けんすうさんと糸井重里の初対談です。
ブロックチェーン、AI、NFTなど、
新しい技術に詳しいけんすうさんには、
いまどんな未来が見えているのでしょうか。
インターネット黎明期の話から、
お金の価値、アマチュアリズムなど、
さまざまな話題が飛び出しました。
これからのインターネットが、
なんとなくつかめるかもしれませんよ。
全7回、たっぷりおたのしみください。
本対談は「ほぼ日の學校」でも公開中です。
第4回
ビジネスとアマチュアリズム。
- 糸井
- けんすうさんはいま、
すごいマンガ応援団ですよね。
- けんすう
- ははは、そうですね。
マンガすごい応援してますね。
いま、クリエイター応援を
会社の事業の中心に置いてるんですけど、
やっぱりそこが好きなんですよね。
- 糸井
- すごい熱心ですよね。
- けんすう
- そうですね、はい。
いまインターネットで起こっていることって、
90年代の頃と同じくらい衝撃があって、
その理由のひとつが「生成系AI」の登場で。
- 糸井
- ほう。
- けんすう
- いまってマンガを描きたいけど
絵が上手じゃないみたいな人が、
AIを使ってどんどん作品を描いているんです。
いまはもう「pixiv」のような
イラスト投稿サイトが15年くらいかけて
集めたイラストの数より、
ぜんぜん多くの絵が
AIで作られているという説もあるんだとか。
- 糸井
- はぁぁ‥‥。
- けんすう
- 実際にそういうことが起きると、
みんなの頭の中にあるアイデアを、
文章力とか絵を描く力がない人でも、
じぶんの作品として世に出せる時代が
すぐそこまで来てしまっているわけで、
ここからもっとすごい革命が
起こるんじゃないかなっていう気はします。
- 糸井
- きょうはそのへんの話も聞きたかったんです。
つまり「ぼくは何をもっと知るべきか」っていう。
- けんすう
- ぼくがこうやってお伝えするのも
おこがましい話なんですけど、
いまってインターネットができたときに、
「理想はこうだけどね」って言ってたことが、
実際にできる時代になってたりするんです。
- 糸井
- すごいね。
- けんすう
- なので、糸井さんがどっぷり入ったら、
そこでもう一周できるんじゃないかなって。
そのエネルギーがいま、
インターネットにあるっていうのを、
きょうは伝えたいなと思っていたんです。
- 糸井
- けんすうさんにとっては、
もうひとまわりが見えるんですね。
- けんすう
- そうですね。
いわゆるWeb3といわれるような
ブロックチェーンを基盤にした
サービスづくりの業界にいる人って、
もう90年代にインターネット業界にいた人と
同じような感じなんですよね。
- 糸井
- そこまではわかるんだけど(笑)。
つまり、ぼくはじぶんが遅れてるなあと、
思うときがよくあって。
- けんすう
- ほう。
- 糸井
- 例えば、YouTubeが出てきたときに、
それはいまの時代だったらありうるけど、
ぜんぶ訴えられたら、裁判してるうちに
つぶれるよって思っていたんです。 - コンセプトはおもしろいと思うけれど、
その動画を見てる俺は罪なんだよな
っていう流行り方はできないから、
YouTubeは無理だろうなと。
- けんすう
- あー、なるほど。
- 糸井
- そうしたらそのYouTubeをグーグルが買収して、
法律的な問題はうちがなんとかしますからって、
そういう形で落ち着いたわけですよね。
- けんすう
- ほんとうにそんな感じでしたね。
リアルタイムでその話を
知ってる人と知らない人では、
ぜんぜん感覚が違うと思いますけど。
- 糸井
- あれ、けんすうさんでも、
どうなるんだろうと思ったでしょ?
