現代美術作家の加賀美健さんと、
とりとめもなく、おしゃべりしました。
はたらくことや仕事の話、
アートについての加賀美さんの考え、
突然のようにはじまった
「死ぬ」についての、あれやこれや。
あったはずの「理由」や「目的」は
途中でどっかに置き忘れ、
勝手気儘なインタビューとなりました。
じつに楽しかったので、
全6回にわけて、おとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>加賀美健さんプロフィール

加賀美健 プロフィール画像

加賀美健(かがみけん)

現代美術作家。1974年、東京都生まれ。社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。2010年に、代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品である)ストレンジストアをオープン。 instagram:@kenkagami

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第4回 何がアートか、人それぞれ。

──
これは、俳優の柄本明さんだとか、
美術家の森村泰昌さん、
画家の山口晃さん、
写真家の大森克己さんなんかに
お話をうかがったとき、
すごく思ったことなんですけれど。
加賀美
すごい面々ですね。
──
アートや芸術的表現ってまずは視覚情報、
ビジュアルだと思ってたんですが、
ひとつの演技、
一枚の絵や写真のうしろには、
すごく豊かな言葉があるんだなあ‥‥と。
加賀美
それがないと、おもしろくないですよね。
──
ああ、そう思われますか。
加賀美
言葉のおもしろい人のつくったものって、
おもしろいですから。

──
乙幡啓子さんってものつくり作家さんが、
木彫りの熊の首に
ハイクオリティなベアリングを仕込んで、
シャケを咥えた熊の顔が高速回転する
ベアリングマって、つくってるんですよ。
加賀美
ダジャレ(笑)。
──
獲ったシャケをブン回すヒグマの置物。
加賀美
おもしろいなあ。アピールしてるんだ。
──
その人のつくるものを見ていると、
発想がダジャレなんですよ、だいたい。
加賀美
ぼくも、そんな感じですよ。
──
そう、だから加賀美さんにしても、
乙幡さんにしても、
ダジャレの偉大さよ‥‥と思って。
加賀美
パワーありますよね。突破力というか。
まず覚えてもらいやすいし。
仕事柄、朝起きてから夜寝るまでの間、
くだらないことを、
ずーーーっと考えてるんですけど‥‥。
──
はい、加賀美さんのインスタ見てると、
伝わってきます。
くだらない投稿がバンバンあがってる。
いい意味です。
加賀美
それを「仕事」にしているんですけど、
ダジャレも訓練だと思います。
常日頃から言ってないと、出てこない。
──
いやあ、わかります。
逆に出る人はドバドバ出てきますよね。
アーティストの裏側にある豊かな言葉、
加賀美さんの場合は、
それが「ダジャレ」なんだろうなあと。
加賀美
ははは、そうかもしれないです。

──
何がアートか、人それぞれですよね。
アーティストの数だけアートがある。
加賀美
そうですね。
──
91歳のパンク直しのおじいちゃんを
取材したことがあって、
その人、小学校4年生からやっていて、
その時点で
キャリア「80年」とかだったんです。
加賀美
カッコいいなあ(笑)。
──
お名前が鈴木金太郎さんといって、
その字面と響きもふくめて、
人生そのものがアートだなあ、と。
加賀美
うん、うん(笑)。
──
もちろん、ご自身は、そんなこと
思ってなかったでしょうけど、
インタビューの最後に、
こんなにも長く
自転車のパンクを直してこられて、
金太郎さんはいま、
自転車ってなんだと思いますかと、
聞いてみたんですよ。
加賀美
ええ。
──
そしたら「自転車はワッパだよ」って。
ようするに、
自転車とはタイヤであるというんです。
タイヤがなければ転がんないでしょと。
人間やモノを運べないでしょう‥‥と。
加賀美
いやぁ‥‥そうですよね、ほんとだ。
──
アートというものが、
何か「本質」ってことと関係あるなら、
金太郎さんの「自転車観」は、
まさに本質を鷲掴みにしているなあと。
加賀美
アートですよ、そのおじいちゃん。
美術館に展示されている作品だけが、
アートとは限らないんだよなあ。
──
本当に。
加賀美
なんか、ゴミの落ち方ひとつにしても、
「ああ、すごいな」ってことあるし。
おっさんか誰かが、
そこらへんにポイ捨てしただけなのに、
その「落ち方」に
「ああ、やられた!」みたいなことが、
たまにあるんです。街歩いてると。
──
アートというものの境界線を
自分以外の誰も区切れないとするなら、
アートかどうかを決めるのも‥‥。
加賀美
まずは、自分なんでしょうね。
ぼくはアーティストと名乗ってますし、
だから、
ぼくのつくるものはアートの作品だと、
思われるのかもしれないけど、
知らない人が見たら「何?」ですから。
──
他方で「商品」というものもあります。
加賀美さんも、
作品をもとに商品をつくってますけど、
その境目って何なんでしょうね。
加賀美
むずかしいですよね。
値札が付いているかどうかじゃないし。
──
アートも値段つきますしね。最終的に。
加賀美
この店で、「実家帰れ」のステッカー、
手書きで100円で売ってんですよ。
だけど、同じ「実家帰れ」でも、
「手書きのドローイング作品」ならば
ギャラリーを通したら
たぶん10万円以上とかするわけです。
──
100円のステッカーと、
10万円のドローイング。両方手書き。
加賀美
むずかしく考えることもできますけど、
自分では、
そのあたりのことも、楽しんでますね。
いろんなものを売ってますけど、
お店そのものも作品と思っているんで、
お店そのものも買えるんですよ。

──
えっ、お店ごと? 買える?
加賀美
ええ、言ってもらえれば。
お店のなかの商品だけでなく、
展示しているコレクション類もぜんぶ、
お持ち帰りいただけるんです。
──
そんな店だったんですか(笑)。
加賀美
それくらい、アートって何でもできる。
ストレンジストアというお店の歴史を
売ったり買ったり、できるんです。
──
そう考えると、商習慣とか、
経済の仕組みから外れるようなことは、
商品ではやりにくいけど、
アートなら、何だか、やれそうですね。
加賀美
そうそう。
──
さっき出た、100円のステッカーと
10万円のドローイングの話も、
そろばんの上では納得しづらいけど、
10万円でアートを買った人は、
買ったという行為に、
10万円の価値を感じてるんですよね。
加賀美
そうなんですよ。
この前おもしろいことがあったんです。
うちの娘、9歳なんですけど。
──
ええ。
加賀美
ぼくの家のとなりのとなりの部屋を
制作スタジオとして借りてて、
そこには、仕事の資料がいろいろと、
ウ○コのおもちゃだとか、
そういうものが、
ま、たくさん置いてあるんですけど。
──
好きなものばっかり(笑)。
加賀美
そう、ぼくの好きなものしかないんで、
ぜんぜん飽きない空間なんですけど、
すごく暑かった日に
靴下を脱いで放り投げてたんですよ。
そこらへんの床に‥‥くるくる丸めて。
──
ええ。
加賀美
で、それを見た娘が、言ったんですよ。
「パパ、これ作品?」って。
──
すごい! 
加賀美
びっくりしました。
で、おもしろいなあって。
たぶん、ぼくの仕事をずっと見てて、
自然に、そう思ったんでしょうけど。
──
まさしく
「何がアートかは人それぞれ」だし、
同時に、9歳の娘さんに
「その目が養われている」
ということでもありますよね。はあ。
加賀美
うらやましいなと思いました、それ。
その感覚に、嫉妬したというか。
ジイさんになっても、
あの悔しさを忘れずにいたいなあと。
この仕事をやっている限りは。

(つづきます)

2020-12-29-TUE

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