俳優の神木隆之介さんは、
2023年前期のNHKの連続テレビ小説
「らんまん」で
牧野富太郎さんをモデルにした
「槙野万太郎」を演じることになりました。
そしてほぼ日は、ここ数年、
牧野さんの植物図をデザインした
ほぼ日手帳を作っています。
これを縁に、牧野さんの展覧会を開いていた
渋谷PARCO「ほぼ日曜日」の会場へ、
神木さんにお越しいただきました。
糸井重里との対談です。
写真|齊藤幸子
神木 隆之介(かみき りゅうのすけ)
1993年、埼玉県生まれ。
映画「桐島、部活やめるってよ」 「バクマン。」
「3月のライオン」「フォルトゥナの瞳」
「君の名は。」(声の出演)、
ドラマ「SPECシリーズ」
「いだてん~東京オリムピック噺~」
「コントが始まる」など、
幼少期から現在まで数多くの名作に出演。
2023年にはNHKの連続テレビ小説
「らんまん」で主演をつとめるほか、
主演映画「大名倒産」が6月23日公開予定。
著作に、神木式高知ガイドブック
『かみきこうち』や
インタビュー集『神木隆之介のMaster’s Cafe 達人たちの夢の叶えかた』などがある。
*
神木さんのほぼ日初登場は2004年、
11歳のときのことでした。
- 糸井
- 「らんまん」のモデルになった牧野富太郎先生は、
行動範囲の中で、新しい植物と
絶えず出会いたくて生きていたわけですから、
「おお、そこにいたのか!」
みたいな日々を過ごしていたんですね。
- 神木
- そうです、そうです。
「誰だ?」「名前は?」って聞いても、
相手は草花なので、答えられないんです。
- 糸井
- うん、うん。
- 神木
- だから、その草花がいったいなんなのか、
自分で調べなくてはいけないんですね。
牧野博士にとって草花は、
大事な人たちと同じか、
それ以上にも感じていたことでしょう。
親しみある大事な人が、
調べないと名前もわからない。
そこに魅力を感じておられたんじゃないか
とも思います。
- 糸井
- 草花と出会いながら、
世界を切り開いていくような日々を
すごしたんでしょうね。
- 神木
- きっとそうでしょうね、
ひとつひとつの草花に、
物語がちゃんとありますから。
いまは携帯でいろんなことを
すぐに調べられますけれども、
当時はそんなことなくて。
- 糸井
- 誰か、仲間はいたのかな。
師と仰ぐ先生はいたんですよね。
- 神木
- いらっしゃったと思います。
- 糸井
- でも、その先生と
たえず一緒にいるわけじゃないから。
- 神木
- おそらくほぼおひとりで、
信念を作ったのかな、と思います。
そのぶん失敗もすごく多かったでしょうし。
- 糸井
- そうでしょうね。
- 神木
- ぼくの勝手なイメージなんですけども、
歴史に残るような人物は、
発明家でもスポーツの選手でも、
何か偉業を成し遂げたからこそ
教科書に載ったりして、
みんなに名前を憶えられます。
記録や発見が表に出たときに、ぼくらは
「すごいな」と思います。
でも、そこにたどりつくまでの
壮絶なストーリーは見えていません。
彼らはいろんな失敗や経験があってようやく、
奇跡的にそこにたどりついたはずです。
けれどもぼくら観客にとっては‥‥。
- 糸井
- 一瞬のことですよね。
- 神木
- そうなんです。
一瞬で、
「すごいな」という4文字だけで、
終わっていきます。
- 糸井
- うん、そうですね。
- 神木
- なかには、
ドキュメンタリー番組でとりあげられて
壮絶なストーリーが解き明かされることもあります。
でも、すべての偉人がドキュメンタリーで
追いかけられるわけでもないので、
ぼくは表の情報だけで
ものごとを判断することになります。
いまの時代は情報も多いから、
嘘も真実もまじってきます。
切り取る部分によっては、
どんな方向にも伝わります。
しかし、今回のモデルとなった
牧野富太郎先生は違うんです。
あくまでモデルであっても、
ぼくはこんなにも長く演るのです。
こんな機会、これまでなかったんです。
- 糸井
- そうか、ここまで長いのははじめて?
- 神木
- はい。年齢のほうは17あたりからはじまって、
まだ終わりは決まっていないですが、
そうとう長い年月分の役を演ると思います。
撮影期間がこれほどまでに長いのもはじめてです。
しかもドラマなので、
本人の感情が揺れ動くシーンを
ぼくはかなり体験します。
- 糸井
- つまり、ひとりの人物の味わい方として、
とても稀有なことですね。
- 神木
- そうなんです。
人って、こんなにもうまくいかないのか、
なんてことも感じたり。
- 糸井
- うん、うん。
- 神木
- 博士がやってきた植物の研究も、
失敗が大半です。
その失敗で学んで、次に活かして、
そこでまた失敗して、新しいことを学んで、
次に活かして、活かして、活かして。
研究分野だけでなく、
どの世界でも同じなのかもしれないけど、
そうしてやっとのことで自分の望みが叶い、
成功にたどりつくんだなぁ、ということを、
この役を通じて、思いっきり味わっています。
- 糸井
- もう、牧野先生はほんとうに、
たいした人生ですから。
- 神木
- ええ、ええ、そうなんです。
- 糸井
- きっとまわりに
いろんな迷惑も心配も
かけたことでしょうけれども、
「じゃあ自分で、やってみろよ」と言われても、
やれるものではありません。
- 神木
- まったく、そうですね。
- 糸井
- 役者が役を演るということは、
なぞって生きるわけだから、
いろんなものが心に残りますね。
- 神木
- 残りますね。残ります。
印象にも残るし、感情も残ってしまいます。
もちろんどの役であっても、
実際にその環境に身を置いたご本人と比べれば、
経験としては薄いです。
でもだからこそ、そこを役者は
想像力で補い、表現しなきゃいけないので、
ただの「第三者」というわけには
いかなくなるんです。
しかも、実際に撮影も大変で、
追いこまれていくこともしばしばです。
(明日につづきます)
2023-04-02-SUN
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NHKの連続テレビ小説
「らんまん」の舞台となった高知の魅力を、
神木隆之介さんが体験して案内する
ビジュアルガイドブックです。
伝統や環境を大切にしながら
高知の文化や産業を継承していく人びととの対話や
カツオの藁焼き体験案内など、
旅に出て真似したくなる、
高知の魅力が満載の一冊です。