写真家・幡野広志さんの本『ラブレター』が、
作家・浅生鴨さんが所属する「ネコノス」から、
7月28日に出版されます。
この刊行にタイミングを合わせて
渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」では、
「幡野広志のことばと写真展 family」を開催。
新刊『ラブレター』の写真と文章を、
会場にたくさん展示します。
ラブレター。
‥‥書いたことはありますか?
もらったことは?
そもそも、どういう手紙がラブレターなの?
そういうことをテーマにしたトークショーを、
「生活のたのしみ展2022」の会場で開きました。
鴨さんと幡野さん、ふたりのおしゃべりを、
ほぼそのままお届けします。
「ほぼ日曜日」で展示する、
「うれしかった手紙」の募集も行います。
ふるってのご参加、お待ちしています!
浅生鴨(あそうかも)
作家、広告プランナー。
1971年 神戸市生まれ。
IT、イベント、広告、デザイン、
放送など様々な業種を経て、NHKで番組を制作。
在局中は「NHK_PR1号」として広報ツイートを担当。
2014年、NHK退職後は作家として活動。
著作は、
『あざらしのひと』(ネコノス)
『雑文御免』(ネコノス)
『うっかり失敬』(ネコノス)
『だから僕は、ググらない。』(大和出版)
『伴走者』(講談社)
『猫たちの色メガネ』(KADOKAWA)
『アグニオン』(新潮社)
『中の人などいない』(新潮社)
『すべては一度きり』(左右社)
『ねこかもいぬかも』(ネコノス)など多数。
幡野広志(はたのひろし)
写真家。
1983年、東京生まれ。
2004年、日本写真芸術専門学校中退。
2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事。
2011年、独立し結婚。
2016年に長男が誕生。
2017年、多発性骨髄腫を発病し現在に至る。
著作・写真集に、
『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。
#なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)
『なんで僕に聞くんだろう』(幻冬舎)
『ぼくたちが選べなかったことを、
選びなおすために。』(ポプラ社)
『ぼくが子どものころ、
ほしかった親になる。』(PHP研究所)
『写真集』(ほぼ日)などがある。
2022年7月、
単行本『ラブレター』(ネコノス)を出版予定。
- 浅生
- (客席に)
こんにちはー。
- 幡野
- こんにちは、
よろしくお願いします。
- 浅生
- 「生活のたのしみ展」の会場です。
- 幡野
- 3年ぶりなんですよね。
みなさんたのしそうです。
- 浅生
- みなさん、どうですか?
たのしんでますか、生活を。
- 幡野
- 生活を(笑)。
- 浅生
- 幡野さん、
今日は生活をたのしみましたか。
- 幡野
- けっこう買い物しました。
レジで「4万4千円」と言われました。
- 浅生
- あ(笑)、だいぶたのしんでますね。
- 幡野
- 嘘でしょって思いました(笑)。
- 浅生
- みなさんも幡野さんに負けずに
たのしんでください。 - えーと、
遠くから来た方いらっしゃいますか?
私はかなり遠いぞ、
負けないぞっていう方?
(客席で手が挙がる)
- 浅生
- あ、どこですか。
- お客様
- 熊本。
- 浅生
- 熊本!
- 客席
- おおー。(拍手)
- 幡野
- これは圧倒的に勝ちでしょう、もう。
- 浅生
- 圧勝ですね、きっと。
熊本より遠いとなると、もう海外。
熊本もすでに海外ですけど。
- 幡野
- すごいなぁ、熊本かぁ。
- 浅生
- 「生活のたのしみ展」のために
来たんですか?
- お客様
- はーい。
- 幡野
- すごいですねー。
- 浅生
- さあ、えーと、
じゃあトークをしましょうかね。
えーと、このトークイベントはですね、
何かと言いますと、
『ラブレター』という本を
幡野さんがお書きになったというか、
連載をされてたものがありまして、
それが一冊の本に。
- 幡野
- そうなんです。
- 浅生
- なぜかぼくが所属している
「ネコノス」という出版社から
出すことになりまして、
それのですね、まあ、なんていうか、
PRをしに来た?
- 幡野
- これはPRなんですかね?
- 浅生
- どうなんでしょうね?
