現代美術作家の加賀美健さんと、
とりとめもなく、おしゃべりしました。
はたらくことや仕事の話、
アートについての加賀美さんの考え、
突然のようにはじまった
「死ぬ」についての、あれやこれや。
あったはずの「理由」や「目的」は
途中でどっかに置き忘れ、
勝手気儘なインタビューとなりました。
じつに楽しかったので、
全6回にわけて、おとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>加賀美健さんプロフィール

加賀美健 プロフィール画像

加賀美健(かがみけん)

現代美術作家。1974年、東京都生まれ。社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。2010年に、代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品である)ストレンジストアをオープン。 instagram:@kenkagami

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第5回 まずは自己満足じゃないと。

──
台湾のアーティストの
リー・ミンウェイさんという人が、
数年前に、
森美術館で個展をやってたんです。
加賀美
ええ。
──
ミンウェイさんは、氷河期の地殻変動で
7000年もの間、磨かれ続けた石を
拾ってきて、その石と、
寸分たがわぬ見た目のオブジェをつくり、
ふたつセットで売ってるんです。
加賀美
どっちが本物なのか、わかんないですね。
──
そう。そうなんです。
本物というなら「氷河期の石」なんです。
オブジェは、そのレプリカだけど、
アーティストの作品というなら、そっち。
加賀美
ええ。
──
で、その作品を買った人は、どっちかを
「いつか捨てなければならない」んです。
加賀美
ああ、おもしろいですね。
──
7000年間も磨き続けられたとはいえ、
「本物の、ただの石」を捨てるか、
模造品だけど「作家の作品」を捨てるか。
加賀美
あーーーー‥‥。・
──
考えれば考えるほど、わからなくなって。
お金の価値というものを
気持ちよくおちょくってる感じもあって、
アーティストという人は、
おもしろいことを考えるんだなと思って。
加賀美
いやあ、おもしろいです。
──
加賀美さんの「はたらきたくない」にも、
それに似たような気分を感じるんですよ。
加賀美
あ、そうですか?(笑)
──
何かを考えさせてくれるアートなんです。
それでいて
「はたらきたくない」とか言ってるのに、
押し付けがましくないし。
加賀美
ああ、押し付けがましいのは、嫌ですね。
昔から、それは嫌だった。
で、ぼくの作品に、押し付けがましさが
ないとすれば、
たぶん、このマヌケな字のおかげですね。

──
あっ、たしかにそうかも。
加賀美
ずーっと字が下手で嫌だったんですけど、
作品にしてみると、
「これで書かれちゃったら、ま、いいか」
みたいな感じを醸し出すんですよ。
えらい達筆だとか、きれいなフォントで
「はたらきたくない」ってやったら、
メッセージとしては、
たぶん、もっとぜんぜん、「強く」なる。
──
実際、はたらきたくないって思うことも、
加賀美さんには、ありますか。
加賀美
ぼくね、それ、あんまりないんですよね。
会社に行くとかじゃないからもあるけど。
でも、「加賀美さん、何やってんですか」
ってよく言われるんだけど、
自分としては「はたらいてますけど」で。
──
そう見えない?(笑)
加賀美
みたいです。
でも、ぼくみたいな人って、
考えることが、主な仕事になるんですよ。
ネクタイをしめてなくても
スーツ着てなくても、はたらいてんです。
──
尊敬する和田ラヂヲ先生も、
同じようなことをおっしゃっていました。
加賀美
あ、本当ですか。
──
ギャグというか、
くだらないことを考えるのが仕事の9割、
あとの1割で絵を描いている、と。
加賀美
アーティストも、同じだなと思いますよ。
ずっと考えてます。何かしら変なことを。
朝、起きてから、夜、寝るまで。ずっと。
──
はたらきたいとか、
はたらきたくないとか何とかってよりも。
加賀美
うん。
──
今後もずーっと考え続けていくうちには、
アートへの考えだとか、
作風なんかも変わっていくんでしょうか。
加賀美
うーん、見方は変わるかもしれないけど、
今ぼく46でしょ? 
この歳で、
いまだにウ○コとかやってるってことは、
作風については、
もう変わんないんじゃないですか(笑)。

──
急に「ラブ&ピース!」とか言い出したり。
加賀美
ギャグだと思われますよ、それ(笑)。
──
作風がガラッと変わる人っていますよね。
ピカソとか。
加賀美
いますね。
──
あれって、心境の変化とかなんですかね。
加賀美
単に、飽きちゃったとかね。
ただ、見た目はガラッと変わったとしても、
その作品の奥にあるものは、
変わらずその人だってケースもありますし。
──
加賀美さん、飽きなそうですよね。
その目の前の、ウ○コのおもちゃとかに。
加賀美
そうですね、よく聞かれることがあって、
どういう人に向けてつくるんですかって。
ないんですよ、別に。そんなの。
もうね、本当に自分、自分だけなんです。
自分さえおもしろければ大丈夫だし、
それでいいっていう確信があるんですよ。
──
自分で自分をおもしろがれていればOK。
加賀美
そう。自分さえおもしろかったら、いい。
そう言うと怒られたりするんですけどね。
それは自己満足だ‥‥とか。
だけど、まずは自己を満足させなければ、
絶対におもしろくならないと思うんです。
自分がおもしろいと思えたら、
評価されようが、されまいが、問題ない。
──
ピエール・バルーさんが、
まったく同じことをおっしゃってました。
曰く「自分の得た喜びだけを灯りにして
進んでいけば、道に迷うことはない。
きみの人生の唯一の道しるべだから」と。

加賀美
それ以外にないと思います。
ぼくも、インスタグラムに投稿したとき、
「いいね」の数が
多いとか少ないとかあるじゃないですか。
──
ええ。
加賀美
自分で気に入った投稿したときに限って、
「いいね」の数が少ないんです。
それを、わりと自分の軸にしていますね。
──
つまり「いいね」が少ないとマズイぞと。
加賀美
いや、逆です。
「これはおもしろい!」と思った投稿に
「いいね」が増えてきたら、
「いや、待てよ。オレ、大丈夫か?」と。
──
へええ‥‥。
加賀美
昔から「おもしろい」と思ったものには、
「いいね」がつかないんです。
衝動的に「うわーっ!」と思うものって、
「まだ、よくわかんないもの」なんでしょうね。
何て言うか、まわりの人たちにとっては。
──
自分が本当に納得できてるかどうかって、
最終的な拠り所な気がします、ぼくも。
加賀美
自分にしかわからないおもしろさってね、
やっぱりありますからね。
それを忘れずにいたいし、
結果「しーん」みたいになったとしても、
ウケ狙いでやった
つまんないことにくらべたら、
絶対、そっちのほうが納得できるんです。

(つづきます)

2020-12-30-WED

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