現代美術作家の加賀美健さんと、
とりとめもなく、おしゃべりしました。
はたらくことや仕事の話、
アートについての加賀美さんの考え、
突然のようにはじまった
「死ぬ」についての、あれやこれや。
あったはずの「理由」や「目的」は
途中でどっかに置き忘れ、
勝手気儘なインタビューとなりました。
じつに楽しかったので、
全6回にわけて、おとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。
加賀美健(かがみけん)
現代美術作家。1974年、東京都生まれ。社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。2010年に、代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品である)ストレンジストアをオープン。 instagram:@kenkagami
- ──
- アーティストになる、
アートを仕事にして生きていくって、
素晴らしいし、憧れますけど、
すぐにはわかってもらえないことも、
あったりするんでしょうね。
- 加賀美
- うちの母ちゃん、
2年ほど前に亡くなったんですけど、
口癖のように
「公務員になりなさい」って(笑)。
- ──
- ああ‥‥(笑)。
- 加賀美
- まったく真逆の人になっちゃったし、
どう思ってたのかなあと思いますね。
- ──
- そのことについては、
聞いたことって、なかったんですか。
- 加賀美
- ないです。
- ──
- 作品を見る機会はあったんですよね。
- 加賀美
- 展覧会に来てくれたときに、
ウ○コとかチ○コとかやってるから、
恥ずかしそうにしてました。 - だけど‥‥看取れなかったんですよ。
- ──
- そうでしたか。
- 加賀美
- 展覧会でブラジルに行ってたんです。
- 2週間くらいだったんですが、
そのあいだに、死んじゃったんです。
- ──
- ご病気?
- 加賀美
- ガンです、肺ガンでした。
結局、肺炎になってしまったんです。 - この仕事を選んでなかったとしたら、
看取れてたのかなあと思ったり。
- ──
- 親がどう思っているかって聞く機会、
まずないですよね。
- 加賀美
- ないですね。
- ──
- ぼくの父も、もういないんですけど、
こんな仕事をしてること自体、
よく知らないまま亡くなってるので、
どう思うだろうなとかは思いますね。
- 加賀美
- 親が死ぬと何かが変わらないですか。
- ──
- 変わりますね。変わりました。
死にたいする気持ちとか、感覚とか。 - それまで自分は「死」というものが
よくわかんなかったし、
漠然と「怖いな」くらいでしたけど。
- 加賀美
- ええ。
- ──
- 父親が死んだら、
「死」というものに親しみが湧いた、
というと言い過ぎですけど、
そこまで怖くなくなった気がします。 - 父親も死んだし大丈夫かなみたいな。
- 加賀美
- それ、ぼくと、まったく一緒ですね。
何なんですかね、親が死ぬと‥‥。 - もちろん、死にたくないんですけど、
親が死んだことによって、
死が身近になった気がするんですよ。
- ──
- あー、たしかに。
- 加賀美
- いつか自分も死ぬんだなってことも、
ハッキリわかったっていうか。
- ──
- お葬式のときに、お坊さんのお話で、
人間って亡くなったら
極楽浄土までだったかな‥‥旅に出る、
とにかく、お父さんも、
これから33年かけて、
どっかまで歩いていくんですよって、
教えてくれたんです。 - それで33回忌というのがあるって。
- 加賀美
- ええ、ええ。
- ──
- うちの父親が亡くなる直前と直後に、
忌野清志郎さんと、
マイケル・ジャクソンも亡くなってるんです。 - だから、その二人の偉大なミュージシャンに
挟まれて歩いている姿を想像したら、
なんか、ちょっと、おもしろくなっちゃたり。
- 加賀美
- マイケル、ムーンウォークだったりして。
- ──
- 33年もですか(笑)。
ムーンウォーク地獄じゃないですか。
- 加賀美
- うちの母ちゃんもね、
公務員になれなれ言ってた割には、
むちゃくちゃな人で。
- ──
- へえ、どんなふうにですか。
- 加賀美
- すごくせっかちな人で、
晩年はパチンコにハマったりしてて、
親父が帰ってきてもいなくて。 - いつも夫婦喧嘩ばかりしてたんです。
ちっちゃいころは、それが嫌で嫌で。
布団のなかにもぐって耳栓していて。
- ──
- そうなんですか。
- 加賀美
- 死ぬ直前まで喧嘩してたんですけど、
そんな人が、
いきなり死んじゃったんですよ。 - で、姉ちゃんが「遺書とかないかな」
なんて言って、
母ちゃんのポーチを探ってたら、
ちっちゃい紙切れが出てきたんです。
- ──
- ほう。
- 加賀美
- 死んだら、骨は海に撒いてくれって。
- 死んだら、お葬式も要らない、
すぐ葬儀屋さん呼んで、すぐ焼いて、
海に撒いてほしい‥‥って。
- ──
- 書かれていた?