- 幡野
- そういうことになりますかね。
- 浅生
- とにかく、もう、みなさんに
知ってもらいたいなと。
- 幡野
- それはPRですね(笑)。
- 浅生
- そうですね。
で、ここに束見本(つかみほん)が
ありまして‥‥。
- 幡野
- 束見本というのは、
こういう仕様の本になるという
途中の試作みたいなものですね。
- 浅生
- はい。
今回は2パターン作っています。
特装版と、通常版。
まあ、ぼくがなぜか
編集をやることになりまして、
ぼくが関わって作ると、
だいたい無茶なものを作りがちで、
今回もデザイナーさんといっしょに
無茶なものを。 - 幡野:
無茶を(笑)。
- 浅生
- とくにこの特装版は、
『ラブレター』っていう
手紙の本を作るんだから
「手紙」にしたいなと思って、
これ、表紙が封筒になってるんです。
その封筒にタイトルを書いた紙とか、
幡野さんの生写真が入ります。
‥‥幡野さんの生写真って。
- 幡野
- ぼくの生写真(笑)。
- 浅生
- 幡野さんが写ってるわけじゃないです。
- 幡野
- ちがいます、
ぼくが写ってる写真じゃない(笑)。
- 浅生
- そうそう、幡野さんが撮影した作品の
オリジナルプリントが入ってます。 - 幡野さんの生写真って(笑)。
- 幡野
- 要らないでしょう(笑)。
- 浅生
- という特装版です。
機械が使えないので、
表紙はぜんぶ手で折って作ります。
表紙の封筒に紙や写真を入れるのは、
ぼくらが製本所に行って
自分たちでやらなくちゃならない。
なのであんまりたくさん作れません。
限定で、受注生産にして、
最初に申し込みいただいた方にだけ、
作ってお渡ししようと思ってます。
- 幡野
- ありがとうございます。
- 浅生
- そしてこっちが
通常版です。
これは日本中の本屋さんに並ぶ本です。
でもこっちも凝ってます。
「仮フランス装」といって、
なんていうかな、
表紙の紙を、こう折り曲げて、
こう、この状態で、なんかね、
なんていうのかな、こう‥‥
まあ、つまり、
すごいかわいくてきれいです。
- 幡野
- はい(笑)。
- 浅生
- っていうようなものを今作ってます。
- 幡野
- 写真もけっこう多めですよね。
- 浅生
- そうです。
フルカラーで、
なかなか見応え、読み応えがある、
これは写真エッセイ?
- 幡野
- なんていうんでしょうね?
- 浅生
- エッセイでもないか。
もちろん随筆、小説でもないし‥‥。
ほんとうにこれは「手紙」ですね。
- 幡野
- 手紙ですね。
手紙って、
写真をわりと入れますからね。
- 浅生
- うん。写真と手紙が
ひとつになったものを本にしてると。
- 幡野
- ええ。
- 浅生
- そもそもどうしてこういう
手紙の連載をはじめたんですか?
- 幡野
- えっ、急にその質問。
なんでだろう?
えー、なんでだろう(笑)。
- 浅生
- 2018年にはじまった連載ですね。
- 幡野
- 病気がきっかけで、子どもには、
手紙をけっこう残してるんですけど、
妻に対しても
やっぱり残してあげたいなと思って。 - 書いてはいたんですよ、病室とかで。
それをもうちょっと
たくさん書こうかなっていうような、
そんな感覚ではじめたんだと思います。
- 浅生
- これ、載ってるのが
子育てサイトじゃないですか。
- 幡野
- そうですね。
- 浅生
- あんまり子育ての話してないですよね。
幡野さんのものの考え方だったり、
暮らし方だったり。
- 幡野
- はいはい。
- 浅生
- 人とどう付き合うかみたいなことも。
幡野さんの中に長年あったものが、
ある種、手紙っていう形で
奥さんに向けられてるのかな、
と思うんですけど。
- 幡野
- そうですね。
ちょっと意識してるのは、
うちの妻って、なんだろう‥‥
要領が悪いっていうか、
不器用なところがあるんですよ。
「もうすこしこうした方が
すんなりいくのにな」って、
見てて思うときがあって。
なんか、ふと思うんですよ、
ぼくがいなくなった後に
ちょっと困ったり
するんじゃないかなって。
できれば、
なにか残しておいてあげたいな
とは思いながら書いてますね。
- 浅生
- 連載のタイトル、
『ラブレター』じゃないですか。
- 幡野
- もうほんとうに、
『ラブレター』なんて
タイトルにするんじゃなかったって。
- 浅生
- 自分でつけたんですか?
