![](/n/s/wp-content/uploads/2023/02/657f8156b6f036aae24494e52611faf2.png)
音楽プロデューサーでベーシストの
亀田誠治さん、ふたたび登場!
子供時代の話を教えてくださった前回につづき、
今回は糸井重里との対談という形で
「チーム論」をテーマに話してくださいました。
いいチーム、いい仕事はどうやって生まれる?
俺についてこい、ではなく、
献身的なメダカのような動き方で、
さまざまなプロジェクトを進めてきた亀田さん。
近年は「日比谷音楽祭」のリーダーとして、
より大勢の人を引っ張っていく役割もされています。
いろんな紆余曲折も、亀田さんが話すと
一気に明るく聞こえてくるから不思議です。
考えを真似したくなるところもたくさん。
全11回、どうぞおたのしみください。
亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、
GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、
Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、[Alexandros]、
FANTASTICS from EXILE TRIBE など、
数多くのアーティストのプロデュース、
アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。
他、舞台音楽やブロードウェイミュージカル
「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを担当。
近年では、J-POPの魅力を解説する
音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」
シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫3世代が
ジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント
「日比谷音楽祭」の実行委員長、さらに
「日比谷野音100周年記念事業」の
実行委員長も務めるなど、
様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。
日比谷音楽祭2023は6/3(土)、6/4(日)に開催。
- 糸井
- チームでなにかをつくりあげるって、
やっぱり一筋縄ではいかなくて。 - 2021年に作られた、『Get Back』という
ビートルズの長いドキュメンタリー作品が
あるんですけど。
- 亀田
- あ、僕も観ました。
- 糸井
- あの作品、僕は監督がすごいなと思ったんですけど、
時系列でカレンダーを見せながら
進んでいきますよね。
つまり、あの偉大なる4人が
「締め切りに合わせてる物語」なんですよ。 - すでに世界でいちばんのアーティストで、
自分たちのやりたいことを邪魔するものは
なにもない立場のビートルズが、
「でも締め切りは守る」っていう(笑)。 - だからあの4人が、締め切りを守るために
「だったらこうすればいいじゃない」
とかをやってて。 - その姿を見ると
「自分なんかが昔、締め切りを破ったことを
笑い話にしてたのは、生意気だったな」
と思うというか。
- 亀田
- でも糸井さんのお仕事にも、
きっといろんな締め切りがありますよね?
いくつものプロジェクトが進んでたり、
書きものがあったり、
チェックしなければいけないものがあったり。 - それで締め切り on 締め切り on 締め切り on 締め切り
‥‥みたいなことが重なってくるときには、
どういう気持ちになりますか?
- 糸井
- そこはやっぱり経験を積んでるから、
締め切りを重ねないようにはしますね。 - つまり
「やれる分量をトゥーマッチにしない」
っていうのは、けっこう重要。
- 亀田
- アイテテテテ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 亀田さんは、僕よりお若いから(笑)。
- でもトゥーマッチにしてなくても、
やらなきゃいけないことって、
見えない次元で山ほどありますから。
具体的な締め切りとして引かれてなくても、
「これやってなきゃ間に合うわけないよ」
もあるし。 - 同時に、200点とりたいわけですから。
「締め切りを破ってでも絶対いいものにしたい」
ぐらいに思っているものもあるし。
- 亀田
- うんうんうん。
- 糸井
- 僕がかつていちばん迷惑をかけた時代には、
ゲーム制作の締め切りをどんどん伸ばすのが、
ひとつの名物みたいになってて。
「4年出なかった」とか。
- 亀田
- へえぇ。
- 糸井
- それ、やっぱり時代なんですよね。
90年代とか。
許してくれる状況に甘えてたと思うんですけど。
- 亀田
- まあ、スティーリー・ダン(Steely Dan)も、
アルバム1枚をつくるのに20年かけてますからね。
- 糸井
- 僕もそういうのは、なくはないです。
特にゲーム制作のときはいちばんあって。
こういうことを一種のおもしろ話として
できていた時代もあったんです。 - だけどそれより前の時代に、
