
突然大きな音が鳴ったり、
緊張すると痛くなったり、
日常にありがちな「おなか」のトラブルですが、
そのとき私たちの体内では
どんなことが起こっているんだろう?
そんな疑問を抱いていた乗組員が、
ほぼ日コンテンツでも
なにかとお世話になっている
「けいゆう先生」こと、消化器外科医の
山本健人先生に聞いてみることにしました。
さすがのけいゆう先生、
素朴な「なぜ?」を正面から受け止めて、
とってもわかりやすく解説してくれたんです。
けいゆう先生(山本健人さん)
博士(医学)。外科医専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「けいゆう先生」として情報を発信しているX(旧twitter)が人気を博す。著書に『すばらしい人体』『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)など多数。
- ──
- まずは基本的な「消化」のしくみを
教えていただきたいです。
初歩的な質問で申し訳ないですが、
口から食べものを入れて外に出るまでを
解説していただいてもいいでしょうか。
- けいゆう
- はい。まず、食べものを口の中に入れて
噛みますよね、
これを咀嚼と言います。
咀嚼しているときに唾液と混ざるんですが、
唾液の中にも消化酵素と言って、
消化に関わる酵素がいくつかあります。
ですので、もう口の中から
消化は始まっていると言っていいです。
- ──
- 消化が始まっている。
だから、よく噛むのが大事なんですか?
- けいゆう
- そうですね。
よく噛むと、でんぷんが消化されて
だんだん柔らかくなっていきます。
糖質を消化するのって、
口の中だけではないんですが、
ある程度は口の中で消化できます。
次に食道に流れ込むんですが、
食道は物が流れ込むと蠕動(ぜんどう)運動といって、
下に送り出す動きをするんですね。
送り出す先は胃の中です。
胃の中で胃酸などのさまざまな消化液が出て、
そこでも食べたものを分解する酵素が出てくるので、
胃でもまた消化が起きます。
- ──
- 胃酸で溶かしているということなんですね。
それって胃酸ごと次の腸などに運ばれるんですか?
- けいゆう
- もちろん胃酸ごと下に流れます。
- ──
- 胃酸って溶かす作用があると思うんですけど、
そのまま流れちゃっても大丈夫なんですか。
- けいゆう
- もともと胃酸って、
㏗という酸度の指標が1くらいあって、
まあ、要は塩酸だと言われているんですね。
だからもしそのまま飲み込んだら、
当然、粘膜がすごく傷みます。
ですから胃の中って、
胃の表面は粘膜で非常にガードされていて、
酸で直接胃の壁が溶けないようになっていますし、
アルカリ性を保って、
うまく中和されるようになっています。
なので、胃の中で胃酸が出ても、
そこで胃の壁に悪い影響を与えたりはせず、
ちゃんと食べものに対して
分解する働きだけを持っています。 - で、食べものと混ざったら、
当然ながらその酸度は薄まって、
中性に近い形で下に送り出されると
考えていいと思うんですね。
- ──
- ちゃんと中和されているんですね。
胃のことでうかがいたいんですが、
油っぽいものを食べると
胃もたれすることがありますけど、
それはどういう現象なんですか。
- けいゆう
- おそらくいろんな理由があると思いますが、
たとえば、一つは、消化の問題です。
脂肪分を多く含む食べものを食べた後、
それを分解するために必要な消化液というものが
他にもあります。
ちょっと説明不足でしたけど、
食べものって
糖質、タンパク質、脂質、
というふうに大きく分けられますよね。
それぞれを溶かすための専用の酵素、
つまり消化液を私たちは持っているんです。
- ──
- そうなんですか!
- けいゆう
- はい。それぞれに特化したものが
いろんなところで作られているんです。
たとえば脂肪分だったら、
肝臓で作られた胆汁という液体が
胆嚢(たんのう)というため池みたいな袋に
一時的にたまります。
で、それが送り出されて、胃に流れ込んで、
胃である程度、消化が起きて、
という流れになります。 - そのとき、脂肪分、つまりあぶらものを
あまりたくさん食べ過ぎると、
十分に消化し切れずに下に流れていってしまうので、
下痢をしたり、おなかが痛くなったり、
脂肪便といって便に脂肪が混じるような
でかたをすることがあります。 - それから、中高年の方なんかは、
胆石をもともと持っている方がいて、
胆嚢に石があると、あぶらっこいものを食べると
胆嚢ががんばって収縮して、
それで胆嚢が痛くなるんですよ。
「右のわき腹が痛くなる」という人がそうですね。
- ──
- あぶらっぽいものを食べると。
- けいゆう
- はい。胆石って多くの人が知らないうちに
持っているケースがかなりあります。
その胆石がときどき痛みの原因になるんです。
- ──
- じゃあ、あぶらっぽいものを食べた後に、
右側のわき腹のあたりが痛くなる人は要注意ですね。 - それで、そのように胃で消化が起きた後に、
次に行くのが腸ですね。
- けいゆう
- まずは小腸ですね。大体6メートルほどあります。
- ──
- え! そんなに長いんですか。
小さい腸と書くのに、
6メートルもあるんですね。
- けいゆう
- そうですね。
小腸は管で、大腸に比べると細いので、
だからこその「小」なんでしょうね。
大腸のほうが短いですけどね。
大腸は1.5から2メートルぐらいです。
- ──
- だいぶ小腸のほうが長いですね。
- けいゆう
- そうなんですよ。
- ──
- ちなみにこの人体模型でいうと‥‥小腸は?
- けいゆう
- 小腸はこれですね。
おなかの空間の中の大部分を占めているんです。
6メートルもあるわけですから。
そしてこれが大腸。
本当はこんな色をしてないんですけど、
もうちょっとピンク色ですね。
つまりはるかに小腸のほうが長いですよね。
ここで栄養素を吸収するんです。
△小さい腸と書くのに大部分を占めている!
- ──
- 小腸が長いのは吸収を長くするためですか?
- けいゆう
- そうです。
小腸に入り込む前にいろんな栄養分が、
それぞれに特化した消化液、
消化酵素によって分解されているわけですが、
それが小腸を流れているあいだに、
少しずつ吸収されていくわけです。
残りが大腸に入って、これはいわば排泄物ですから、
大腸で水分が吸収されて便が作られる、
そういう仕組みですね。
- ──
- 分解と吸収って、
同時に行われているのかと思っていました。
- けいゆう
- 分解して粉々にして、
吸収しやすい形にしてから吸収します。
そこのプロセスは2段階なんです。
(つづきます)
2025-03-19-WED