- 幡野
- そんなわけないじゃないですか(笑)。
- 浅生
- 編集者がつけた。
- 幡野
- 編集の方がつけたんですけど、
ぼくも「いいですよ」って
言っちゃって。
なんとか変えられないかなと
思ったんですけど、
まあ、もういいかなと(笑)。
- 浅生
- (笑)
- 幡野
- 鴨さんは奥さんに書いたことは?
- 浅生
- 書いたことありますよ。
- 幡野
- じゃあ、それもラブレターですね。
- 浅生
- そうか。
あのー、でも、
ラブレターって一般的には、
「好きです、付き合ってください」
というものだと思われています。
- 幡野
- ああー。
- 浅生
- 告白の第一通目みたいな。
- 幡野
- 第一手、恋愛の第一手。
- 浅生
- そう思っている人が多いです。
- 幡野
- それはぜったいしない方がいいと
ぼくは思ってます(笑)。
- 浅生
- それはなぜ?
- 幡野
- だって、ハイリスクじゃないですか。
「だめです」ってなったとき、
相手にはラブレターが
残っちゃうわけですよね。
- 浅生
- 物証がね、物的証拠が。
- 幡野
- そう。
そんなの、なんだろう、
アルバイト落ちた先の
履歴書みたいなもんですよ。
- 浅生
- すごい個人情報が。
- 幡野
- そもそもラブレターを出して
付き合えるんだったら、
ラブレター出さなくても
付き合えますよね?
- 浅生
- うん。
- 幡野
- 「付き合おう」で済んじゃいますよね。
- 浅生
- うん。
- 幡野
- だから、ラブレターで
「好きです、付き合いましょう」は、
ぼくはやったことないです。
- 浅生
- そういうラブレターは出したことない?
- 幡野
- ないです。
ラブレターは、
関係性が構築されてる人間に
出した方がいいと思ってるタイプです。
- 浅生
- 見知らぬ人にいきなり、
「読んでください」っていうのは‥‥。
- 幡野
- ‥‥そういう方、多いんですかね?
- 浅生
- どうなんでしょう。
(客席に)
みなさん、どうですか?
告白のラブレター出したことある
っていう人は?
‥‥ひとりもいない。
- 幡野
- 「あります」って言える人、
いないんじゃないですか(笑)。
- 浅生
- (客席に)
じゃあ告白のラブレターを
もらったことある人は?
‥‥え? それもいないの??
- 幡野
- ということはもう、
そういう告白のラブレターって
世の中に存在しないんじゃないですか?
- 浅生
- いや、ぼく、もらったことあるから。
- 幡野
- あるんだ(笑)。
- 浅生
- うん。
- そうかあ、
これは郵便の危機ですね。
- 幡野
- でもたぶん、
告白の手紙じゃなくて、
付き合ってる人とか
結婚相手とかには
出したことあるんじゃないかな。
- 浅生
- そうだと思います。
幡野さんの連載も家族への手紙です。
- 幡野
- はい。
- 浅生
- 今ここで話している
「ラブレター」というのは、
告白の手紙ではなくて、
家族だったり、パートナーだったり、
まあ、犬猫に出すことは
あんまりないと思うんですけど、
とにかく知ってる人というか、
大事に思ってる人に出す手紙。
- 幡野
- そうですね。
- ぼく、初めて妻に
ラブレターを出したのは、
結婚してからなんですよ。
大阪で仕事をしてたときです。
2か月くらいかな、ホテルに泊まって。
それがすごい大変で、
もう早朝から夜中まで
撮影するような毎日になってて。
たまに電話を妻にするんですけど、
疲れてるから、
喧嘩をすごいしちゃうんです。
- 浅生
- ああ、荒れてるんですね。
- 幡野
- そうそう。
これはよくないなと思って、
電話じゃなくて
手紙のやりとりに変えたんです。
コンビニでレターセット買って、
便箋に書いて、
コンビニで写真もプリントして
同封して送って。
数日後に届くわけじゃないですか。
- 浅生
- はい。
- 幡野
- 妻がそれを読んで、
また書いて送ってくれるんです。
お菓子とかと一緒に。
そうすると、
喧嘩をしなくなったんですね。
- 浅生
