現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

http://kenkagamiart.blogspot.com/ 
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その25

「セーフティマン」


せんぱぁーい、起きてくださいよ。ちょっと先輩。先輩! ラッキー先輩! 終電なくなっちゃいますよ? 調子に乗って飲み過ぎなんスよ~。おまえらもボーッと見てんな。どうするよ? 置いてっちゃう? え、凍え死ぬ? 平気じゃない? ダメかな。え、死ななかったとき絶対何か言われるって? だよなあ~。しょうがねぇなあ。もう、タクシー乗っけちゃおうか。つかまえてつかまえて、あれ。あー迎車か。先輩んちの住所、知ってるやついる? 朝霞のちょっと先だっけ? けっこうあるよね距離。金持ってんのかなあ。先輩! 先輩! ラッキー先輩! しっかりしてくださいよ! うわ~‥‥自分のゲ◯踏んじゃってるわ。新品のエアフォース1で。あんなに自慢してたのに。先輩、アンラッキーだなあ‥‥‥‥‥って、小芝居はこれくらいで大丈夫ですかね。はい、この人はもちろん先輩じゃありません。ソファに座ってるふたりとあわせて、全員「等身大の人形」です。その名もセーフティマン。アメリカで発明された「防犯用の人形」で、身長180のぼく以上に上背がある。一般的な男性よりデッカいし目ヂカラもすごいんで、この人たちを「自動車の助手席」に乗せたり「留守中のリビング」に座らせたりして、ギャングや泥棒を寄せつけなくするらしい。もちろんぼくは、そういう目的で買ったわけじゃないです。見つけた瞬間「絶対ほしい!」と。ひょっとすると自分史上「最高の買いもの」かもしれない。それくらい気に入ってます。だってもう、ずーっとおもしろいんですよ。ふだんアトリエの片隅に座らせてるんだけど、視線が気になって気になって。夜中にふと目が合うと、昼間とは違う表情をしてるような気もしたり(笑)。あと、さっきみたいに「酔っぱらいを介抱する人ごっこ」をするとウケがいいです。グニャグニャしてて鉛のように重いという泥酔者特有のあの感じ、めっちゃ出してくるんで。酔っぱらいを演じたら名優だと思う。ただ、もともと着てた洋服がイケてなかったんで、ぼくがスタイリングしました。ボトムスは昔のA.P.C、もしくはいつもの無印のデニムです。上のパーカーはラッセル・アスレチックとかかな、アメリカの古着ですね。スニーカーはNIKEのエアフォース1、VANSのオールドスクール。カッコいいでしょ。真ん中のアジア人タイプは、若いころのビートたけしさんにどこか似てますね。娘が「ラッキー」って命名してました。売ってたのが30年くらい前みたいで滅多に出会えないけど、最終的には10人くらい集めるのが目標です。

これ、昔『VOW』ネタとして投稿されていたのを覚えてます。たしかに30年くらい前のことです。ぼくが見たのはサングラスをかけた白人警官風のセーフティマンで「そんな人が助手席に乗ってる状況って?」と大笑いしたんですが‥‥30年後、加賀美さんちで遭遇するとは。人生って、めぐり逢いの連続。

加賀美さんの「カッコいい」

カップ麺の容器でパトランプpatlump

刑事ドラマを見てると、覆面パトカーの刑事さんがパトランプ出しますよね。それから、ぐんぐんスピードアップしますよね。そのパトランプが、カップ麺だったら。担当の奥野さんが大昔の『VOW』で見たっていう「警官風のセーフティマン」を助手席に乗っけてたら、いろいろ完璧。

2024-03-16-SAT

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