐ、Tシャツにしたいくらい。
ラヂヲ
悪ふざけはやめなさい。
原田
わたしもほしいです。

2024-01-08-MON

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    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
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    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
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    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
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    青森県立美術館、富山県美術館、
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    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