現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その22

「世界のスッポン」

英語では「プランジャー」っていうんです、これ。日本じゃ「スッポン」でおなじみですけど、ようはトイレの管が詰まったら‥‥って説明する必要もないですね。みなさんご存知、一家に一本の必須アイテム。ただ日本のスッポンって、だいたい「黒」とか「グレー」じゃないですか。カップの部分はじめ。きっちり仕事をしてくれそうではあるものの、いまいち遊び心や華やかさに欠ける。その点、海外で見るスッポンは、こんなふうに楽しげなんです。色やカタチもさまざまで、つい集めたくなっちゃう。ここにあるのはスイス、ロンドン、ブラジル、サンフランシスコ‥‥だったかな。なかでも、この持ち手の短いタイプ、すごくないですか? ドキドキしちゃいますよね。仮にも詰まったトイレをスッポンスッポンする道具なわけです。なんでこの短さでいいと思ったんだろう。スッポンのたびに不吉な予感がするんだけど、気にしないんだ。カッコいい。10年前くらいから、海外へ行ったら金物屋さんみたいな店でスッポンを物色することにしてます。スーツケースに入れて持って帰ってくるんだけど、税関で「開けて」ってよく言われるタイプなんですよ、ぼく。税関の人に「お土産のぬいぐるみの中に、悪いクスリを入れて持ち込もうとする人もいるんで」とかって。なので、そのときに「なんでこの人、わざわざ海外でスッポン買ったんだろう?」と不審がられているかもしれません。「それも、こんなに」って。え、こう並べるとオブジェみたいですねって? そうでしょ。世界各国のスッポン100個くらい集まったところを見てみたいですよね。個展でズラーッと展示してみようかな。ブロンズでスッポンつくってみようと思ってるんで、それと一緒に。あるいは、ひとつだけ「自宅用」の「現役」を混ぜとくとか。これだけは触ってもいいですよって(笑)。その意味で、スッポンがおもしろいなあと思うのは、一度でも本来の目的で使用した瞬間に悪魔みたいな扱いになるところ(笑)。デュシャンの《泉》じゃないけど、展示してれば「新しいアートですね」なんてありがたがるのに、使った瞬間に「あっちいけ!」でしょ。スッポンのペーソス感というか、人間の変わり身の早さというか。最後に、使用済みのスッポンは超強力な武器にもなると思います。とくに使用直後のスッポンならきれい好きの強盗くらいは撃退できそう。少なくとも一瞬、わるものどもを怯ませるくらいの破壊力を秘めてますよね。考えれば考えるほど、無限の可能性を感じるんですよ。スッポンって。

前回の最後に「今回はう◯こう◯こ言ってすいませんでした」と言ってた加賀美さん、あんまり反省してませんね(笑)。ただ、たしかにスッポンってすごいです。原始的な道具なのに、iPhoneの時代でも現役じゃないですか。黒電話の花柄カバーとか、ひらひらしたドアノブカバーとかは廃れたのに、スッポンは現役。人間がトイレの管を詰まらす限り。無限の可能性を感じます。

加賀美さんの「カッコいい」

椅子の背にタグchair

リュックのブランドタグを椅子の背もたれに貼ってみましょう。「お先に失礼しまーす」なんて言って、椅子にかけたリュックを背負ったら、背もたれに同じブランドのタグ。さらにリュックじゃなくて椅子を背負って退社してったりしたら相当かっこいい。どのブランドを貼るかがセンスの見せどころ。

2023-12-16-SAT

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