世界のビートルズが締め切りを守ってる
物語を見ちゃうと
「あのときの自分たちって
やっぱり浮かれてたんだな」と思いますね。
- 亀田
- ああー。
- 糸井
- でも、その浮かれてる時期に
ゲームのなかにいっぱい入れ込んだ、
いろんな要素は、
いまでも「あの部分が好きです」と言われたり、
よく残ってたりするんですけど。 - だからそれが一概に悪いとは言わないけど、
昔の自分に対して
「お前が締め切りを守らないで笑ってるのは
10年早いよ」とは思いますね。 - 「そうか、お前、いいな。いいのつくってるんだ。
ふーん‥‥ビートルズの話知ってる?」って(笑)。
- 亀田
- ははは。
- 糸井
- 『Get Back』では
「一気に片付けるため、屋上で
セッションをやって一発録りをするんだ」
みたいなシーンもありましたけど、
あれ、何回もやって、
いちばんいいトラックを録ってますよね。
- 亀田
- そうですね。何回もやってましたね。
- 糸井
- あのビートルズにしたって、ああいう
地道な努力をやってるわけですよね。
- 亀田
- そう。
- あの‥‥いまの「地道な努力」って言葉、
響いたんですけれど。 - いまって20、30年前と比べると、
音楽のつくり方がまったく変わっているんです。
もうテープなんか回ってないし、
大方の音色は──もちろん生の楽器にしか
出せないものもあるんだけども──
基本的にコンピューターのなかに揃っている。 - だけど昔、それこそ僕が林檎さんと
出会った頃というのは、
全部自分で音もつくってたし、何から何まで。
- 糸井
- もっと大変だった。
- 亀田
- はい。大変だけど、やってました。
- でもそのかわり、曲の細部のほんとに
細かいところまで関わることができたんですね。
「それによってなにか新しいものが生まれてた
部分はあるんじゃないのかな」
と、このごろ感じることがあって。 - いまの自分はもう58歳で、技術的なことはある程度、
音をつくるエンジニア、プログラマーに任せるんですよ。
全部自分の手を入れるわけではなく、
チームを信頼してつくっていく形に切り替わってきてて。 - で、いまの自分がそうやってつくっているものって、
25年前の自分がつくっていた、
まさしく「源泉かけ流し」のような音楽の
お湯の味や感覚と比べて、
「どれだけよくなっているんだろうか」
「どんな違いがあるんだろうか」
そういうことは、いつも心の中をかすめますね。
- 糸井
- いいですねぇ。
- それ、きっとユートピアがあるとしたら、
その都度「今回はどっちでやる?」って
決められるんでしょうね。
- 亀田
- うんうん。
- 糸井
- そっちに近づいているような気はするんですよ。
- つまり「このくらい時間をかけないと
商品にならないですよ」ってことについて、
「じゃあしょうがないな」もあります。
だけど
「いや、これはとても大事なことだから、
ここは別で稼いでおいて、ちゃんと5年かけます」
みたいなことをやれたら、
きっと良いに決まっているので。
- 亀田
- ああ、これはちょっといま、すごい気づきになりました。
- でも、似てることはちょっとやりはじめていて。
- 日比谷音楽祭とかもそうなんですけど、
さまざまな場所にいるプロフェッショナルの方々と、
ずっとやりとりしていると、
やっぱり多岐に枝分かれしてしまって、
「あれ、源泉かけ流しってどこだったっけ?」
みたいなことになりがちなんです。 - だからこのごろはほんとに
ポイントとなる部分に関しては、あえて、
「ここはもう時間をかけさせてくれ」
みたいなことをするようにしているんです。 - たとえばひとりでじっくり取り組みたい
作品づくりは、
もう「オフ」という名のもとにおいて、
自分のアトリエで音楽をつくる期間を
一週間とかとらせてもらってて。 - このごろそういうなんか、
時代がアップデートして、めちゃくちゃ便利で
風通しのよくなった部分もあるけれども、
そこで置いていかれてしまっていた
自分のスタンダードの源泉かけ流しの部分を、
あらためて取り戻す作業をはじめているんです。
- 糸井
- よくわかるわー、それ。
「時代だからこの方向に行くんだよ」
だけじゃなくて、
「もう一方あっていいじゃない」っていう。 - 運慶・快慶だって結局、いろんな仏像を
分業でつくってたわけですよね。
でも「これは俺がつくりたいんだ」は
あったと思うんでよす。
そういうものをやることで、
きっと分業にもいい影響があるし。 - 逆に人を連れてきて
「ここはあいつに任せたほうがいい」
「ひとりでやるつもりだったけど、
ちょっと意見聞かせて」もあっただろうし。 - 世の中の流れというものはあるけれど、
やっぱりそれと関係なく、
「今回はどうするのが幸せか」で
毎回つくりかたを選んだほうがいいというか。 - そのなかで、関わるメンバーも
「これは自分がやりたいから
お金をもらえなくてもやるよ」とか
「これは流れ仕事だから、今回は俺参加しない」とか、
ひとつひとつ判断して。 - そういうことをできる時代が、
もう、はじまっている気がするんですよね。
(つづきます)
2023-03-06-MON
-
こちらの記事は「ほぼ日の學校」で、
映像版をごらんいただけます。「ほぼ日の學校」の授業ページはこちら
僕と音楽。 〜幼少期から「FM亀田」まで〜