始発に乗って、未明の神田駅に降りた。
ドキドキしていた。
今年最後の満月だったから。

路地を抜けて空を見上げると、
どの街灯よりも遠いのに
パッと満月がきらめいていた。
「今年最小の満月です」
とニュースは言っていたけれど、
あれはフェイクニュースじゃないかな。
そう思いたくなるぐらい、
威厳のこもった輝きだった。

神田川に架かる御茶ノ水橋を目指す。
あの辺りならもっと広々と月が見えるだろう。
誰もいない信号待ちで、
白い吐息をふーっとさせて遊んだ。

御茶ノ水橋に着くと、
西の方角にはっきりと満月が見えた。
まんまるお月様が、
地上を分け隔てなく照らしている。
「今年最後かあ」と、精一杯感慨にふけった。

そのまま神田川に視線を向けたときだった。
満月の光がゆらゆらと水面に浮かんでいた。
電車がやって来ると、
同じく月影のそばを電車が駆け抜けた。
その刹那に心を揺さぶられた。

写真中央のぼんやりした光が、
神田川に浮かぶ満月だ。
分かりづらいけれど、
この瞬間がどんな様子だったか、
十年後も説明できると思う。
年末最後の満月で、神田川に浮かんでいて、
電車が通ったのだと。

満月に別れを告げる頃には、
橙色のグラデーションが東の空を昇っていた。
水平線は見えないが、
朝を迎え入れる一体感があった。

今年最後の満月をもう一度見た。
君はもうすぐ消えてしまうけれど、
それは、はじまりでもあるんだね。