現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その24

「木彫りの仏像」

3年くらい前、友だちとキャンプへ行ったときのこと。長野だったんですけど、帰りにお風呂であったまってくかあなんて寄った健康ランドに、ひなびたおみやげコーナーがあったんです。何かヘンなもんないかなってフラッと入ったら、向かいの棚に木彫りの仏像がズラリと並んでる。で、そういう作風なんでしょうけど、どれも荒削りっていうか、めっちゃ雑なつくりなんです。仏像にはまったく興味なかったんだけど、何だか妙に気になって。へえ~、ふ~んなんて見てたら、微かな違和感が。一体だけ妙に前傾姿勢の仏像がいるんですよ。そこだけ地軸が傾いてるみたいで、めっちゃ目につく。そこで棚から下ろして店の床に置いて真横から眺めてみたんです。その瞬間、脳内に「Pow!」というシャウトが響き渡りました。そうです。完全に「スムーズ・クリミナル」だったんです、マイケル・ジャクソンの。いわゆるゼロ・グラビティってやつ。すぐに「俺が買わなきゃスイッチ」がオンに。ただ、値段が5000円とかって微妙〜に高かったんで、隣にいた娘の意見を聞いたんです。そしたら「パパがほしいんなら買えば」って、いつもの返事。家族のOKも出たので、連れて帰りました。ふだんはアトリエの東洋コーナーに置いてます。手を合わせたりはしていません。調べてみたら、仏像って少し前のめりにつくられることもあるそうですね。真横から見たことないし、知りませんでした。この作者の方も仏像づくりのセオリーにのっとって、さらには「円空に捧ぐ」みたいな気持ちで彫ったのかもしれないけど、ここまで読んだみなさんの頭の中には、もうマイケルがチラついて仕方ないはず。そういう「ものの見方の転換」「視点の切り替え」こそがアートじゃないかなと思うんです、真面目な話。逆に「仏像って前傾してるよね、そこで天の羽衣みたいなのを着せたマイケル・ジャクソン人形を彫りました」とか言われても、つまんない。理屈じゃサイフのヒモは緩みません。だったら勝手に前傾姿勢の仏像を買ってきて「スムーズ・クリミナル如来だ〜」なんつって遊んでるほうが、おもしろい。マイケル・ジャクソンと縁もゆかりもない仏さまの御姿に「Pow!」が聞こえた瞬間、新しい何かが生まれるんです。そういう意味では「アートの作者」って「ひとりの具体的な誰かさん」じゃないのかもしれないですね。アートをアートたらしめているのは、それをおもしろがる「みんなの視線」なんじゃないかな。なんつって。

美術史家の辻惟雄先生も、おっしゃっておられますね。アートとは制作者の意識や意図を超えて存在し、のちの人々の目によって「発見」され「再生」されるものである‥‥と。まさに、その実例ではないでしょうか。木彫りの仏像は「発見」され、新たな生命を吹き込まれたのです。「加賀美健の目」によって。

加賀美さんの「カッコいい」

銭湯のカゴにマイケルセットmichael

銭湯に行って服を脱いでいるとき。となりのカゴをチラッと見たら‥‥えっ? マイケル? ビックリですよね。「おいおい、松の湯にマイケル来ちゃったよ!」って。洗い場でキョロキョロしてたら、マイケル似のおじいちゃんがサウナから出てきたりとかね。そんなシチュエーション全体が、カッコいい。

2024-02-16-FRI

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