- ああ‥‥。
- 幡野
- 手紙で喧嘩って、
やりようがないじゃないですか。
- 浅生
- すごいですよね、
手紙で喧嘩できたら。
- 幡野
- 手紙で喧嘩はもう離婚です(笑)。
- 浅生
- そうかもしれない。
- 幡野
- 電話だと喧嘩になる。
メッセージやLINEみたいなものでも、
やっぱりちょっと
イライラしちゃったりするんだけど、
直筆の手紙にすると、
喧嘩しないことに気づいたんです。
- 浅生
- 時間のクッションがあるし、
自分が書いたものを
読み直すっていうのも大きいと思う。
- 幡野
- そうそう。
暴言は書けなくなるし、
むしろ感謝の言葉とか
優しい言葉になっていくんですよ。
- 浅生
- そういう手紙でいうと、
ぼくはしばらく海外にいたとき、
母親に手紙を何度か書いてました。
- 幡野
- へえー。
- 浅生
- その手紙の端っこに
ちょっと絵を描いたりしてたんですよ。
- 幡野
- ああ、いいっすねえ。
- 浅生
- まったくぼく、覚えてないんですけど、
母親はそれを持ってて、
「あんた、こんなの送ってきたのよ」
って言われて、
「わあ、しまったあ」と(笑)。
- 幡野
- はははは。
- 浅生
- 余計なものを残してしまいました。
- 幡野
- でも、告白の手紙にくらべたら。
- 浅生
- そりゃあ、ましです。
- 幡野
- お母さんはそれうれしかったと思う。
結局、手紙って、
もらったら宝物になりますよね。
父の日だったかな、
ぼくの似顔絵といっしょに
すごい汚い字で
「いつもありがとう」
って子どもが書いてくれた手紙は、
やっぱり宝物になってます。
- 浅生
- 会話ではちょっと言えないことも、
手紙では言えるというか、
書けるというか。
- 幡野
- ああ、そうですね。
- 浅生
- 逆に、ずっと残ると思うと、
書けないこともいっぱい。
- 幡野
- そう、逆も。
悪口とか、イライラして
つい発してしまう一言とか、
それがなくなるのはやっぱりいいです。
- 浅生
- もちろんね、
マンガや映画なんかで出てくる
「好きでした!」っていうラブレターも
あるとは思うんだけど、
今ここで話しているのはそれじゃない。
- 幡野
- ラブレターっていうのは、
関係を構築してから、
それをよくするための
ものなんじゃないかなって
ぼくは思うんです。
- 浅生
- そういう手紙は、ぜんぶラブレター。
- 幡野
- そうですね。
2022-07-07-THU
-
「うれしかった手紙」を募集します。
▲3才の姪っ子からもらった感謝のお手紙(乗組員トミタ)
「ほぼ日曜日」で開催する、
「幡野広志のことばと写真展 family」の会場に、
いろいろな方々の、
「もらってうれしかった手紙」を展示したいと考えています。お子さんからの手紙、お母さんからの手紙、
パートナーからの手紙、お友だちからの葉書などなど‥‥
うれしかった手紙は、ぜんぶ「ラブレター」。うれしかったその気持を、
よろしかったらみんなにシェアさせてください。「うれしかった手紙」をお送りくださる方は、
下の〈ご注意〉を必ずお読みいただいてから、
『うれしかった手紙を送る』ボタンより、
フォームにお進みください。〈ご注意〉
・いちばん大切なご注意。
会場に展示され、たくさんの人が読む可能性があります。
必ず、手紙を書いた人からの許可を得てください。
ご家族や親しい方でも、必ずです。・書いた方がお亡くなりになっている場合は、
一番近いご親戚に許可をいただいてください。・手紙の内容を、ウェブやSNSで
公開する可能性があります。
許可を得る際には、このこともお伝えください。
名前、住所、電話番号など、
個人情報が書かれている部分はこちらで消して展示します。
(消してほしい箇所がある場合はお伝えください)・実物のお手紙ではなく、画像をお送りください。
スマホやデジカメで撮ったり、
スキャンしたデジタルデータの画像のみを受付けます。
すべてのお手紙を展示できるとは限りません。
幡野さんとほぼ日で選出いたします。
あらかじめご理解ください。