突然大きな音が鳴ったり、
緊張すると痛くなったり、
日常にありがちな「おなか」のトラブルですが、
そのとき私たちの体内では
どんなことが起こっているんだろう?
そんな疑問を抱いていた乗組員が、
ほぼ日コンテンツでも
なにかとお世話になっている
けいゆう先生」こと、消化器外科医の
山本健人先生に聞いてみることにしました。
さすがのけいゆう先生、
素朴な「なぜ?」を正面から受け止めて、
とってもわかりやすく解説してくれたんです。

>けいゆう先生プロフィール

けいゆう先生(山本健人さん)

博士(医学)。外科医専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「けいゆう先生」として情報を発信しているX(旧twitter)が人気を博す。著書に『すばらしい人体』『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)など多数。

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3消化液はどこでつくられるの?

──
先ほどいろんな消化液があるとうかがいましたが、
消化液が作られている部位も
それぞれに違うんですか?
けいゆう
そうですね。
唾液ももちろん消化液ですし、
それから、胃で作られる胃液とか、
肝臓で作られる胆汁、
膵臓で作られる膵液とか、
腸で作られる腸液とか
こういった消化液と混ざることによって
分解されるんですね。
ちはみに膵臓は、胃の裏側なので
これを外さないと見えないんです。
人体模型の一部を外す)
──
どうぞ外していただいて。
けいゆう
外してもいいですか。
ここにありますね、ちゃんと。
この模型、細かいですねぇ(笑)。
──
笑)

けいゆう
胃の裏側、ここに薄ピンクの臓器がありますが、
これが膵臓です。
──
横断している感じですね。
けいゆう
そうです、そうです。
おなかの中に横たわってるんです、膵臓って。
みんな意外と膵臓の場所を知らないんですよ。

△指さしている先の、薄ピンク色の臓器が膵臓です △指さしている先の、薄ピンク色の臓器が膵臓です

──
膵臓の場所を意識したことが
ありませんでした。
けいゆう
表面から見ると見えないんですね。
胃の後ろなので。
──
そうか、膵臓も肝臓も
消化液を作るから、
なんとなく胃の近くにいるんですね。
けいゆう
そうですね。
管がつながっています。
基本的には胃の次に行くのが十二指腸という
小腸の一部みたいな部分なんですけど、
十二指腸に入って、
その十二指腸に流れ込んだ食べものに
消化液が混ざる仕組みなので、
肝臓からの消化液も膵臓からの消化液も
十二指腸に流れ出すんです。
ここが非常に重要な消化の場なんです。
──
そのとき、ちなみに何性の液体になっているんですか。
けいゆう
うーん、何性なんでしょうね(笑)。
それぞれの消化液に
pHの数値があるんですけど、
全部覚えてないです。
胃液が1ぐらいというのは有名で、
強酸ですけど、
それより下流のところは、
やや弱酸性‥‥というか、ほぼ中性に近いでしょうね。
──
胃酸がそんなに強い酸だと思いませんでした。
体の中にそんなものを
抱えているとは、驚きですね。
けいゆう
そうですね。
──
あの、少し脱線するんですが、
腸内フローラという言葉を聞いたことがあるんです。
腸には細菌がいっぱいいるという話で。
けいゆう
そうですね。
腸内細菌がたくさん共生していますね。
──
それって小腸にも大腸にもいるんですか。
けいゆう
いますね。でも、腸内フローラの話を
するときは、基本的に大腸の話ですね。
細菌って全身にいるんです。
私たちって細菌と共生しているとよく言われますけど、
特に大腸はものすごい数の細菌がいると
言われています。
──
ちなみにその細菌ってどこから来るんですか。
けいゆう
基本的には、口から飲み込んでいるんでしょうね。
もう世の中のあらゆるものは細菌ですから。
──
食べもののパッケージなどによく
乳酸菌入り」と書かれていますけど、
そう書かれていない食べものにも
細菌はいるんですか?
けいゆう
もちろんです。
私たちの手に細菌がついていて、
それが口から入ることもあるでしょうし、
お父さんやお母さんからもらうものも
かなり多いでしょうし、
家庭内では同じ細菌を共有していることが
多いと思いますよ。
たとえばコップやお箸などを共有して、
そこから口から入ることもあるでしょうし。
──
じゃあ腸内細菌の種類って、
個人差なんかもあるんですか。
けいゆう
そうなんです。
本当におびただしい種類の細菌がいますけど、
その分布は個人差があって、
詳細はまだわかっていないんです。
でも、それが病気の発生のしやすさにも
関わっているという説が最近ありますよね。
私は専門じゃないので、
詳しくはわからないんですけど、
専門家が研究してますよね。
──
それだけ奥が深いんですね。
けいゆう
ええ。
──
あの‥‥細菌が口から入っても、
胃を通ってから腸に行くので、
胃酸で細菌が死んじゃうんじゃないかと
ちょっと思うんですけど。
けいゆう
それ、重要な質問です。
胃酸があることの理由は、
さきほど、いろんな食べものを細かく分解すると
言いましたけど、
もう一つ、殺菌という作用もあります。
要するに外界には、こういう机の上とかコップにも、
見えない細菌がいっぱいいますから、
口の中に入ったときには、
ある程度、殺菌したほうがいいわけですよ。
病気を防ぐために。

