毎週日曜日にたくさんの視聴者を
テレビの前に集合させた大河ドラマ、
『鎌倉殿の13人』がNHKオンデマンド
48回すべてを観られるようになります。
それを記念して、実衣役の宮澤エマさんと
ドラマの大ファン糸井重里が対談し、
オリコンニュースさんの広告記事になったのですが、
その場だけではとても収まらず、
急遽、ぜんぶ掲載バージョンを
ほぼ日に掲載することになりました。

>宮澤エマさんプロフィール

宮澤エマ(みやざわ・えま)

女優。1123日生まれ、東京都出身。O型。
カリフォルニアオクシデンタル大学卒業。
2012年 、芸能界入り。
映画『記憶にございません!』、
舞台『日本の歴史』、
NHK連続テレビ小説『おちょやん』など、
数々の作品に出演。

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第8回 頼朝と祖父と電車の席の話。

糸井
さて、いろいろ話してきましたが、
まだ一言も触れていないことに気づきました。
源頼朝を演じた、大泉洋さん。
宮澤
はい(笑)。
頼朝さんは亡くなってから、
だいぶ時間が経ってしまったから。
糸井
ちょうど半分くらいでしたよね。
つまり、全48話のうち半分くらいは
源頼朝の物語だということもできる。
宮澤
頼朝がいなくなってからが
ほんとうの『鎌倉殿の13人』なんですよね。
三谷さんもそこからが物語の
ほんとうのスタートなんだとおっしゃっていて。
だけど、そのためには、
まず頼朝さんがちゃんと存在して、
義時のなかに種を残していかないといけない。
糸井
義時のなかには、写し鏡みたいに、
ずっと頼朝がいますからね。
あれはすごい構造だなぁ。
宮澤
序盤は頼朝という独裁者がいることで、
反発して坂東武者がまとまって、
ぜんぶ頼朝のせいだって言ってたのに、
亡くなったら誰のせいにもできなくなって、
すこしずつ分解して崩壊してゆく。
じゃあ、求心力のあるリーダーは誰なんだ、
っていう、そういう物語なので。

