現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

http://kenkagamiart.blogspot.com/ 
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その16

「こけし」

数年前にハマったんですよ、いきなり。あっちの部屋にもまだたくさんあって、メルカリで10本まとめ買いもしたし、街の古道具屋さんとかもこまめチェックしてせっせと集めてたんです。ただ‥‥ですね、さんざん買ってはみたものの、いまいちピンとこないんですよ。理由はわかんないんだけど、ただ数があるだけでもおもしろくないっていうか。「あ、これをたくさん集めたら、新しい世界を見せてくれるかも」。そんなことを期待して何かを集めてたりするんですが、それがなかった。何十体ものこけしがこっちを見てるんで、何かに呪われそうな気持ちになっちゃうし。使ってないシンクに並べて「こけしの露天風呂だよ~」なんてやってみたんだけど‥‥。そんなあるとき、こうしてワインセラーに入れてみたら「ピコーン」ときたんです。やっぱり、こけしって「たくさん並べて飾る」じゃなかったんだな。それだと「こけしの枠」に収まってるもんね。でもこうしたら、見せてくれたんです。こけしたちが、新たな世界を。新たな世界。それはたとえば「頭頂部」ですよ。こけしの。つい見逃しがちな「こけしの脳天」を次から次へと鑑賞する機会なんてなかったからね。どれも似たような姿かたちをしているこけしですけど、頭のてっぺんはけっこう個性的だったんです。頭頂部の表情が、じつに豊か。ぜんぜんわかってなかったな。無闇に並べていただけのころには。
こけしって、得体のしれないパワーがあるじゃないですか。ぜんぶ持ってかれちゃうもん、ふつうに飾ってるだけで。こんな憎めない顔してインテリアを決定しちゃうふてぶてしさがある。ミッドセンチュリーでも、北欧風でも、昔のドラマのトレンディなリビングでも何でもいいけど、そこに「こけしが1本立ってる」だけで、どうですよ? その点、このワインセラー‥‥すでに「こけしセラー」なわけだけど、こうしておけば心配ご無用。どんなインテリアにもすんなりなじみます。呪われそうな気持ちになりません。
スタイルとしては「貯蔵」ですね。「飾る」というより。でも、そこにも意味があるっていうか、こけしって「木」でしょ。湿気が大敵なわけです、本来。作家ものとかヴィンテージのこけしって何十万とかするらしいけど、こうして「貯蔵」しておけば、適切な温湿度で保管できます。うちのセラーは巨大こけしのせいで閉まんないんだけど(笑)、ま、ぜんぶ何百円とかだからね。床の間の高級こけしが心配なあなたは、ぜひマネしてください。自宅の地下を改造して巨大なこけしセラーつくりましたとか、最高だと思います。

つねづね思っていたことですが、加賀美さんの「買い物」には「提案」が含まれていますね。「こうしたらどう? おもしろいでしょ」とか。「こんなに集めてみたら、見たことのない何かになったよ!」っていう。さすがはもともとスタイリストになろうとしてた人。でも、その「提案」に乗りきれないところが我らオトナの限界であり、加賀美さんの買い物の規格外なところなんだよなーとしみじみ思う梅雨の空。

加賀美さんの「カッコいい」

靴下の穴からスマイルマークhole

もし靴下に穴が開いてしまったら捨てないで、そこにスマイルマークを描いてみるのはいかがでしょう。穴の空いた靴下を履いていたら「だらしない人だなー」なんて思われちゃうかもしれませんが、その穴からスマイルマークが見えてたら「しゃれてるな~」になるとかならないとか。

2023-06-16-FRI

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