2020年の年末、ほぼ日は
神田の町に引っ越してきました。
はじめてのこの町をもっと知りたいし、
もっと知ってほしいと思っています。
そこで、日本全国のすべての市町村を回った
若き写真家、かつおさんこと仁科勝介さんに
神田の町を撮ってもらうことにしました。
自由にやってください、かつおさん。
かつお|仁科勝介(にしなかつすけ)
写真家。1996年岡山県生まれ。
広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2020年の8月には旅の記録をまとめた本、
『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)を出版。
写真館勤務を経て2020年9月に独立。
2021年10月から2022年8月にかけて、
東京23区の490ある全て駅を巡る
プロジェクト「23区駅一周の旅」を完遂。
そこで撮影した、東京のささやかな日々を
まとめた写真集『どこで暮らしても』を
2022年11月に自費出版。
2023年春から新プロジェクト始動予定。
#045
『校舎の屋上でハチミツを(後編)』
明治大学の大森ゼミでは、
大森教授、ゼミ生さんや養蜂家の藤原さん、
えみふるさんなど地域のみなさんと一緒に、
西洋ミツバチを飼育している。
「蜂=怖い」というイメージは、ここには存在しておらず、
ぶんぶんと人間に目もくれず働く西洋ミツバチの姿を
見ると、可愛く、賢く、力強い。
学ぶべきことがたくさんあることに気づく。
西洋ミツバチの活動範囲は、3〜4km圏内と言われている。
神田猿楽町からコンパスを回すと、
皇居や小石川植物園、上野公園まで及ぶ。
東京の中心部でも十分な自然に囲まれている神田猿楽町は、
西洋ミツバチにとって絶好の活動場所なのだ。
働き蜂たちはサクラやトチノキ、
季節ごとに咲く花々から花蜜を集める旅に出る。
ちなみに西洋ミツバチの寿命はわずか1ヶ月で、
蜜を集める仕事を担うタイミングは、
寿命が途絶える前の約一週間ほど。
命を捧げて、外の世界に飛び出していることを
忘れずにいたい。
また、蜂たちが人間にもたらす恩恵は
ハチミツだけではない。ハチミツは人間にとって
「おすそわけしていただいている」ものだけれど、
「受粉」という役割では、
もっと大きな「いただきもの」をもらっている。
わたしたちが日常的に食べている作物の多くは、
蜂が受粉を媒介しており、蜂が世の中にいなければ
「世界規模の食糧難が発生する」
と言われているほどなのだ。
さて、いよいよ大切なハチミツを、
採りすぎないように気をつけつつ、
おすそわけしていただく。
「蜜蓋」と呼ばれる、ハチミツの蓋の蝋を丁寧に切り取り、
遠心分離機に巣板を入れて、手動でぐるぐると回していく。
「先生、回していいですかー!」
「いいよー!」
ここではえみふるの職員さんも慣れた手つきで、
ぐるぐる、ぐるぐる回していく。
そして回し終わったら、
遠心分離器の底にある蜜用の栓にカゴをセットして、
「いくよー!」と号令をかければ…。
「ぬわあ!」
艶やかな採れたてのハチミツが、
ほろほろと溢れ出してきた。
広がっていくハチミツの甘い海は
太平洋のように無限に感じられ、
先頭を進むハチミツの波はうつくしい丸みを帯び、
キラキラと光を浴びるように泳いでいる。
なんて贅沢な、なんて幸せな瞬間なのだろう。
「採れたてのハチミツは格別だよ」と、
みんなで試食タイムがはじまった。
「えっ、いいんですか!」
まずは大森先生が一口ぱくり。
うんうん、と頷く。
「おぉ〜。前回よりさっぱりで、重厚な感じだなあ」
そう、ハチミツの味は、
働き蜂たちが採集してきた花蜜の種類によって、
毎回変わるのだ。
すなわち自然そのままに、
咲いている季節の花々によって味が変わる。
一人の学生さんは
「4月の終わりの方が後味に花の香りがありました」
と話してくれたけれど、あとからメールをいただいて、
「今回の方が実際は『クセが強いかもしれない』
という話になりまして」と味修正の感想までいただいた。
それぐらい繊細に、ハチミツの味は違うのだ。
僕は口にして、「甘い!最高!」の二言だったけれど、
それは考えが甘すぎだ。
採集されたハチミツは、
無添加・非加熱の純粋な
ハチミツ「MEIDAI ECO HONEY」として、
近隣のお店で販売されたり、
メニューに使用されていたりする。
神田での取扱店はすでに9店舗になる。
ミツバチは活動自体が生物多様性を支えているけれど、
地域交流やあたらしいコミュニティの創造にも、
一役買っているのだ。
商品や養蜂活動の情報は
「MEIDAI-ECOHONEY’S STORE」の販売サイトや、
「明治大学 大森ゼミ」のツイッターをチェックしよう。
ミツバチたちはここが東京の真ん中でありながらも、
わたしたちに自然の恵みを教えてくれる。
ミツバチたちが集めたハチミツは、
自然そのままの味だ。自然の理に適っているのだ。
だからほんとうにおいしいし、
原産地「千代田区」という表記には、かっこいい夢がある。
2021-07-15-THU