糸井
その意味でも、まず頼朝が
鎌倉で大きな存在にならなくちゃいけない。
だから三谷さんは、最初に頼朝を
「天に守られている存在」として描くんですよね。
運がよくて、戦にも負けない。死なない。
宮澤
はい、はい。
糸井
あのへんはなんか、
仕事の話みたいにして考えると
ものすごくおもしろいんですよ。
つまり、仕事とか社会って、わかりやすく、
ひとつひとつの能力の足し算で
うまくいくというわけじゃないんで。
宮澤
ああ、そうですね。
糸井
そういうときに、たとえば頼朝が、
最初の大きな戦を仕掛けるときに、
「真ん中からドカンと行け」みたいな、
センスとしかいいようのないことを言う。
勝つか負けるかの確率で言ったら、
危ないかもしれないんだけど、
その、どう言えばいいんだろう、
勝つ自分を信じるしかないっていうときは、
ああいう人が一番、勝つ手を思いつくんですよ。
やっぱり、若い義時はそういうところに
感動したんだと思うんですよね。
天命とか運命にまず憧れるというか。
宮澤
そうですね。あと、頼朝の信仰深さとかも、
そういう運命の表現ですよね。
観音様を持ち歩いていたり、
夢で見たことがすごく意味を持ったり。
糸井
西田敏行さん(後白河法皇)に
何度も起こされたりね(笑)。
宮澤
そうそうそう(笑)。
結果的に生き延びたっていうこと自体が、
なんというか、証になるというか。
そういうものを頼りに頼朝は生きて、
最後の最後で、もう、自分は、
神仏に守られていないのかもしれない、
っていうことが迷いにつながっていく。
糸井
おもしろいですねぇ。
そういう、人の上に立つ人としての、
その運命の描き方が。
宮澤
はい。
糸井
そういうことでいうと‥‥
あの、これ、いま急に思いついちゃったんで、
今回の企画の趣旨とは別に
宮澤さんに訊いてみたいんですけど。
宮澤
はい、はい。
糸井
宮澤さんのおじいさん
(宮澤喜一・元内閣総理大臣)のことが、
いま、急に思い浮かんじゃったんです。
総理大臣になる人って、なにか特別な、
それこそ頼朝的な運のめぐり合わせとか、
そうなるに決まってるんだよ、
っていう部分があるんですかね?
宮澤
これは、私が直接聞いた話ではないんですけど、
むかし、祖父が母によく言ってたそうです。
「総理大臣になるかならないかは、
満員電車の中でつり革につかまって立っていて、
自分の目の前の席に座ってる人が、
ふと降りるか降りないかの差だよ」って。
糸井
ああーー。
宮澤
だから、頼朝の話とつながるんですけど、
やっぱり運というものもある。
もちろん、その電車にまず乗れてるか、
どの位置に立っているのかという、
運だけじゃない部分もあると思うんですけど、
ふと前の席が空いたから座る、
それが首相の席だった、というふうに
祖父はよく言っていたそうです。
糸井
いや、すごくおもしろいです。
まずは、前提として、
自分のちからで電車に乗り合わせること。
宮澤
そうですね。
そもそものその素質だったり、
才能だったり、対人関係だったり、
コミュニケーションスキルだったり、
マスコミメディアへの対処の仕方だったり、
ということでふるいにかけられて。
あるいは自分が勝ってる方の政党に入ってる、
というような要素ももちろん絡んではきます。
ただ、最後の最後で、その場所を狙えるような、
半径何メートルにいる人たちのなかで、
誰かになるんだとしたら‥‥。
糸井
目の前の席が、ふと空いた人。
宮澤
運、縁、タイミング、
それって、私たち役者がどんな役に
めぐり合うかも同じような気もしていて。
もちろん、一国の首相と比べるようなことじゃ
ないのかもしれないですけど。
糸井
いやいや、でも、わかります。
宮澤
でも、やっぱり政治家もひとりの人間で、
人望があってもダメな人もいるし、
人望がないけどうまくいく人もいるし、
いろんなタイミングと、
いろんな運がうまく働かないと、
どんなこともはじまらないのかなと思います。
そういう意味では、私は、ラッキーなことに、
家系にそういう人がいたので、
今回、こういう物語をやってると、
ああー、でもけっきょく、人なのよね、
っていうところはリアルだなぁと思います。
糸井
同じようなことなんでしょうね。
宮澤
鎌倉時代の厳しさにくらべれば、
いまはいい時代だと思いますけど。
糸井
あと、それをいま宮澤さんが語れるということは、
お母さんがきちんと伝えているということで、
やっぱりそういう環境っていうのが、
政治を目指す家には自然に整ってるんだな、
っていうことがわかりますね。
宮澤
まぁ、やっぱり、夜ご飯のときの会話が、
だいたい政治とか世界情勢の話が多かったので。
そうすると、ちっちゃいときなんて、
つまんなくてしょうがないんですよ。
私は小学校で起きた事件のことを話したいのに、
あの人たち、つまんない話してんな、って。
ほかの子の家に行くと、みんな、
なになにちゃんの話とか、
なになにちゃんのお母さんの話とか
してくれるのにさー、と思って。
誰だよ、何々大臣、みたいな(笑)。
糸井
はーー、そうですか。
それは、お孫さんの前でもそうだったんですね。
宮澤
すごくよく覚えてるのが、毎週、日曜日に
夜ご飯をいっしょに食べてたんですけど、
父が外交官だったので、祖父と父は、
だいたいずっと政治の話をしてるんですよ。
いつも7時のNHKのニュースを見てから、
祖父は食卓について、ふたりはずっと英語で話してて、
私たちはなんか、ふつうの日常の話をするわけです。
一段落すると、祖父がこちらの話に入ってきて、
「エマちゃん、なにかあった?」とか聞くので、
今日ねぇ、とか言ってやっと話をする、みたいな。
もちろん、みんなで神経衰弱やったりとか、
そういう遊びの時間もあったんですけど、
基本的には、祖父はものすごく仕事人間で、
仕事が中心の生活をしてたみたいです。
糸井
それはあれですね、歌舞伎の家に育ったら、
かっぽんかっぽん、鼓の音が聞こえてるみたいな。
宮澤
ああ、まさにそんな感じです。
糸井
そういことは、まさに
頼朝の話とかとやっぱりつながるわけで。
宮澤
はい、それはそうですね。
育ってきた環境っていうのは選べないですけど、
やっぱり、ありますね。影響は受けてます。
糸井
すごいことですよね。
だから、その電車には乗れているっていうだけでも、
もう、大きく違うわけですから。
宮澤
でも、私はその電車には乗りたくないですねぇ。
糸井
(笑)

(つづきます)

協力:NHKオンデマンド ORICON NEWS
写真:仁科勝介

2022-12-30-FRI

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