現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

http://kenkagamiart.blogspot.com/ 
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その23

「デカい靴」

もう知ってると思いますが、デカいもの好きなんです。毎日メルカリで「デカい」を検索したりして、つねにアンテナを張りめぐらせています。友だちとも情報交換してるんですが、あるとき「加賀美さん、ヤバいっすよ!」「めっちゃデカい靴が売ってます!」って緊急メールが入ったんです。「しかも、いまなら50パーオフらしいですよ!」って。写真を見たら、たしかにデカそう。値札も「3万円」から「1万5千円」になってて「自分が買わなきゃ誰も買わない」って感じの代物でした。ただ、写真では実際どれくらいのサイズなのか、わからない。エアコンの室外機の上に置かれていたから「アホみたいにデカい」ことだけはわかったんだけど。ともあれ速攻お店に電話しました。「すみません、デッカい靴があるって聞いたんですけど、まだ売ってます?」って。そしたら「ございます」って言うんで、すぐに自転車で駆けつけました。そしたら、何だかすごく素敵な雑貨屋さんで。おしゃれなインテリア小物からヴィンテージの椅子なんかも並んでたんだけど、そういうのには目もくれず、一瞬の迷いもなく室外機の上の巨大靴を抱えて一直線にレジへ持ってったら、店員さん半笑いしてました。「あ、先ほどお電話くださった‥‥?」って。実物を手にしてみたら‥‥っていうか両手で抱えてみたら「こりゃヤベェわ(笑)」と。馬場さんの16文が38.4センチっていうからゆうに「3馬場」はある。当然、自転車の前カゴには収まらない。お店の人も「すみません、入るレジ袋がなくて‥‥」ってすまなそうな顔で言うんで「ぜんぜん大丈夫ですよ。慣れてますんでって小脇に抱えて片手自転車で帰ってきました。FRP製で、じつは見た目ほど重くないんですよ。ただ、みんな見てました。ひなたぼっこのばあちゃんも、軽トラ運転中のオッサンも。いまでは本当にいい買い物をしたと思ってます。欲を言えば両足ほしかったな。友だちが来る日に「高校の同級生も呼んでいい?」とか言っといて、この靴を玄関にそろえとくんですよ。で、「どんなデッカい同級生だよ!」「ケンの高校の友だちハンパねぇな!」とか。いつものヤマトさん、佐川さんの反応も楽しみ。ミスターミニットに持ち込むのもいいですね。「すいません、ソール貼り変えてほしいんですけど」とかって(笑)。もし読者のみなさんのなかで、これの右足を見かけたら、ぜひ情報をお寄せいただきたいと思います。買いに行きます。

わはは、そこにいるのはパトラッシュですか? こんなデカい靴、絶対「えっ」と思いますよね。同行者とも「何これウケる〜」と話も弾みます。でもそこで「買うか買わないか」が大きなわかれ目。これを「買う」のは、あらためてすごい。どう持ち帰るか、飾る場所、家族への説明。そんな壁もホイッと飛び越えちゃう。それが、加賀美健という生き方。

加賀美さんの「カッコいい」

デカい請求書chair

家の近所にデカい段ボールが捨ててあったんです。一瞬「巨大な茶封筒」に見えたので、持って帰って請求書にしました。郵便局に持ってってみようかな。何て言われるだろう。いくらかかるかな。請求するギャラ以上に高かったりして。かっこいいけど送れません‥‥なんて言われたらテンション上がるな。

2024-01-16-TUE

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