現代美術作家の加賀美健さんと、
とりとめもなく、おしゃべりしました。
はたらくことや仕事の話、
アートについての加賀美さんの考え、
突然のようにはじまった
「死ぬ」についての、あれやこれや。
あったはずの「理由」や「目的」は
途中でどっかに置き忘れ、
勝手気儘なインタビューとなりました。
じつに楽しかったので、
全6回にわけて、おとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。
加賀美健(かがみけん)
現代美術作家。1974年、東京都生まれ。社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。2010年に、代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品である)ストレンジストアをオープン。 instagram:@kenkagami
- ──
- あの、加賀美さんご自身としては、
「はたらく」とか、
いまのご自身のお仕事については、
どう思ってらっしゃるんですか。
- 加賀美
- はたらくこと‥‥難しいですよね。
はたらく。どういうことなのかな。 - でも、はたらかなかったら、
お金を稼ぐことができないわけで。
お金がないと
ゴハン食べれないじゃないですか。
- ──
- いかにも、そうです。
- 加賀美
- となると、自分にも家族がいるし、
養っていけなくなっちゃいますね。 - だから当たり前‥‥なんですかね。
自分にとって、はたらくって。
- ──
- 当たり前‥‥の、こと。
- 加賀美
- 生きていかなければならないので。
- ──
- じゃ、はたらこう食っていこうと
思ったときに選んだ仕事が、
アートだった‥‥ってことですか。
- 加賀美
- 手に職を持ってるわけでもないし、
ぼく、あたまの中なんで、ぜんぶ。 - あたまの中しか、なかったんです。
- ──
- 「仕事場」が。
- 加賀美
- そうです。あたまのなかで
どう仕事をしようかって思ったら、
アートしかなかったんです。 - で、あたまのなかで考えたものを、
かたちにしなきゃ‥‥って。
そういうことをずっと続けてきて、
気づいたら、いつの間にか
仕事になってたって感じですかね。
- ──
- すごくやりたいことがあって、
でも、それを仕事にできない人も、
たくさんいると思うんですよ。 - バンドやってましたけど、
いまは会社ではたらいてますとか。
- 加賀美
- ええ。
- ──
- 加賀美さんの場合、
はたらく、ということについては
自然に受け入れながら、
でも「自分のやりたいこと」は、
ガンとしてゆずらなかった‥‥と。
- 加賀美
- いや、もちろんね、
長い間アルバイトやってましたよ。 - でも、それが好きなことだったら、
バイトの合間にやるんですよ。
- ──
- お金になろうが、なるまいが。
- 加賀美
- そうですね。そんなこと関係なく。
- だから、ぼくの場合も、
バイトしながら
好きなことを続けていたら、
あるとき、たまたま仕事になって、
それがポツポツ続くようになって、
「じゃあ、オレはこれで稼ぐぜ!」
というよりは、
そんなことをただ繰り返してたら、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、
お金になるようになったというか。
- ──
- はあ‥‥いや、でも、すごいなあ。
- いまのを逆方向から言えば、
アルバイトをしながら生活をして、
好きだから辞めずに続けていたら、
いつの間にか、
好きなアートの方で稼げるように
なっていったってことですもんね。
- 加賀美
- まあ、そういう意味では
ラッキーだったのかもしれません。 - その代わり、
けっこう時間がかかりましたけど。
- ──
- ああ、そうですか。
- 加賀美
- ふつうの人の1年が
アーティストの10年なんだぞと、
おどかされたんです、昔。 - つまり、世間に認知されるまでに、
むちゃくちゃ時間がかかるって。
実際、まあ、そうだとは思います。
- ──
- 加賀美さんって、文化服装学院の
スタイリスト科のご出身ですよね。 - たしか、フォトグラファーの
伊藤大作さんなんかともご同窓で。
- 加賀美
- そうです、そうです。一緒でした。
- ──
- スタイリストになりたかったって
ことなわけですか。 - 少なくとも学校に入った時点では。
- 加賀美
- そうです。学校を出てからも、
馬場さんの弟子にしていただいて。
- ──
- 馬場圭介さん、有名スタイリスト。
- 加賀美
- 6年くらい、お世話になりました。
- ──
- えっ、そんなにですか。
- 加賀美
- だから、そこまでやってたら、
ふつうはスタイリストになるのに、
ならなかったんですよ、ぼく。
- ──
- 代わりに、アーティストになった。
- 加賀美
- いまも洋服は好きだし、
アパレルやファッションの仕事も、
やってるんですけど。
- ──
- 有名ブランドとコラボしたりとか。
それなのに、
スタイリストには、ならなかった。 - アシスタントを6年もやったら、
ふつうはなれるし、なりますよね。
- 加賀美
- はい。何も6年もやらなくたって、
2~3年でなってますよ、みんな。
- ──
- 加賀美さんの世代って、
スタリスト全盛期みたいな時代で、
ファッション誌では、
加賀美さんと同世代くらいの
スタイリストさんが
大きく特集を組まれたりとか、
していたと思うんですよ。
- 加賀美
- はい。ドンズバです。あの時代です。
- ──
- そこでスタイリストになっていれば、
また別の現在があったのかも。
- 加賀美
- 今ごろ
サングラスかけてたかもしれないです。 - ゲレンデヴァーゲン乗ってたり(笑)。
- ──
- 原宿の路地裏を、でっかいジープで。
- 加賀美
- それがチャリ移動ですからね。
- ──
- サングラスもナシで。
- でも、アートへ向かったきっかけは、
どういうことだったんですか。
- 加賀美
- ぼくは、美大も何も出てないですし、
スタート地点が
ゼロというか、マイナスなんですよ。 - だから、もう最初は、大好きだった
タカ・イシイギャラリーという
現代美術を扱う有名なギャラリーに、
いきなり作品を持ってったんですね。
- ──
- 作品。
- 加賀美
- そしたら、オーナーの石井さんが、
気に入ってくれたんです。 - それが、いちばんのきっかけです。
- ──
- その「作品」というのは‥‥。
- 加賀美
- 最初はドローイングでした。
ミルクマン、って言うんですけど。
- ──
- あ、あのバナナの刺さった白い人。
- 加賀美
- そうです。
(つづきます)
2020-12-27-SUN
-
2020年6月にウェブ上で開催された
「はたらきたい展。2」では、
読者から集まった
「はたらくことについての質問」
に、33人の著名人が答えてくれました。
その問答を1冊にまとめた本
「はたらきたい展。公式図録」特装版が、
ほぼ日ストアで数量限定発売中です。
また、加賀美健さんによる
「はたらきたくない」関連グッズは
パルコのウェブストアで。どっちもぜひ。