「“いい会社”とは、これからの社会に
ほんとうに必要とされている会社であり、
その存在を思わず応援したくなるような会社のことです」
これは、鎌倉投信のファウンダー・新井和宏さんの言葉です。
新井さんは鎌倉投信を立ち上げて10年間
“いい会社”を探すため、
日本全国のたくさんの会社を訪問し、
じっくりと経営者にインタビューし、
そこで働く人やお客様と対話してきました。
新井さんが考える「これからの社会」とは。
そして、そんな社会でどう働き、どう生きるのか。
これからの時代をになう「宝」である就活生に向けて、
新井さんに講義をしていただきました。
※授業は2020221日に行いました。

>新井和宏さんプロフィール

新井 和宏(あらい かずひろ)

プロフィール
講師 新井和宏さん

世界最高峰といわれた資産運用会社で働き、
リーマンショックを機に金融のあり方に疑問を抱く。
その後に鎌倉投信を仲間とともに立ち上げた。
「志ある会社を応援する」。その投資姿勢が共感を呼び、
「R&Iファンド大賞」の
NISA/国内株式部門で最優秀ファンド賞も受賞。
そして2018年に、共感資本社会の実現を目指して、
株式会社eumo(ユーモ)を設立。

幸せな人は「お金」と「働く」を知っている
持続可能な資本主義
共感資本社会を生きる

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05[就活が変わる?]あなたにとっていい会社。

■会社は関係している人たちすべてのもの。

会社という「もの」は、実は、なにもないんです。
そこに関係している人たちがいるだけです。
それがたまたま経営者なだけ、たまたま株主なだけ。

そこに社員が社員としての関係性を持ってる。
お客さまがお客さまとしての関係性を持ってる。
そして地域に存在し、地球上に存在する。
そのすべての関係者に対して「どう応えるか」を考える、
これが会社です。

今、ほとんどの経営者は、利益のことばかり言います。
利益というのは株主のためにありますから、
たぶん会社を「株主のもの」だと思ってるんだよね。

でも、もうそんな時代じゃないから。
そんな経営者がいたら「時代遅れ」と言ってやりましょう。

会社は、関係している人たちすべてものです。
誰のものではないです。
それを公の器と書いて「公器」と呼びます。

上場企業だから公器というわけではありません。
上場企業の経営者の話を聞けば聞くほど
「この人たちは株主のために生きてる」と思えたりする。
上場していない会社でも、
公器としてすばらしい会社はあります。

分野は別々ですけど4社ぐらい挙げますので、
今どきの会社として
ウォッチしておいてもらうといいでしょう。

■八方よしを具現化している会社。

●西精工
パーツやナットを作ってる会社です。
ほぼすべての社員が社員アンケートで
「月曜日に出社することが楽しみ」と回答し、
2017年「ホワイト企業大賞」を受賞。
西社長はそのとき、こうおっしゃいました。
「満足というのは、与えられるもので、
それでは本質的な幸せには繋がらないと思います。
本質的な幸せは主体的だと考えます」

●スマイリング・パーク
宮崎県にある社会福祉法人です。
老人ホーム、障害者施設、保育園などを
多角的に経営する多機能型福祉施設です。
すでに定年を75歳に引き上げ。
年次有給休暇の取得を推奨するだけでなく、
休暇を他の職員にあげられる寄付制度など
ユニークな試みがたくさんで、職員定着率は95%。
2019年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞、
実行委員会特別賞を受賞されています。

●GCストーリー
東京都江東区にある、80人ほどの会社です。
看板をビジネスにしています。
この会社は、自由なティール組織と、
家族的なグリーン組織の両方のよさを持つということで、
「グリーンティー組織」と自分たちを呼んでいます。
『働きがいのある会社ランキング』で
5年連続ベストカンパニーを受賞されています。

●ネットプロテクションズ
後払いの決済方式を一番はじめに導入した会社です。
現在、社員数は約200名。
もうティール組織の典型みたいな会社で、
「自ら考え、行動する社員」が働きやすい環境を作るために
人事制度を作ったり、マネージャーを廃止したり。
社長曰く、会社とは「関わる多くの人を幸福にする器」。
これからも伸びていくでしょう。

GCストーリーの説明で触れた「ティール組織」とは
みんな自由で、普段着を着て、出社時間も自由で、
自分で意志決定してなにかをやってる組織のこと。
一方、家族のような会社で、
みんな家族のように楽しんでいる、
そういう会社も存在します。
これをグリーン組織というんですけど、
ティールの理論でいうと、それぞれ存在するんですね。

これらの会社以外にも、
『日本でいちばん大切にしたい会社』や、
僕が委員を務めました「おもてなし経営企業選」、
今やっている「ホワイト企業大賞」。
これらに選ばれてる会社さんを知ってもらうと、
会社を見る目も変わってくるかなと思います。

 

ただし選ばれてる会社がかならずしも
みんなにとって「いい会社」じゃないですからね。
あなたにとっていい会社は、
あなたのなかにしかないんです。
自分のなかで「これがいい」と
思える基準を持ってください。
持てば、探すことができるから。
時間をかけて探していただきたい。

いろんな会社を見られる時期って今しかないから、
行きたくない業界でも、たくさん見たほうがいいですよ。
「これ絶対ブラックだよな」と思える会社にも行って、
「ブラックに見えない。私の目線、おかしいのかしら」
と思うぐらい、自分で感じてほしいんです。

いろんな会社があることを知った上で選ぶことができると、
だいぶ目線がよくなると思います。

■いい会社とは、あなたにとっていい会社。

ある学生から就職相談を受けたのですが、
その子は「いい会社」に行くのがいいのか、
就職ランキング上位の会社がいいのか悩んでいました。

いい会社さんはね、コミュニケーション量が多いんですよ。
ですから、アフター5に仲良く飲みに行くとか、
そういう行事が大好きなんです。

だからその子に「そういうの好き?」と訊いたら
「いや、そういうのは苦手なんです」と。

僕は、こう答えました。

「だったら、やめといたら?
そういう人たちとコミュニケーションとりたい、
一緒になって、がんばりたいということじゃなくて、
そうじゃない価値観のなかで自分が選ぶんだったら、
その会社じゃないかもしれないよ」

いい会社とは、あなたにとっていい会社です。
すべての人にとっていい会社は存在しないんです。

就職ランキングを見て、なにがわかる? って話です。
僕らのころは、就職ランキングのトップは銀行ばっかり。
今、違うでしょう?
時代は変わっちゃうんです。

ただ、お父さん、お母さんはやさしいから
「こういう会社に入ったほうがいいよ」と言う。
お父さん、お母さんは自分の見えてる世界観のなかで
一番いいものを、あなたを愛しているから勧めてくる。

でもそれはお父さん、お母さんの価値観です。
みなさんは見ている世界が違います。
あなたは、あなたにとっていい会社を選ぶべきなんです。

みなさんがその会社に入って、すごく幸せそうな顔をする。
その顔でしかお父さん、お母さんを説得できないです。
でも、それを選択してほしいんです。
僕は客観的に、みなさんの幸せを願うから。

友だちの誰々さんがあの会社に入った、
誰々さんがあの会社に行こうとしている。
学校という狭いコミュニティのなかで
バイアスがかかっていきます。
自分がどこにいるか、わかりにくくなる。

だから、自分をちゃんと持つことです。

就職というのは「自分とはなにか」を
ちゃんと考える時間だと思ってください。
自分が選んでやったことは、後悔しないです。
他人に流されて選んだことは、後悔しかないです。

(つづきます)

2020-04-27-MON

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