みうらじゅんFES マイブームの全貌展が
所沢市民文化センターミューズで
2023年5月7日まで開催されています。
ほぼ日の見習い乗組員で、
みうらじゅんさんを師と仰ぐ
銀の鳥シジュが、記者として質問に行きました。
背景:みうらじゅん「コロナ画」より
第2回
黄色い帽子のひみつ。
- シジュ
- 「牛の漫画を描いたんだから好きにならなきゃ」
と、牛のグッズを買いはじめたのが
そもそものはじまりだったんだジュな。
- みうら
- 好きでもないのに買いはじめたのは、ね。
すると、ある日、
雑誌社の方が取材に来られてね。
コレクター特集号だったと思います。
のちにその雑誌が送られてきて、
少しショックを受けました。
僕はすでに「ガロ」で
漫画家としてデビューしているつもりだったけど、
僕の肩書のところにね、
「みうらじゅん(牛収集家)」
と、書いてあったんです。
でもその取材は、僕がはじめて
ギャラをいただいた仕事です。
たぶん3千円くらいでしたけどね。
- シジュ
- ああ、「ガロ」は原稿料が出ないからだジュな。
- みうら
- そうなんです。世間的にはまだ、
デビューしてなかったんですね。
これもたまたまなんですが、
数年後が丑年でしてね、
牛収集家の仕事がやたら来るようになったんです。
そうなってくるとね、
当然、グッズは前よりは増やしていないと、
収集家としての収拾が、
つかないじゃないですか。
- シジュ
- つかないだジュな。
- みうら
- そんなことを続けていくとね、
収集癖だけでは物足らなくなって、
現在のように、自らが
「頼まれもしないのに発信していく」といった
発表癖がついてきたわけです。
- シジュ
- じゃあ、この
「みうらじゅんFES
マイブームの全貌展」も‥‥。
- みうら
- そう。
発表癖展と言ってもいいでしょうね。
でも、じつは世の中にはすでに
「発表されているもの」であふれていることは、
ご存知でしょ?
みなさんお好きで、集めておられるものです。
当然、そのジャンルのものは
膨大な数の商品が出回っています。
軽い気持ちでマネしようものなら
自滅する恐れだってあります。
- シジュ
- それはもう、
ライバルも多いし、
ぜんぶ買える量でもないし‥‥。
- みうら
- ですね。
だからマイブームはつとめて
「人が買わないようなもの」に
目を向けるようになるのは当然ですよね。
- シジュ
- みうらさんは「マニアック」ってわけじゃ
ないんだジュな。
- みうら
- マニアックな部分もないとは言えませんが、
マイブームの場合、
「そんなに出回ってないものなら
いまからでもどうにかなる!」
という精神が必要となってきます。
この40年以上もの活動のあいだに
「これだったらまだ間に合う!」
「これはあまり買う人がいないだろう」
というレーダーがビビビッと
くるようになったんだと思います。
- シジュ
- シジュは、みうらさんのことを
師と仰いで追いかけてきたんだジュけど、
「黄色い帽子のおじさんブーム」
があったことを知らなかっただジュ。
- みうら
- ああ、黄色い帽子のおじさんは、
ごく最近のブームです。
黄色い帽子のおじさんは、去年の
みうらじゅん賞をお取りになりましたからね。
そのせいでこれからはつとめて
「口角をあげて生きていこう」と
決意しました。
だからマスクの下で、僕はいつも
口角をあげる練習をしているんですよ。
黄色い帽子のおじさんは
アニメ「おさるのジョージ」のなかで、
ジョージが騒動を起こしても
決して怒らないんですもの。
- シジュ
- おじさんは研究者だった気がするだジュ。
金持ちけんかせず、っていうだジュな。
- みうら
- たいへんなお金持ちなんでしょうけどね、
あれだけ怒らない理由は、
その服装に出ているんじゃないかと
思ったんです。
「ひょっとして、あの黄色は、
実は金色の表現ではないか?」
と、いうことです。
お釈迦さんしかり、
悟りを開かれる方はみなさん、
金色に輝くもんですよ。
- シジュ
- 金色は、
悟りを開いた状態なんだジュか。
じゃあ、おじさんは‥‥
- みうら
- そうです。
「だから怒らないんだ!」と、
僕は膝を打ちましたね。
そこで、黄色い帽子のおじさんこと
「無怒菩薩」の人形を
常時、携帯することに決めたんです。
- シジュ
- ムドボサツ‥‥それは、御守りみたいにだジュか?
- みうら
- そうです。それで、
アニメを放映していることから、
NHK内にあるショップで売ってるだろうと
さっそくNHKに向かったのですが、
なんと、建て直ししていて、
お店がなくなっていました。
僕は念のため工事現場の方に訊きました。
すると「ないよ、ないよ」と
両指でバッテンを作り
ジェスチャーつきで教えてくださった。
その方は、いったん奥に行かれんたんですが、
しかし、戻ってこられたんですよ。
その方はきっと僕が
無怒菩薩を買いに来たんじゃないかと
気づかれたにちがいありません。
その方もすこし輝いて見えましたから。
「NHKショップは、都内なら
スカイツリーに入ってるし、
東京タワーにもあるみたいですよ」
と、教えてくださいました。
たぶん、わざわざ誰かに
聞いてくれたんでしょう。
そこで僕は渋谷から半蔵門線に乗って、
スカイツリーに行ってみました。
おさるのジョージショップは
たしかにそこにありました。
しかし肝心のおじさんはいませんでした。
ここで気づいたことは、
ジョージほど人気がないことと、
まだ間に合うかもしれないってことでした。
- シジュ
- なるほど‥‥
- みうら
- そうして集めはじめたおじさんが、
この展覧会にも何体か来ておられます。
- シジュ
- でも、黄色い帽子のおじさんは、
みうらさんの口角上げ運動、
つまりイライラ防止のために
集めたんだジュよね。
- みうら
- ええ、この展覧会に
全おじさんが来てしまっているので、
手元には、おじさんはいないんです。
ですから展示期間中は、
すこしイライラしてしまうかもしれません。
つまり、これは「収集癖」よりも「発表癖」が
勝ってしまった状態と言えるでしょう。
(明日につづきます)
2023-04-28-FRI
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所沢市民会館文化センターミューズ ザ・スクエア
みうらじゅんFES
マイブームの全貌展
2023年4月15日(土)– 5月7日(日)みうらじゅんさんの長年にわたる収集、
創作活動に迫り、
「マイブーム」の起源と全貌を
明らかにする展覧会。
コロナ画、いやげ物、
過去の膨大なスクラップや写真など、
増量された、迫力ある展示をたのしめます。
価値観の移りゆくこの社会で、
自らの価値観をどう築き上げていくのかが、
来場するみなさんに問いかけられます。