- 加賀美
- そう、で、撒きに行ったんですよね。
ぼくら家族で。 - でも、散骨って骨のままだとダメで。
遺灰のような細かい状態にしてあげないと。
- ──
- どうやって、そうするんですか。
- 加賀美
- ちゃんと散骨の業者さんがいるんですよ。
- 遺骨を細かくするところから、
船の手配までやってくれるんですね。
- ──
- へえ‥‥それは、知らなかったです。
- 加賀美
- 最初ぼくらも何も知らなかったんで、
母ちゃんの骨壷を持って、
海に撒きに行こうぜとかやってたら、
骨のかたちが残ったままだし、
このままじゃダメですって言われて。 - で、あらためて業者さんを手配して、
いざ約束の日になったら
何か、天気がめちゃくちゃ大荒れで。
- ──
- なんと。
- 加賀美
- 何日か前、業者さんから
「その日、海が大荒れの予報ですが」
って連絡があったんです。 - でも、はやく成仏させてやりたいし、
いいです行きますって言って。
当日行ってみたら「嵐」のレベルで。
- ──
- お、おお。
- 加賀美
- 約束の港に着いたら、乗組員さんに
「加賀美さん、早く乗ってください」
「一刻を争いますんで」
みたいなことを言われて急かされて、
海は大荒れで、めっちゃ船酔いして。
- ──
- わー。
- 加賀美
- 業者さんのパンフレットなんかには、
たっぷり1時間かけて、
お母さんの思い出を語り合いながら、
ゆっくり海に還してあげて‥‥とか、
書いてあったんですけど。
- ──
- ええ。
- 加賀美
- お花と一緒に遺灰をふわーっと撒く、
とかね、
そんな悠長なことやってられなくて。 - 乗ってる船から海に落ちないように
みんなで手をつなぎ合って、
でっかい怒鳴り声を張り上げながら、
遺灰の入った包み紙を、
フリスビーみたいに、
シャーッと投げ込むのが精一杯で。
- ──
- 荒れくるう海に。
- 加賀美
- 「次! 花! 花!」とか言われて、
花も献花とかの感じじゃなくて、
海に投げ込んで、
最後日本酒をドボドボドボ‥‥って。 - 出港して15分で帰ってきた(笑)。
- ──
- 本来、1時間のところを‥‥。
- 加賀美
- でも、それが、なんかね、
すごく母ちゃんっぽいなあと思って。
せっかちな人だったんで。 - 最後の最後まで母ちゃんらしいねえ、
なんつって、
みんなで笑って帰ってきたんですよ。
- ──
- ああ‥‥。
- 加賀美
- ふつう泣くのに、笑っちゃいました。
コントでしたよ。あれは、ほんと。
- ──
- 笑っちゃ悪いけど笑っちゃいますね。
- ありがとうございます。
あたたかい気持ちになりました。
- 加賀美
- でね、そうやって親が死んでみたら、
あらためて、
やりたいことを、やりたいなあって。
- ──
- 思いましたか。
- 加賀美
- だって、死んだらできないですもん。
やりたいこと、何にも。 - だから、自分の子どもにも、
やりたいことやったほうがいいぞと、
言ってやろうと思ってます。
- ──
- 本当ですね、それは。
- 加賀美
- でも、はたらかないのはダメだぞと。
- ──
- やりたいことは、やらないとダメ。
でも、やりたいことだけでもダメ。
- 加賀美
- やりたいことを仕事にするってのは、
けっこう難しいけど、
でも、やりたいことを見つけて、
それがやれるってことは幸せですよ。
- ──
- それが自分の「仕事」になってるか、
なってないかは別として。
- 加賀美
- そう‥‥やりたいことのあることが、
大切なんだと思います。 - で、やりたいことがあるんだったら、
とにかく、やる。やったほうがいい。
- ──
- はい。
- 加賀美
- あれをやりたかったのになあなんて、
後悔したまんま、
死んでいきたくはないですから。
(おわります。よいお年を!)
2020-12-31-THU
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