現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その21

「う◯このハンコ」

ケーヨーデイツーというホームセンターに「ハンコの自動販売機」があったんです。名前を入れたら、その場で彫ってくれるっていうやつ。昔は急にハンコが必要になることもあったのかな。いまはハンコを廃止しようみたいな動きもあるから、その自動販売機じたい時代遅れなんでしょうけど。このときは、娘と見つけて「おもしろそうじゃん!」って。1回500円。素材はいちばん安い「木」を選びました。10分くらいでできるっていうんで、娘と「何にする?」って相談して「やっぱ、う◯こかな」みたいなところに落ち着きました。娘も「シンプルに、う◯こがいいね」って。一瞬「世界平和」と迷ったけど、我が家らしく「う◯こ」に。ぼくらのころって「大人になったら、ちゃんとハンコつくんなきゃダメだぞ」みたいな風潮があったんです。象牙でつくって役所に印鑑登録とか。スーツとハンコが大人の証。あと母ちゃんには、ずっとこう言われてたんです。「ケン、見たことのない紙を出されても、ハンコだけは絶対に押しちゃダメよ!」って。「それで借金の保証人になっちゃったら人生おしまいよ!」って。ちっちゃいころから「ハンコ」というものに対しては、そんなイメージがありました。得体の知れない力が宿ってるみたいな。「押したら終わり」みたいな。その理不尽なほどのパワーを相対化したかったのかもしれません。この「う◯このハンコ」によって。何せこのハンコは何も決定しませんから。だから詐欺師が詐欺を仕掛けてきたら押してやろうと思ってます。「しめしめ、あいつハンコ押したぜ!」ってアジトへ帰ったら「ハンコがう◯こじゃねえか!」「やられた~」なんつって。詐欺師をおちょくるハンコとして、いい仕事をしてくれそう。もしくは娘の結婚式で神父さんに「では、ここにサインを」と言われたとき、ゆっくり胸ポケットから出したい。「パパ、そのハンコ‥‥!?」「覚えているかい?」「あのときの‥‥まさか、今日のために!?」「フフフ」なんて。足かけ20年くらいかけた小ボケというか、壮大そうでちっちゃい伏線回収というか。娘が覚えてなかったらおしまいなんだけど(笑)。このハンコを象牙でつくろうとしたら止められるでしょうね。まずは、職人さんに。「10万するけど、本当にそれでいいの!?」って。逆に言えば象牙で「う◯このハンコ」をつくれたら一流だと思います。「う◯こといえば加賀美健」ってことだから。まあ、その域に達するのなんて、だいぶ先でしょうけどね。修業に励みます。今回はう◯こう◯こ言ってすいませんでした。

さすが、丸めてポイッと脱ぎ捨てられた靴下を指さして「パパ、これ作品?」って聞いたという娘さん。気鋭の現代美術作家と「やっぱ、う◯こだね」でピシッと意見が一致するって。こぼれ話ですが「ち」からはじまる、語感のよく似た単語があるじゃないですか。加賀美さん、それも試したそうなんですよ。でも、そっちは機械が「却下」してきたそうです。

加賀美さんの「カッコいい」

空き缶を踏んだ靴canshoe

道を歩いてたらアルミ缶を踏んじゃって、ソールにハマって取れないことってないですか? そんなにはないか(笑)。でも、もし踏んじゃったら無理に外さず行きましょう。カチカチうるさいかもなんて、気にしない。タップのステップを踏みながら家路を急ぐ、夕暮れの帰り道。

2023-11-16-THU

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