突然大きな音が鳴ったり、
緊張すると痛くなったり、
日常にありがちな「おなか」のトラブルですが、
そのとき私たちの体内では
どんなことが起こっているんだろう?
そんな疑問を抱いていた乗組員が、
ほぼ日コンテンツでも
なにかとお世話になっている
けいゆう先生」こと、消化器外科医の
山本健人先生に聞いてみることにしました。
さすがのけいゆう先生、
素朴な「なぜ?」を正面から受け止めて、
とってもわかりやすく解説してくれたんです。

>けいゆう先生プロフィール

けいゆう先生(山本健人さん)

博士(医学)。外科医専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「けいゆう先生」として情報を発信しているX(旧twitter)が人気を博す。著書に『すばらしい人体』『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)など多数。

前へ目次ページへ次へ

──
先生の著書『すばらしい人体』を
読ませていただいて、
消化に関する話でびっくりしたのが、
肛門が実はすごい、というお話です。
ちょっとうかがってもいいですか。
けいゆう
はい。肛門の話は、本を出してから
いろんなところで話しています。
おもしろいから話してください」
って言われて(笑)。

──
まさにその一人です(笑)。
けいゆう
肛門ってすごく高性能なんですけど、
なぜかみんな、その性能の高さに
気づいてない臓器の一つだと思っているんですよ。
まず一つは、下りてきたものが
固体か気体か液体かを識別できるのがすごい、
ということです。
──
その時点でもうすごく高度ですよね。
けいゆう
そう、すごいセンサーですよね。
ですから、当然ながら排便行為というのは、
必要なときにしかるべき場所に行って
しないといけないので、
これは、ここで出してはいけないものだ」
ということを肛門がちゃんと
気づいてくれないといけない。
気体だったら、まあ出してもいいかもしれないけど、
固体や液体を出されるとまずい。
だから、トイレに行かないといけない。
そこの識別ってめちゃくちゃ大事だし、
人間の尊厳に関わる部分ですよね。
社会生活を送る上で非常に大切なことなので、
これを自動でやってくれるのがすごいところの一つ。
この話をすると必ず、
たまに間違えますよね」という話があります。
おなかの調子が悪いとき、
固体と液体、間違えますよね」とか。
まあ、そのぐらいのミスは愛嬌ですけど、
それでもかなり正確に分かるのがすごいわけです。
──
そうですね。
けいゆう
もう一つは、排便です。
食べたものが大腸に送られて、
直腸に便がたまっていくわけです。
直腸というのは肛門のすぐ上の、
大腸の出口付近にあります。
この人体模型ですと、
骨盤の中にあるので見えないんですけど、
直腸にある程度たまったら、
出さないといけないよ」って
腸が教えてくれます、センサーで。
もうそろそろ容量いっぱいですよ」って。
そのとき、肛門の筋肉のうち、
内側の筋肉は自動で動く筋肉で
自分の意思では動かないので、
出さないといけないタイミングになると、
その内側の筋肉が開こうとするんですね。
ところが、人間って社会生活を送る上で、
自分でその出すタイミングを
コントロールできないとまずいわけです。
車の運転中に出たらまずいし、
今出てもまずいし(笑)。
──
大変まずいですね(笑)。
けいゆう
ですから、内側の筋肉が広がろうとするときに、
外側の筋肉、これは自分の意思で
動かせる筋肉なので、
これで締めることができるんです。
2段構えなんです。
ですから、内側オート、
外側マニュアルという認識でいいんですけど、
オートとマニュアルの2段階で、
普段は意識せずに止めてくれる。
でも、出てはいけないときには
自分の意識で止める。
その2段構えがすごいと思うんです。
──
なんてすばらしい。
言われるまで気づきませんでした。
けいゆう
そうですよね。

けいゆう
普段は自動じゃないと困りますよね。
こうやって喋ってるときにも、
たとえば朝ごはんとかが
もうこのあたりに来てるはずだけど、
それを止めながらは喋れませんよね。
つまり社会生活は、
全部マニュアルだと無理なんです、
なので、オートとマニュアルが要るんですよ。
──
確かに。
すごくよくできてますね。
けいゆう
そういうことなんです。
──
ちょっと先生の専門外に
なってしまうかもしれないですけど、
動物はどうなんでしょう。
社会性という面では
あまり気にすることはないと思うんですけど。
けいゆう
おそらく、動物も排泄行為に関しては、
縄張りを示すなどの何がしかの
意味合いを持っているはずなので、
彼らもコントロールしているはずです。
人間は、どこでも排せつできない社会を
作ってしまったので、
より厳しさが求められますよね。
動物はもうちょっと自由度が高い。
だけど、いろんなところで垂れ流すのは多分、
動物の生存にとってはよくないんですよ。
人間の赤ちゃんは我慢せずに出ちゃいますよね。
自分の意思でコントロールする
外側の筋肉が未熟だし、
もちろん知能も未熟なので。
動物も、だからそういう意味では
コントロールしてるはずなんです、本能的に。
──
そうですねぇ。
じゃあ、その精度が
ちょっと人間は高いかもしれない。
けいゆう
高くないといけないように
しちゃったんでしょうね。
生物的には生きにくいですよね。
もうちょっと楽にどこでも出せるほうが
多分、楽ですよね、生物としては。
──
ここにエネルギーを使わなければ、
ほかに回せたかもしれない。
けいゆう
そう考えると、すごいですよね。
──
すごいですね。
そういうふうに社会性によって
変わってきた部位って
ほかにもありますか。
けいゆう
要は人間って、ほかの動物よりも
複雑な社会を築き上げて、
それが生存に必須なものになりましたよね。
人間って、人間よりもはるかに大きな
哺乳類に比べると弱いんですが、
だけど、社会を築くことによって
生き延びる術を手に入れたので、
その分、この社会でなければ病気とは
呼ばれなかった病気というのは、
多分いろいろあるんだろうなと思います。
精神科の先生とも話すんですが、
社会が複雑化したために、
治療しないといけなくなるような病気については、
最近かなり研究が進み、分類も複雑化しています。
この社会があるがゆえに、医療が関わらないと
いけなくなった部分なのかな、と思いますね。
──
そうですね。
深いテーマですね。
けいゆう
ええ。
──
その話も詳しくうかがいたいところですが‥‥。
けいゆう
今日はおなかの話ですもんね(笑)。

つづきます)

2025-03-22-SAT

前へ目次ページへ次へ