現代美術作家の加賀美健さんと、
とりとめもなく、おしゃべりしました。
はたらくことや仕事の話、
アートについての加賀美さんの考え、
突然のようにはじまった
「死ぬ」についての、あれやこれや。
あったはずの「理由」や「目的」は
途中でどっかに置き忘れ、
勝手気儘なインタビューとなりました。
じつに楽しかったので、
全6回にわけて、おとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>加賀美健さんプロフィール

加賀美健 プロフィール画像

加賀美健(かがみけん)

現代美術作家。1974年、東京都生まれ。社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。2010年に、代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品である)ストレンジストアをオープン。 instagram:@kenkagami

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第1回 はたらきたくない。

──
加賀美さんといえば‥‥なんですが。
加賀美
ええ。
──
ぼくたち、2013年に
「はたらきたい展」という展覧会を
渋谷パルコで
やらせてもらったんです。
はたらくとか仕事がテーマの展覧会。
加賀美
はい。
──
連日、遅くまで準備をして、
朝から晩までヘトヘトになったりして、
そんなのがピークに差し掛かったころ、
家に帰ったら、妻が
胸に「はたらきたくない」って書いた
Tシャツを着てたんですよ。
加賀美
ははは。
──
モコモコしていて憎めないフォントで。
かわいいでしょとか言って。
加賀美
それ、ぼくがつくったTシャツですね。
──
はい、なのでこの話をしています。
いつか、お伝えしたいと思ってました。
ぼくらが「はたらきたいはたらきたい」
ってあんな言ってんのに、
「はたらきたくない」ってTシャツで
よろこばれてる人がいる。衝撃でした。
加賀美
そうでしたか。それは。
──
あれは‥‥どういったお気持ちで。
加賀美
どういう(笑)、なんか、そのとき何歳、
今46なんで7年前だから、
お店はじめて、2~3年くらいですかね。
──
お店というのは、この場所、
代官山の「ストレンジストア」ですね。
ここ、もう10年とかになるんですね。
加賀美
不定休でぜんぜん開けてないんですけど、
それでも開けると、
お客さん、若い子が多いじゃないですか。
こういう店って、来るの若い人なんです。

──
そうなんでしょうね。
加賀美
自分より歳の下の子たちと話をしてると、
おもしろいんですけど、
基本はやっぱ、
「好きなことしたい」って言うんですよ。
──
アート系の若い人とか多そうですし。
加賀美
そうそう、美大生も来ます。来ますけど、
おじさんみたいな人も来ます。
と思ってたら、中学生とかも来たり。
──
ストレンジストア、というか加賀美さん、
年齢層、幅広いなあ。
加賀美
でね、そんななかで、
ちょっと進路に悩んでるっぽい子とかが、
アーティストを目指したいとか、
アートで食うには
どうしたらいいんですかとか聞いてくる。
──
進路相談。レジ前で。店主に。
加賀美
とくに言えることもないんですけど、
ひとつには、
「好きなことしたい」って言うけど、
「はたらかなきゃ
生活をやってけないんじゃないの?」
という話になるんです。
──
ええ、ええ。もっともですよね。
加賀美
でも、そう言うと、だいたいの場合
「いや、でも、はたらいたら、
好きなアートをやる時間がなくなる」
とか、返してくるんですよ。
はたらきたくないのかなあと思って、
若い子たちって。
──
0か1かみたいな感じで、
切実に考えちゃうんでしょうけどね。
自分も若いころは、
そんなことばっかり言ってたような。
好きって何なのかわからないまま。
加賀美
そう、だから、それはいいんですよ。
自分だって昔は‥‥今でさえ、
はたらくって大変だなっていうのが
ありますからね。
──
ですよね。誰しも、多少なりとも。
加賀美
でもそのとき、そうか若いころって、
はたらく‥‥ということが、
こんなにも遠くにあったんだなあと。
こりゃあ、おもしろいなあと思って、
それで。
──
ええ。
加賀美
実際、はたらいていないと着れない、
そういうTシャツをつくったんです。

──
あっ‥‥!
加賀美
そうそう。
──
そうか‥‥はたらいてない人が着てたら。
加賀美
ダサいだけでしょ。
将来を夢見て一生懸命はたらく若者でも、
毎日、まじめに出勤してるおじさんでも、
誰でもいいんだけど
「実際にはたらいている人」が着るから
おもしろいわけであって。
──
自分は、ちゃんと、はたらいているのか。
そこが問われている。Tシャツによって。
加賀美
だから、じつは、あんがい、
コンセプチュアルなTシャツなんですよ。
──
そうだったんだ‥‥誤解してました。
すみません、7年間も誤解しっぱなしで。
加賀美
ちーゃんとはたらいている人が着てこそ、
いいと思うんです、あれって。
若い子ってね、好きなことはしたいけど
バイトはしたくないとか、
そういうことを言いがちじゃないですか。
──
がちです。
加賀美
そういう子は、ちょっと着れないよって。
そういうTシャツなんです。
──
深い。深かった。すいません、何だか。
加賀美
ただ、友だちがこれ着て会社に行ったら、
すげえ怒られたって言ってました。
上司の人に「ふざけんな」つって(笑)。
──
なるほど(笑)。
だったら、あのTシャツを着ていても、
何も言われない人になれってことですね。
加賀美
そうです。
ようするに「はたらきたくない」なんて
Tシャツを着ていても、
ちゃんとはたらいてると思われていたら、
怒られないと思うんですよ。
──
ああ、「はたらきたくないT」シャツで、
「営業成績、断トツトップです」とか。
加賀美
最高じゃないですか。
むしろ「あいつは、はたらき者だ」とか。
──
「めっちゃ重たいもの運んでる!」
「あんなTシャツ着てるのに!」‥‥とか。
加賀美
カッコいいですよね。そういう人いたら。

(つづきます)

2020-12-26-SAT

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  • 2020年6月にウェブ上で開催された
    「はたらきたい展。2」では、
    読者から集まった
    「はたらくことについての質問」
    に、33人の著名人が答えてくれました。
    その問答を1冊にまとめた本
    「はたらきたい展。公式図録」特装版が、
    ほぼ日ストアで数量限定発売中です。
    また、加賀美健さんによる
    「はたらきたくない」関連グッズは
    パルコのウェブストアで。どっちもぜひ。

     

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