- けんすう
- 思いましたね。
どう考えてもインフラ費用的にもたないし、
訴訟的にももたないから、
違法動画を見つける仕組みも必要だし、
普通のベンチャーには無理じゃない?と。
それを無限の資金力があるかのような
グーグルが買収して、
ぜんぶ力技でやるとは思わなかったです。
- 糸井
- ですよね。
- けんすう
- すさまじいニュースでした。
- 糸井
- 探せばいくらでも珍しい映像がある、
っていうこともあるんだろうけど、
それ掘り出す人も
ほんとにいるんだろうかとか、
そのお金はどうすんのとか、
ぼくにはまったくわかんなかった。
- けんすう
- わかんなかったですね。
- 糸井
- あの出来事でぼくは、
じぶんがたどり着かない世界に、
もうなってるんだってことがわかっちゃった。
- けんすう
- でも、当時のニューヨーク・タイムズでさえ、
「史上最大の愚かな買収だ」
みたいに書いてましたからね。
どう考えてもありえないと。
- 糸井
- それがありえちゃった(笑)。
- けんすう
- ありえちゃうんですよね。
- 糸井
- このあいだ、
クリエイティブの天才みたいな人と話していて、
言い方は忘れちゃったけど、
最近どんな仕事でも重要なのは
「アマチュアリズム」だって言ってたんです。
- けんすう
- アマチュアリズム。
- 糸井
- きょうここにけんすうさんが来て、
こうやってしゃべってくれるのも、
ぼくがいましゃべってるのも、
おおもとは「おもしろいから」ですよね。
例えば「それ、いくらなの?」で考えてたら、
ここに来る理由なんかないはずで。
だけど、ここにいるっていうのは、
それって「アマチュアリズム」なんです。
で、そっちのほうが価値があるとも思ってる。
- けんすう
- あぁー、わかります、はい。
- 糸井
- 「ギャランティーは100万円です」っていって、
ここにふたりで座って話しはじめたら、
きっとつまんなくなりますよね。
- けんすう
- つまんないですね。
というか、ぼくは断ると思います。
- 糸井
- たぶんそうなんですよね。
でも、もうないも同然なんですけど、
一緒にやりませんかっていうとき、
何やるかわかんないけどやろうよっていうのは、
完全にアマチュアですよね。
早起きして野球やってるみたいなもので。
- けんすう
- すごくわかります。
サイト設計も同じかもしれないです。
ぼくらの会社はマンガサービスもやっていて、
コロナが大変だったときに、
出版社が無料の漫画データを公開していて、
それをトップページにまとめて出そう
っていうのをやったんです。
じつはその仕事、
ぼくらはお客さんにやってもらいました。
- 糸井
- なるほど。
- けんすう
- 月980円払って「アル開発室」に入ると、
ぼくが毎日投稿している記事が読めて、
会社の裏側がわかるというコンテンツがあって、
それに参加してくれているお客さんほど、
そういうお仕事を熱心にやってくれたんです。
- 糸井
- うん、よくわかる。
- けんすう
- たぶん「時給1000円です」っていわれると
萎えちゃうと思うんですけど、
「この仕事に参加できます」になった途端、
みなさんすごくいきいきと手伝ってくれて。
それってたぶん「アマチュアリズム」というか。
- 糸井
- そうなんですよね。
ほとんどの遊びって、
アマチュアリズムなんですよね。
- けんすう
- あぁ、そうですね。
- 糸井
- みんなお金を払って
池のボートを漕いだりするけど、
「1000円払いますから、
ボートで一周してきてください」
なんていっても誰も行かない。
- けんすう
- 嫌ですね(笑)。
- 糸井
- そうやって考えると、
ぼくがこれまで熱心にやるものって、
どうもアマチュアリズムのもの
ばっかりだなと思ったんです。
- けんすう
- おもしろいですね。
- 糸井
- ぼくらがいままで生きてきて
おもしろかったことって、
ほとんどがそっちだと思うんです。
(つづきます)
2023-06-15-THU
-
けんすうさんが選ぶ、
インターネットのいまとこれからを
考えるための本。ふだんからビジネス本を
たくさん読まれているけんすうさん。
インターネット関連のおすすめ本を、
解説付きで5冊教えていただきました。
もっと深く知りたい方は、
ぜひ参考にしてみてください。『ツイッター創業物語
金と権力、友情、そして裏切り』(日経BP)
著:ニック・ビルトン 訳:伏見威蕃ツイッターは歴史的にみても、
かなりグダグダな経営をやっている時期が長く、
トラブルつづきの企業です。
それは、いまもつづいているとも言えます。経営、運用、技術、どれをとっても、
極めて秀でているとは言えないツイッターですが、
サービスが魅力的であるために、
世界に大きな影響を与えるようになったわけで、
とてもおもしろいなと思っています。『ソーシャルメディア・プリズム
SNSはなぜヒトを過激にするのか?』(みすず書房)
著:クリス・ベイル 訳:松井信彦ソーシャルメディアによる
影響について書かれている本です。
短い書籍ではありますが、
ソーシャルメディアによる
社会の分断についての問題から、
インターネットの希望の話まで書かれていて好きです。『ネットは社会を分断しない』
(KADOKAWA/角川新書)
著:田中辰雄、浜屋敏10万人規模の調査をして、
いまのインターネットと
社会の実態はどうなのかを調べたという本です。
インターネットによって
社会が分断されているように感じたりしますが、
実はそんなことないよ、
という内容が書かれています。『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社)
著:アダム・オルター 訳:上原裕美子依存症ビジネスについて書かれた本です。
現在のインターネットの主流である
ソーシャルメディアやゲームなどで、
依存症ビジネスの仕組みは
良くも悪くも活用されています。
ここを知っておくことで、
いまのインターネットについてより理解できるかなと。『イーサリアム
若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(日経BP)
著:ヴィタリック・ブテリン 編:ネイサン・シュナイダー
訳:高橋聡歴史に名を残すであろう
ヴィタリック氏のコラム集です。
暗号通貨・イーサリアムの考案者である彼は、
極めて頭がいいんだろうな、というのと、
それをわかりやすく美しい文章で
表現できる稀有な存在です。
インターネットを次の段階に
引き上げた人の名文がたっぷり読めます。