けいゆう
ですから、胃酸の酸が強いことは、
殺菌にも役立っているわけですね。
外から入った有害な細菌は、
ある程度殺菌されていると考えていいですが、
ただ、大腸には大腸の細菌が住んでいます。
善玉、悪玉などと言われるように、
そこには、うまく臓器の機能を維持してくれる
いい細菌もいるんですよね。
それはもちろんいてもらったほうがいいですね。
まあ、そこまでいくともう酸性じゃないので、
抗生物質を飲むなどしない限りは、
細菌は死なないですが。
──
あ、そうなんですか。
抗生物質は、いい細菌も攻撃しちゃうんですね。
けいゆう
そうですね。
抗生物質って細菌をやっつける薬なので、
飲み過ぎると、細菌がいっぱい死ぬんです。
細菌によって起こる感染症の治療薬が
抗生物質で、抗菌薬と言います。
当然ながら、私たちがおなかの中で飼っている、
腸に住んでる細菌もやっつけちゃうので、
抗菌薬の副作用には必ず下痢があります。
腸の機能が落ちるので。
──
腸の機能が落ちると下痢になるんですか。
けいゆう
大腸って、水分を吸収して
固形の便にしてるんですよ。
だから、小腸から大腸に流れ込むときって、
ドロドロの下痢便というか、
水便なんですよね。
それが大腸の中で徐々に水分が吸収されて
かたい便になります。
大腸の調子が悪く、水分が十分に
吸収されないときは、下痢になります。
──
なんと、そうなんですね。
下痢になるシステム、初めて知りました。
ちなみに、腸内細菌だけでなく、
他のところにいる細菌も
病気と関係しているんでしょうか。
けいゆう
そうですね。
今すごく研究が進んでいますけど、
かなり多くの病気が細菌と
関連しているんじゃないか、という話もあります。
直近の例でいうと、胃がんの原因の大部分が
ピロリ菌だったという、誰も分からなかったことが分かり、
それでノーベル賞を獲りましたけど、
それが分かったのもほんの最近の話です。
まさか細菌が、っていう。
それこそ子宮頸がんの原因も
ヒトパピローマウイルス(HPV)という
ウイルスの感染が大きな原因に
なっていたということも、最近の研究の一つですよね。
──
たしかに。
がんと細菌が関係していた、と。
けいゆう
結局、私たちって、
身近にたくさんのウイルスや
細菌がいるという状況下で生きているので、
そういったものが体の中に入って、
いろんなところにストレスを
与えているように思うんですね。
病気を引き起こす遠因になっているというか。
病気っていろんな理由が重なって発生しますけど、
その一つがやっぱり外敵からの、
漠然とした言い方をすると、ストレス。
たとえば炎症が起きて、
大腸や胃の粘膜に傷がつく炎症が起きて、
その傷が積み重なる。
傷ができて治って、できて治って、を繰り返すうちに、
がんなどの病気が発生する、というようなことって
起こっていて不思議じゃないんです。
その証拠に、たとえば大腸がんって
日本で多いがんの一つですけど、
小腸がんってほとんどないんです。ものすごく稀です。
お尻から遠いので、外界から遠いんですよね。
なので、小腸と大腸の差って、実はそこにあるんじゃないか
というふうに考えられてますよね。
──
そうか、外敵に触れる機会がより多いほうが
リスクが高い。
けいゆう
と言われています。
ほかにも、喉頭がんとか肺のがんも多いんですが、
これも外から入ってきたものが
直接的にそこに刺激を与える場所ですよね。
その原因になっているのは、
生物ではなくてタバコの有害物質なわけですけど。
結局は、環境からのストレスなんですよね。
まだ分かってないことも、たくさんありますけどね。

つづきます)

2025-03-20-THU

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